かまぼこ型倉庫のルーツをたどる

雪中燧道編

 三郎は、四本目のマッチで、ようやく提灯のロウソクに火をつけることができた。湿気と手のかじかみでなかなかうまくつけることができなかったのだ。

 ここは犬伏と田沢を結ぶ雪中燧道の入り口だ。このころ、暗いトンネル内には、明かりの電灯がまだ入っていない。代わりに、両方の入り口に提灯とマッチが置いてある。

 三郎は伊沢小学校に通う六年生。今日は、親の言いつけで、となり集落までお使いをしてきたところだ。

 トンネルができるまで、多くの人が川沿いの道を歩き雪崩に遭い、川に落とされ、命を落としている。それでも、郵便物や食料品を運ぶため命がけで人々は往来していた。そして、六年もの苦労の末、このトンネルが完成している。

「おっかねえな」

まぶしい銀世界から雪のない暗闇に入る時に、少し抵抗を感じるのは、子供でなくても大人でも同じことだろう。提灯の明かりでできる不気味な影は自分の姿だと分かっていても、反響する音が自分の足音と分かっていても、暗闇にひそむ魔の仕業に思えて仕方がない。

 ふと、トンネルを避けて川沿いの危険な道から行こうと思ったが、後で親や先生から叱られるのは目に見えていた。また、自分のカではあそこを通るのは不可能だということも分かっていた。後ろから不気味な音が聞こえた。それと同時になぜか提灯の火が消えた。言うまでもなく三郎は出口めがけて走り出して走り出した。三郎がしょんべんをちびらせて家に帰ったのは、昭和三十年代の中頃のことだった。

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 田沢トンネルができるまで二十年以上待たねばならない。それまでの冬の大切な生活幹線であった。現在は訪れる人も無く、荒れ放題であるが、もったいないと思うのは筆者だけだろうか?年間の気温が安定している「優れた倉庫」として再利用できる可能性があると思われる。また、県内各所に埋もれつつある燧道巡りなどと言う観光企画はどうだろうか?地味かな?