布マスク

2020年4月1日の夜、安倍さんが全国民に対して布マスク2枚を配布すると発表した。この発表はソーシャルメディア上で、大きな批判を生むこととなった。批判とはすなわち「布マスクは無駄な上に害を為す」というものだ。

代表的批判は、朝日新聞社によるメディア上での記事だろう。

ここで記載されている重要なポイントは3つ。
1.WHOがいかなる状況でも布マスクを勧めていないこと
2.布マスクではウイルスの侵入を防げないから意味がないこと
3.5年前に英国の医学誌に発表された論文では、マスクをつけたりつけなかったりする人たちよりも布マスクをずっと着けた人のほうが感染率が高いこと

これを読んだ人はどう思うだろうか。
そこは最後に考えるとしてまずは正しいかを検証していこう。

1.WHOがいかなる状況でも布マスクを勧めていないこと
記事に出典は記載されていないがWHO上が言う「布マスクはいかなる状況でも勧めない」に該当する文献はこちらだと思われる。
https://www.who.int/docs/default-source/documents/advice-on-the-use-of-masks-2019-ncov.pdf

このドキュメントの最後に、確かにその通り記述されている。
Cloth (e.g. cotton or gauze) masks are not recommended under any circumstance

しかしこれをもって布マスクを使ってはいけないというのはそもそもの前提が間違っている。何故ならばこのドキュメントの目的は、コロナウイルスに対する、家庭及び医療機関での医療マスクの正しい利用法を示すものだからだ。

すなわち医療マスクが完全に枯渇した状態において、布マスクを利用するべきかどうかを答えていない。「いかなる」が医療マスクが枯渇した状態にもかかるのかどうか、WHOは最低限、明瞭に答えるべきである。

■まとめ
WHOは確かに布マスクをいかなる状況でも推奨しないとしている。しかし医療マスクが枯渇したとき、布マスクを使うべきかどうかに関しては明瞭ではない。

2.布マスクではウイルスの侵入を防げないから意味がないこと
記事では大きな画像においてウイルスのサイズが布の穴よりも小さいため意味を為さないという表現を行っている。 では本当に意味がないのだろうか。
文献を探したところ、2020年3月26日にECDCが医療関係者向けに作成した、ドキュメントに記述が存在した。タイトルは「医療(外科)マスク及びレスピレーターが枯渇した場合の代替え案としての布マスクとその滅菌手法に関して」
https://www.ecdc.europa.eu/sites/default/files/documents/Cloth-face-masks-in-case-shortage-surgical-masks-respirators2020-03-26.pdf
#CDCとWHOの関係性に関してはこちら

タイトル通りコロナウイルスに関して、まさにちゃんとしたマスクが存在しない場合布マスク使っていいかが記載されている。要約すると以下の通り。

・再利用する布マスクがウイルスの対策になるのかどうかに関して伝えられるガイダンスや過去の医療的調査は非常に少ないこと。
・その中で分かっていることは、布マスクは医療用マスクよりも効果が薄く、感染のリスクを増やしてしまうかもしれないこと。
・ウイルスのうち40%から90%はマスクを貫通すること
・医療マスクやレスピレーターが枯渇した時の最後の手段として使うこと

■まとめ
布マスクは40%から90%のウイルスを貫通する。また再利用することでウイルスの感染リスクを増やす可能性がある。利用するのは医療マスク等が枯渇したときの最後の手段。

以上からウイルスは布マスクの穴よりも小さいから意味がないは誤りである。但し布マスクをつけるのは最後の手段レベルである。

■3 5年前に英国の医学誌に発表された論文では、マスクをつけたりつけなかったりする人たちよりも布マスクをずっと着けた人のほうが感染率が高いこと
まず5年前に英国の医学誌に発表された論文とは何なのか。出典が無いので調べた。これである。とっても読むのが辛かったことは言うまでもない。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4420971/

この臨床ではウイルスに対して3つのグループを基にウイルスの感染率を掲示している。
MedicalMask
医療用マスクを毎日使用し且つ毎日新しいマスクに付け替えている人
ClothMask
数枚の布マスクを洗浄し再利用している人
Control

医療用マスクをつける人。布マスクをつける人。なにもしない人。混在。

この状況下においての感染率は以下のグラフとなった。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4420971/figure/BMJOPEN2014006577F2/

ここで注意すべきは、本項の批判である
「マスクをつけたりつけなかったりする人たちよりも布マスクをずっと着けた人のほうが感染率が高いこと」の表現方法である。

マスクをつけたりつけなかったりする(Control)の中には、医療用マスクをつける人も多分に含まれているということだ。従って
マスクをつけない人の感染率 << 布マスクを再利用する人の感染率
が証明されていない。

この臨床報告の中で、Controlとして混在ではなく、完全にマスクをつけない人の感染率を出せば正しい結果が出せただろう。しかし報告の中にこれに関する釈明が述べられている。平たく言えば、患者にマスクをつけるなという非道徳的な指示を出すことが躊躇われたからである。
unethical to ask participants to not wear a mask

■まとめ
マスクをつけない人の感染率 << 布マスクを再利用する人の感染率
は証明されていない。

布マスクは無駄な上に害を為すの結論

WHOは医療マスクが枯渇した時の布マスクの利用について明瞭は回答をしておらず、CDCでは最後の手段として布マスクの利用を認めており、布マスク利用者の感染率がマスクをつけない人の感染率よりも高いことが証明されていないことから、事実ではない。

ただ非常に困ったことになってしまった。布マスク(再利用)をするべきともいいきれないことである。この文章は4月1日時点での検証であるため、今後WHOかCDCによって正式にアナウンスされるかを注視すべきであろう。

最後に

現在ツイッターやメディアを中心にたくさんの情報が錯乱している。私がここまで調査するのに丸2日かかった。しかも特に布マスクに関しては医療マスクが無いときにつけるべきか明瞭な回答を持つことができなかった。

新しい情報がこれからも膨大に更新されていく以上、私たちは自分たちでこれらの正しさを一つ一つ確認していくことはできない。

自分たちで情報の正しさを確認することができない以上、誰かが発信する情報を信じるしかない。 しかし世の中にある情報の多くは、今回調べてよくわかったのだが、全体を隠した上で一部の事実だけを強調している。

やる理由はそれぞれだろう。主なものは以下の通りだ。
・政府や特定の行政を批判するため
・PVやコンバージョンでお金を稼ぐため
・リツイートなどによる承認欲求

さらにやっかいなのが、一部の事実を強調するために権威付けを行う。○○機関がこう言った。○○大学教授がこう言った。等情報の信ぴょう性を高めるために脚色されている。

社会不安の増大と共に上記の理由・手法で爆発的に増える情報が重なり合うと、インフォデミックの体をなす。そうなるともはや何を信じていいのかすらわからなくなる。 そして情報の正確性を個人で調べることは、大変困難である。

以上だ。ここまで読んでくれた人には大変申しわけないのだが、私もどうしたらいいのかはわからない。是非それぞれで考えてみてほしい。

私はお嫁さんが縫ってくれた布マスクをつけるのみである。


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