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竜の目

story 黒闇 「竜の目」

「クポポ~~」
元気の良い挨拶と共にレターモーグリがパッと目の前に現れる。
気配は少し前からあったので、特に驚く事もなく。
精霊や妖精達の気配は人より感じ取る事が出来る身である。
「ちょっと焦げ臭いクポ…でも、モグのせいじゃないクポ…」
しなっと垂れるポンポン。
こちらの顔色を窺いながら小包を差し出して来た。
「案じずとも分かっておるよ」
心配顔のモーグリに微笑みかけると、そう言って両手で丁寧に受け取り、その場で包みを開く。
小さな黒い塊がコロコロと数粒入っている。
一緒に覗き込んで来ていたモーグリが送り状を取り出して読み上げる。
「品名、キャラメル………クポ…」

面識はないが私には兄が居て、人間界で英雄と呼ばれている。
興味が出てエーテルを辿って少し見てみたのだが、なぜにあやつが英雄などと呼ばれているのか…皆目分からなくて酷く混乱した。
以来、暇を見付けてはコッソリ兄の意識に潜り込み、彼がこれまでにどこで何をして来たのか、彼の記憶を用いて追体験している。
―今の所、彼が英雄と呼ばれる理由は分かっていない。

いつからか人間そのものにも興味がわき、人の姿をミラージュプリズムの様な方法で被せ、人の街へ行くようになった。
シルフ族の"変化のおまじない"と言っても良いかも知れない。

人の姿を借り、ウルダハにテレポで降り立つ。
薄暗いオニキスレーンを採掘師ギルドへ向かって歩いていると、ゴブレットビュートへ抜ける脇道がある辺りで見知った顔を見付けた。
「イルディ・ゴルディさん!」
やぁと手を上げて挨拶をする。
パンパンになった麻袋の山を前に、原石の仕分けしているララフェル族が手を止めて振り返る。
「おう、アンブラか。今日はどうした?アダルベルタに用事か?」
その問い掛けに横にゆっくりと首を振る。
「いいえ、市場に流す前の良き原石いしがあれば…と」
イルディ・ゴルディの手元を見ながら答える。彼が持つ石こそがソレだ。
イルディ・ゴルディも自分の手中の原石を見る。
「色をお付けしますので、何卒…」
琥珀色をした猫目の様な双眸は細められ、唇は口角を上げ綺麗な弧を描く。

「ほほっ…」
口元を手で覆い、先程のイルディ・ゴルディの反応を思い出して笑う。
見た目と所作のせいか、度々女に見間違われる事から、こうすれば大体言う事を聞いてもらえると学習済みなのである。
相場よりやや多いギルを渡すと、好きな原石を幾つか持ってって良いと言われた。多種ある中からシトリンの原石を幾つか持って来た。

シトリン…星6月の誕生石であると共に、霊4月3日の誕生石の1つでもあるらしい。

光射せばアンブラの琥珀の瞳は黄水晶に輝く。
自身の瞳に似た石を、この不純物の中から取り出す事にした。

まず、ハンマーで不要な部分を砕く…

⸜パリーン⸝‍

粉微塵に砕け散る原石。
グリップから折れ、吹き飛び壁に突き刺さるハンマーヘッド。

「んん"!」
ハンマーを軽く1回振り下ろしただけである。

竜として育てられた自分。そう、私は人ではなかった。エーテルの半分は人のものではあるが、体は竜なのだ。
見た目は兄と良く似た人の姿になっているが、竜の中でも取分け巨躯を誇るドラゴンのウィルム族なのである。その力もさることながら、そもそもの重量が凄まじい。
まだまだ生まれて間もない幼竜の自分でも人の数倍ある。

「失念しておった…」
文字通り頭を抱える。
最早砂になった原石を掃き捨て、余分に貰っておいた原石と新しい工具をカバンから出す。

今度は、しっかり握らず指先でつまむようにしてハンマーを持つ。
「フゥー…」
息をゆっくり吐き、力を極力抜き振り下ろす。

今度はどうにかこうにか磨き上げる所まで出来た。
しかし、これ以上は無理な気がしている。
不器用なつもりはないが、金属加工など竜の力で行えるとは思えない。
人の四肢はあまりにも細い。
人の小指の爪サイズになったこの裸石ルースをあしらって作れる装飾品など、今の自分では到底作れないだろう。

丸く削り磨き上げたシトリンは、まるでじぶんの目のようだ。
まだ幼く、最も魔力が溜まりやすい目にすら大した魔力は溜まっていない。
やるなら我が目より、この裸石の方がマシであろう。

あの底抜けに快活で前向きな娘にはシトリンが合うに違いない。

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