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全ての出発点は、子どもたちが飛び込む「未来の社会」

教育長の岩岡です。
マガジン「進メ、鎌倉ペンギン」の記念すべき初投稿は私が担当します。

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皆さんは「広報かまくら」に掲載の連載コラム「進メ、鎌倉ペンギン」はすでにお読みいただきましたでしょうか。
「広報かまくら」の連載コラムは、鎌倉市の学校教育の様々な取組やそこに秘められた思いを広く市民の方に知っていただき、鎌倉の教育を応援していただきたい!という思いから始めたものです。

実は7/1号の第1回目の連載コラムの執筆依頼が来たとき、私のそんな思いを伝えたくて、原稿の時点は掲載された倍以上のボリュームで入稿してしまいました。しかし紙面の都合上、再編集し700字程度に絞ることに。

そこで今回は、元の原稿を「完全版」としてお届けしたいと思います。

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(写真)ICTを活用した、市内中学校の授業の様子

子どもたちが毎日ワクワクして学校に行き、元気に帰ってきて、日々成長して欲しい。

これは、学校・家庭・地域共通の願いではないでしょうか。では、子どもたちは、どんな時にワクワクするのでしょうか。
まず基礎として必要であるのは、「安心・安全」でしょう。不安でいっぱいの時はワクワクできません。

安心できる環境の上で、子どもたちがワクワクするのは「新鮮な物事と出会い」、そしてそれが「自分ごと」と感じられる時ではないでしょうか。
子どもたちは普段と少し違うシチュエーションをとても喜びます。
席替えもそうですし、普段間違えない先生がわざと書き順を間違えたりすると大喜びです。新しいことを知ったり分かったりした時も子どもたちのワクワクが感じられます。

しかし、その「新鮮な物事」が自分と関係のないことだとワクワクしません。「自分にもできそう、もしこれが自分だったらどうするだろう、やってみたい」と思えないものはワクワクできないのではないでしょうか。
例えば、山脈や海流の名前を覚えようと言われて元気が出なくても、地球環境問題に対して胸が高鳴るのは、自分の将来に関わることだからでしょう。

だからこそ、子どもたちがワクワクする教育を実現していくためには、我々教える立場の人間は、子どもと同じ視点に立つことが欠かせません。
それは単に子どもの気持ちを理解し、寄り添うということだけに留まらず、子どもと同じ世代に生まれた人間になりきって、子どもが飛び込んでいく未来の社会を想像し、未来の社会で必要となるであろうことについて考えるのがとても大事だということです。

子どもにとっての「自分ごと」は、将来の社会で大人になることであり、今の社会(ましてや、我々大人が育ってきた過去の社会)で大人になることではないからです。
大人が子どもに古い社会を前提とした努力を求め、それが子ども世代の飛び込んでいく将来像と一致しない時、子どもたちは自分ごととしてワクワクできないばかりか、尾崎豊の「15の夜」のような気持ちになってしまいます。

それでは、今の子どもたちが飛び込んでいく「未来の社会」とはどのような社会でしょうか。

未来を予測するのは容易ではありませんが、政府や研究機関の様々な報告書によれば、社会の変化が劇的に早くなり、単純な仕事は機械に任せて、人間は個性を活かした人間らしい仕事に従事する世の中になると言われています。

具体的に言えば、人工知能(AI)、ビッグデータ、高速インターネット、ロボティクス、3Dプリンター等の技術があらゆる産業や社会生活に取り入れられた「Society5.0」と呼ばれる時代が到来しつつあると言われています。(図1)
こうした時代では、先端技術を活用して、人々の個々のニーズに応じた商品やサービスが次々と実現して、暮らしは便利になりますが、一方で社会の変化のスピードが劇的に早くなります。
イメージが湧きにくいかもしれませんが、すでに私たちはこの変化のスピードを感じているはずです。iPhoneが日本で発売されてからたったの13年で、ネットショッピングの普及など、世の中は大きく変化しました。
これほどのスピードで、ボタンひとつで欲しいものが次の日に手に入る時代が来ることを予想できたでしょうか。今回のコロナ禍でも、ビデオ会議システムで1年間出社せずに働いている方がたくさんいます。1年間で、会社に出社して仕事をするという社会の常識が大きく揺らぐことが予想できたでしょうか。

内閣府Society5.0

(図1) 新たな社会 “Society 5.0”、内閣府作成

また、このような時代では、一定のルールに従って同じことを繰り返すようないわゆる「ルーチンワーク」は、人間が担わない方が効率が良くなります。自動車の運転、事務作業、情報の分析、レジ打ち、簡単な構造物の建築など、記憶力・反復・正確さ・体力が必要な仕事はAIやロボットに任せた方が早く低コストにできるからです。

しかし、こうしたAIやロボットには、「どういう仕事をすれば人や社会の役に立てるか」を自分で考え、定義することはできません。
人間に残る仕事はAIやロボットにはできない仕事、例えば、自分の個性を活かして人間ならではの感性をうまく働かせ、他者と議論・協働して人間の幸福(Well-being)は何かを考え、AIやロボットをうまく使いながら、社会にとって価値のあることを生み出していく仕事であると考えられています。

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(図2)米国の世帯あたりのGDPと世帯あたり所得の中央値の比較
(青:GDP、赤:所得)、セントルイス連邦準備銀行経済統計データ集より

既に、先進諸国では、国内総生産がグングン上がっても世帯収入の中央値(全ての世帯の収入を高い順に上から並べて、真ん中の位置にいる人の所得です)が上がらないという事実を突きつけられています。(図2)
これは、既にテクノロジーの活用により、あまり人を雇わなくても、経営者は大きな富を生み出すことができる世の中に入ってきているという捉え方もできます。
新しい時代に適応した一部の子どもたちだけが将来豊かさを享受する社会になるか、それとも様々な個性や特性を持った全ての子どもたちが新しい時代に前向きに参画し豊かで持続可能な社会の担い手になることができるか、まさに今の我々の手にかかっているのです。

市では、こうした未来に生きる子どもたちが、激しい社会の変化に翻弄されるのではなく、社会の変化を前向きに捉え、幸福に豊かな社会を作っていくことができるよう、必要な施策を講じていきたいと考えています。

子どもと同じ目線にたち、子どもが大人になったときに必要になる力を見据え、市民の皆さんや様々な専門知識を持った企業・大学・NPOと協働しながら、ワクワクする教育を生み出していきたいと考えています。

ペンギンという生き物は、氷塊の端から最初に飛び込んだペンギンに続いて次々に飛び込む習性があると言われています。「進メ、鎌倉ペンギン」という今回のマガジンの題名には、「ファーストペンギン」になることを恐れずに子どもたちのために頑張っていこうという教育委員会の決意と、激動の海の中に飛び込みしなやかに泳ぐ子どもたちを育てたいという思いを込めています。今後、本マガジンでは市教育委員会や学校の様々な努力や取組を紹介していきますので、楽しみにしていてください。