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ペンギンともんじゃ

初めて会ったのは病室だった
2つか、3つくらい下の女の子

初めての入院生活
会話をする度に共通点が見つかり
その子とは、すぐに打ち解けた

病室では、長話をしてはいけないから
談話スペースに移動して
何でもないお話をする日々

ひと月経って、その子と一緒に
同じ病室のおばあさんを見送った
散歩が好きな人で、よく散歩をしていた

田舎に帰って、子供と一緒に暮らすらしい
「お世話になりました。お元気で」

翌月、隣の病室の人が退院した
旦那さんが迎えにきて
二人で笑顔で帰って行った

2月になり、わたしが先に退院することになった
スーツケースとボストンバッグを持ち

「今度、ご飯に行こうね」と、約束をして
わたしはひとり、病院をあとにする


いつもの日常に戻った後も
その子と何でもない会話が続いている

数ヶ月経ち、その子の退院の日取りが決まった
「退院おめでとう」
「体調が落ち着いたらご飯に行こうね」と返信する


また数ヶ月経ち、もう外出できるくらい回復したと
その子から連絡が着た

あまり負担にならないように
「お家の近くの街でご飯を食べに行かない?」
と提案する

「どこにする?」
「何が好き?」
「食べられないものはある?」
「この辺なら行きやすい?」

「じゃあ、◯月◯日◯◯時に
 △△駅の改札で待ち合わせにしよっか」


「久しぶり」

元気そうな顔を見て安心する
駅を出て、目的地へと歩みを進めながら

「体調はどう?」と
街並みを眺めながら会話をする

「わぁー本当にたくさんあるねー」
「どこにしよっか」
「行ったことがないお店にする?」

看板 のれん 軒先のメニュー
入り口から見えるお店の雰囲気を確認しながら
二人で『これ!』というお店を探す

5分くらい歩いて、数軒のお店を見送った後
「あ、ここ良さそうだね」と
二人の声が重なった

「いらっしゃいませー」


二人で、病院食以外のごはんを食べるのは初めて

退院してからのこと

それまでのこと

時間を気にすることなく

色々なお話をしながら

もんじゃを食べた


その子をマンションまで送り届けて
「また行こうねー」と約束をする

2回目も同じ街で約束
次は、お店をはしごした

またマンションまで送り届ける
今日は体調が良いと言うから
マンションのラウンジで少しお話しをした

ラウンジから見える景色
先ほど、食べたお店がある通りもよく見える

「ねぇ。次はどの街に行く?」
「あそこはどう?」

ラウンジの窓から見える景色を眺めながら
次に行く街を決める


そして、窓から見えた街で待ち合わせをする
いつもと違って人が多いけど、すぐに見つけられた

「わたし、この街久しぶりー」
「そうなんだ。私は母親とよく来るよ」

「今日のリップ可愛いねー」
「ありがとう。この前、ここで買ったんだ。
 あとで見に行く?」
「そうだね。お茶した後に見に行こっか」


今日はアフタヌーンティーを楽しむ
少し前から、仕事を始めたと聞いていたから

「仕事は大丈夫そう?」

「うん、大丈夫だよ。
 私は夜に働く方が調子が良いんだよね。
 先生はお昼に働けって言うけど。
 お母さんも認めてくれてるし。」

「先生は一般的な話で言ってくるからね。
 夜に働く方が調子が良いなら
 それで良いじゃんね」

「今の仕事はね、元々趣味でやっていたことが、
 活かせているし楽しいよ」

「あ!あれ。この前、見たよー。
 クレジットの名前を見つけて、
 わたしも嬉しかった」

「見てくれたんだ。ありがとう。
 あのモデル動かすの大変だったんだよね」


美味しい紅茶とお菓子
会話を楽しんだ後に本屋に寄る

「あ。この作家さん。好きなんだ」
「どれ?わたし読んだことないやつだ」

「へぇー。面白そう。買ってくるねー」


次に、コスメフロアに行く

「これ。この色だよ」
「わぁ。可愛い。こっちも似合いそうだね」
「その色も持ってるよ」
「そうなんだー。そっちも似合いそう」

周りの目を気にせずに
自分のおしゃれを楽しめるようになってよかった

『あいつは食べられるか?食べられないか?』

思春期の戯言とはいえ 品定めをされ
そんな目で見られるような環境は
気持ちの良いものではなかっただろう

今は楽しそうに仕事をしているようで
そんな環境から解放されて良かったと
心からそう思う


今日もまた、マンションまで送る
久しぶりにその子の母親に会った
ちょうど、出かけるタイミングだったようだ

母親にお会いするのは病院以来だった
「いつもありがとう」
「今日もゆっくりお話していってね」

エレベーターに乗り込む


いつも通り ふたりで
ラウンジの窓から見える景色を眺めて


「ねぇ。次はどの街にする?」

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