鈴と足音

帰り道のねこ。
あばれんぼうで放し飼いのねこ。
立派なふさふさのねこ。
時々会えるねこ。

相手をしてくれたりしてくれなかったり気まぐれ。
挨拶にこたえてくれたりまるで見えてないみたいに振る舞ったり天邪鬼。

ある時から、よく会うようになった。
夜遅くにも外を歩いていた。
そして駆け寄ってきた。
いつも遊ぼうと誘ってきた。

つよい雨の日、飛び出してきた。
濡れないように車の下にもぐって顔だけのぞかせて鳴き叫んだ。

やっぱり、最近ねこの家に明かりがついていない。
夜遅くても、朝早くても、ねこは外にいた。

いつからごはんを食べていないの?
毎日ひとりだったの?
おうちの人は?

そこへ近所のおじさんがきて、飼い主のおばあちゃんが入院したんだと教えてくれた。
ごはんはおじさんがあげていた。

それから毎日、ねこに会うようにした。
会って遊んで撫でてあげた。
帰るときねこは寂しそうにしたけど、また次の日には迎えに走ってきた。
わたしの足音を覚えて遠くから鳴きながらおかえりと鈴を揺らして走ってきた。

姉が帰省してきた。
姉はずっとねこに会いたがっていて、やっと会えた。
ねこはいつも通り走ってきた。
姉にも喉を鳴らした。

「振り返ったら、どこまでもついてくるから」とわたしは姉に言い、いつものように鳴くねこを背に帰った。

姉が戻った次の朝、朝ごはんを食べているねこに会った。
あ!と言ったわたしにねこは振り返ってにゃーと言おうとしたけれど、毎日遅刻間際のわたしは走り去ってしまった。

夕方、ねこに会った。
ねこは、まるで見えていないみたいに振る舞った。
ただいまと言っても、遠くを見ていた。

毎日のように遊んでいた友だちが、ある日知らない子を連れてきた。
いつも通り少し相手をしてくれたけど、すぐに2人で帰っていった。
「振り返っちゃダメだよ」と、聞こえた気がした。
何日か続いた。
久しぶりに会えた朝。
あっ!と思った瞬間には、もういなかった。
走っていってしまった。

ある日、ねこの家に明かりがついていた。
外のごはんが片付けられていた。
朝からおばあちゃんが洗濯物を干していた。
ねこはその傍らにいた。

仲直りをしよう。
わたしたちは家族じゃないけど、ときどき、まちがってしまうけど。
また会いたい。
ごめんねと言いたい。よかったねと言いたい。
もうさみしくなくても、他に大事な場所があっても、足音と鈴の音を合図にまた、会おうよ。