かまぼこ型倉庫のルーツをたどる

七日まつり編

洋子は大人になる前に、こんな町出ていってやると、思っていた。それは、自分だけではなく、中学の同級生の多くもそう考えていると思っていた。全面中止となっている北越北線の工事再開のメドがたっていないということも、そんなムードを作っていた要因だったかもしれない。

 中学校に入って初めての夏休みは、父ちゃんの姿をあまり目にしなかった。それというのも、夏休みの終わり頃にある七日(しちんち)まつりのために、山車の機関車作りに没頭していたからだ。自分の仕事もそっちのけで、夜も遅くまで毎日、近所のおじさん連中と作っているとのことだった。

 夏休みも終わりが近いある日、同級生の加奈子の家で一緒に宿題をやっていた。勉強に飽きてきた頃、ふと加奈子が言った。

「機関車を作っているところ見に行かない?」

洋子は父ちゃんたちが熱中していることなんかになんの興味もなかった。それ以上に父親にそんなところで出くわすのがすごくイヤだった。加奈子が、

「晃一くんも毎日手伝っているってよ」

 と強いるので、それならちょつと覗いてみようかなという気になった。晃一は二つ上の先輩だ。

 現場は、暑苦しいけど活気に満ちていた。大人が十五、六人はいただろうか。そして思ったより大きなその汽車は、廃車のジープやドラム缶と材木でつくられていた。お世辞にも美しいとは思えないが、頑丈そうで、意外な材料を意外なところに使っていて、楽しげだ。子供なら二十人ぐらい乗れそうだ。材木を切るもの、タイヤを調整するもの、塗装をするもの、みんな目を輝かせ、心から作ることに喜びを感じているようだった。

 加奈子の話では、汽笛を鳴らして蒸気を出しながら、工事が中止している鍋立山トンネルから出発して、町内を走らせるということだった。ほくほく線の早期開通を願う町民の気持ちがそうさせていたのだろう。

ふと見ると、火花を散らして溶接をしているのは父ちゃんだった。その横で鉄板を押さえているのは意外なことに晃一くんだった。バチバチと飛ばす火花とかすかに感じる金属の焦げた匂いの向こうの二人が少しまぶしく思えた。

 洋子は、十年後もひょっとして自分はこの町にいるのではないか、それはそんなに悪いことではないことではないかと思えてきた。

ほくほく線が開通するのは、さらに十五年後のことであった。