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手書き文字

まったく存在しないというわけでもないけれど、どうやら漢字やアラビア文字のようには、デーヴァナーガリー文字のカリグラフィー文化は発展していないようだ。小学校に通い始めた瞬間から何年にもわたって「漢字の書き順」を叩き込まれた日本人としては、ヒンディー語を学び始めると、どうしても「正しい書き順」とか「きれいな文字」が気になってしまう。少なくとも、正解を知っておきたい、確認しておきたいという気持ちが働く。が、日本人の先生やインド人に聞いても、「決まりはない」「だいたい左から右に…」「各文字が判別できればオケ」程度の回答しか帰ってこない。実際、そういうことなんでしょう。

とはいえ、「美文字」の概念がないかといえばそうでもなくて、youtubeで検索すると、丸っこくてポップな書き文字や、書道で言うところの行書風文字や、日ペンのようなパリッとした活字風文字などを書いて披露している人も存在する。

で、こちらは、御大アミターブ・バッチャンがGully BoyでMCシェールを演じたシッダント・チャトゥルヴェディへ送った手書きの手紙なのだけれど、目が覚めるほどに達筆。活字とは程遠い書体だけど、文字はきっちり判別できるし、ただただカッコいい。

अ णが現在の活字とは異体。いま60歳以上くらいの人は、こっちを書くことがある…んだけど、自分がいつどこで異体字について教わったのか、思い出せない。70年代の印刷物は、すでに अ を使用しているし、日本語のテキストで異体字に言及しているものが全然見当たらない…。
ल の前のニョロがなんだかわからない。他に他のバッチャン文書を探して検証してみようかな。

Siddhant-
'Gully Boy' देखी - और रहा न गया !
किसी भी Film में कलाकार को Camera के सामने साधारण रहना सबसे कठिन होता है 
आप थे !
आपकी अदाकारी पे बधाईयाँ - और स्नेह
अमिताभ बच्चन

ポイントは、タテ棒短め、ニョロニョロは大胆に! シローレーカー、全然つながってない…。でも書くところと書かないところ、ある程度法則がある。
我々は日本語の文字に引きずられて、どうしても一文字を正方形の中に収まるように書きがちだけど、全体的に流れるような美しさ。

そして、さらにポイントは、Siddhantに対してआप を使用しているところ。手紙だからかもしれないけど、超大御所が、新人俳優相手に、आप とな。
आप थे の書き方が、たまらなくかわいい。

日本語、ヒンディー語に限らず、敬語に類する表現はあるものだけれど、敬語にはいくつかの役割がある。

・相手に対する敬意を示す。これは有名。
・相手との距離感を示す。敬語は丁寧さを感じるけれど、それは同時に「親しい間柄ではない」ことの表現でもある。
・自分自身の教養を示す。これは言及されないことのほうが多い。言語によっては、自分の教養を示したいがゆえにハイパー敬語になっちゃったりする現象がある。

ともあれ、Big Bのような流麗な文字で自作のポエムをさらりと書ける、そんなヒンディー語学習者に私はなりたい。

本日のところの自分の手書き文字…。数年後には美しく書けるようになって、「ビフォー・アフター」を晒せるように精進するのだ…。


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