夢の受け皿

現在の日本代表の中には、海外のトップリーグで活躍している選手が当たり前のように多数含まれており、ほんとにすばらしいプレーを見せてくれる。

僕が小学生だった30年以上前は、まだJリーグも開幕しておらず、こんなにたくさんの選手が海外で活躍することなど想像すらできなかった。野球以外のスポーツでプロになること自体が考えられなかった時代だ。

「プロサッカー選手になる」という夢を描くことさえほとんど不可能だったと言える。ところがある時期から、アニメなどの人気に伴い急激にサッカー人口が増えた。それ以前からサッカーを始めていた僕は、急にみんなの話題の中心になることが増えた。子どもたちの間で、サッカーの上手い、下手が一つの評価軸になったのだ。


それから約30年経った今、「プロサッカー選手になる」という夢は、頑張れば叶えられる現実味のあるものとなり、活躍次第では、海外市場で億単位のお金が動くほどの選手にもなれる大きな大きな夢を描ける産業に成長した。


子ども達とって、友達や、親、先生といった周りの人たちに評価され、自信を持って子ども時代を過ごすことができるかどうかは、その後の人生に大きな影響を与える。
もし、周囲の評価軸が、勉強や特定のスポーツだけが評価されるような限定的な環境で、自分の得意なことがその評価の対象外だった場合、例えそれに関して飛び抜けた力を持っていたとしても、その子はそこに価値を見出せず、自信を持って生き生きと暮らすことができないかもしれない。

南丹市にあるNPO法人京都匠塾の拠点「町家工房息吹」には、毎週木曜日の放課後になると4年生から6年生の子ども達がやってくる。5年前から開催している塾「ツ・クール」に通ってくるのだ。ツ・クールでは、勉強とものづくりの両方を教えているが、子どもたちの世界に新しい評価軸を作ってあげたいということが目的のひとつだ。


ツ・クールの子どもたちはとても明るい。木工や陶芸を中心に、実際に家庭で使えるさまざまな生活用具をつくる。家族全員分のお揃いの取り皿、父の日のプレゼントに木のボールペン、寄木のペン立て、サンマ皿など。現在は木の傘立てを製作中である。
みんな鋸や金槌、鉋も上手に使いこなす。板を見て、ケヤキ、タモ、朴、桐、ヒノキなど次々と言い当てることもできる。ほとんどの大人もタジタジだ。


道具を使うとき、子どもたちの目はほんとにキラキラしている。願わくば、学校や家庭でも彼らが活躍でき、評価される機会が増えて欲しい。
そしてまた、サッカー産業がそうしてきたように、「ものづくりが得意」ということが彼らの将来を約束し夢を大きく描ける、そんな社会を用意してあげたい。


「夢を持ちなさい」というからには、将来その夢が受け止められる「うけざら」を用意してあげることが、我々大人達の役割だ。

(2015年9月 京都新聞掲載)

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