Colorful Feeling
*** FF11のメインキャラ、フロィエ(ゲーム内通称:黒モジャ)の話
*** 当時ひたすら裏に通っていた事への理由付けストーリー
登場人物
・ネーロスオーロ【タルタル♂】
┗フロィエの父
・チエーロロ【タルタル♀】
┗フロィエの母
・ヴァイス【ヒューム♂】
┗ネーロのPTリーダー
・マルグリット【エルヴァーン♀】
┗ネーロのPTメン
始まりのミッション
時は天晶暦856年。
クリスタル戦争勃発より6年も前の話。
しかし、この時すでに"闇の王"なるものの存在について、ウィンダスでは実しやかに噂されていた。
ウィンダスで有名な【学者】であり、高レベルの【白魔道士】でもあるタルタル族のネーロスオーロは、先日婚約したばかりの【赤魔道士】にして【黒魔道士】であるチエーロロと共に星の神子の元へ召喚された。
代理の守護戦士からではなく神子自らが、"闇の王"について敵地へ赴き確かな情報を持ち帰って来いと言うミッションを二人に出した。ウィンダスだけでそう言う調査をすると、バストゥークやサンドリアが後からケチを付けて来るので、先に二国を回って調査隊を組むようにとも。
こうしてネーロとチエーロロの旅は始まった。
*****
旅の合間のひと時の休息。相方のチエーロロは既に寝ている。起きているのは体力が残っている、私ネーロと他2人。
「そりゃ…何て言うか、ある意味【狙い撃ち】なタイミングだな!
もうコレが婚前旅行―って言うか新婚旅行で良いんじゃないか?w」
ミッションの話を聞いて、はっはっは!と笑いながらそう言ったのは、ヒューム族の少年…いや青年…?どちらで表現するのが良いか迷うような顔立ちの今回の旅のパーティリーダー、ヴァイス。見た目は子供のようだが、サンドリアで同行する事になった長身種族であるエルヴァーン女性と背が大して変わらない。短かめの金髪をツンツンに尖らせ頭のてっぺんで固めている。
彼のジョブはバストゥーク出身者にしては珍しく【ナイト】。しかも【踊り子】のテクニックも身に付けている変わり者…と言ったら、本人は拗ねてしまうのだが…
「やはり【仕事】ではなく、プライベートで旅したいわよね~?」
穏やかな笑顔でそう言うのは、サンドリア代表として同行しているエルヴァーン族の女性で、名はマルグリット。明るい茶色の髪を風になびかせつつ愛剣の手入れをしながら聞いて来る。そんな彼女のジョブは【シーフ】…の技を使える【戦士】だそうである…
メンバーは他にも居るのだが、別行動中。大人数で歩き回っても目立つし、万が一があってもいずれかのパーティが生き延びれば情報は持ち帰れる。
ウィンダスを発ってから既に1年が過ぎている。
本国に居る同胞からの情報では、どうやらカラハバルハが厄介な召喚魔法の研究を始めたらしい。しかも、院の禁術に触れたとか何とか…獣人達の動きがきな臭い今、何をしようとしているのか…
我々の必死の調査で、"闇の王"なる者は実在する事が分かった。そして、その者と配下は忌まわしい呪われた北の地に居ると言う。2年前に三ヶ国合同調査隊が消息を絶ち、我々が今居るこのザルカバードに…
「まぁ…プライベートでチエーロロと旅をしてみたいとは思うが…」
いったん言葉を切って、分厚い雲に覆われ今にも雪が降り出しそうな空を見上げる。
「難しいだろうな…私達がここまでに得た情報によれば…この後すぐにでも獣人同士で大きな戦いが起こる…闇の王の軍勢と今ここに一番多く集まっているオーク共との戦いが…」
自分の言葉を聞いて、ヴァイスとマルグリットは二人してため息を付いた。ため息を付かれても…仕方が無いのだが…獣人同士の、この戦いは我々ではどうしようもないのではないか?せめて巻き込まれないようにするぐらいしか…
クリスタル戦争
我々の今回の調査での報告から数ヵ月後、私がいつぞや言った通り北の地で闇の王軍とオーク帝国軍の戦いが始まった。
百蛮戦争である。そして、次々と闇の王軍は勝利を収め、獣人達を支配下に置いて行った。
暗いニュースが溢れ出した中、私にとって非常に喜ばしいニュースが1つ。何と娘が生まれたのである。天晶暦858年の事だ。こんな時代でなければ…と思わなくもないが、何が何でも守れば良い。
丁度その時、当時の仲間がウィンダスに揃っていたので、名付けを我々の調査パーティのリーダーだったヴァイスに頼んだ。
フロィエ。バストゥークの言葉で【喜び】と言う意味があるらしい。愛称は、そこはタルタル女性っぽくフロロ。
*****
育児に追われ、日々はあっと言う間に過ぎ去り天晶暦860年。
簡単なミッション等で国外へ出る事はあれど、昔のように年単位で家に戻れないと言うような事はなかった。
家に居る時は、なるべく闇の王調査パーティメンバーと分けたリンクパールを持つようにしていた。彼等とは今でも頻繁に情報のやり取りをしている。
サンドリアへ戻ったマルグリットが、しばらくして孤児だったと言う養女を連れてウィンダスへ移住して来た。マルグリットの連れて来た子はフロロより1つ年上らしかった。
名はトラウム。マルグリットに似た茶色い髪の可愛らしいエルヴァーン族の女の子だ。マルグリットもヴァイスに名前を決めてもらったらしい。ヴァイス曰く、トラウムとは【夢】と言う意味らしい。
*****
ある日、鋼鉄銃士隊に入ったヴァイスからリンクパールに連絡が入った。久々の連絡だったのだが…聞きたくなかった内容であった…
『ネーロ!チエーロロとマルグリットも今一緒か?俺だ、ヴァイスだ』
リンクパール越しだと声音は分からないハズなのだが、なぜか酷く焦っているような、辛そうな感じの彼の【声】がパール越しに私の頭の中に響いて来た。
『ネーロです。久し振りです、ヴァイス。二人とも別室で子供と一緒に居ます。どうしたんですか?』
『……』
しばしの沈黙の後、ヴァイスはゆっくり話し始めた。
『ミスリル銃士隊からの情報なんで、これは確かだと思うんだが…
闇の王の居城、ズヴァール城が完成したらしい』
【えっ!?】
『それで城に獣人共を集めている…近々、俺等への攻撃を開始するんじゃないかと言われている……』
何と言う事だ…
『フロちゃんとトラちゃん…もしもの時は、俺の生まれ故郷…グスタベルグの山間の小さな村なんだが…そこならまだ安全かも…』
………戦争が始まるのか…獣人達との…
『…ネーロ、聞いてるか?』
『あぁ、聞いてるとも…聞きたくは無いが…聞いているとも……』
*****
ヴァイスからの情報の通り、その翌年に我々の壊滅宣言が連中から出される。国内では戦いに備え、ゾンパジッパが開発したカーディアンを急ピッチで増産。私もチエーロロも戦闘魔導団へ召集される。
天晶暦862年4月…クリスタル戦争勃発。
同年5月にマルグリットの故郷サンドリアがオーク軍に包囲され、激しい戦いになる。これを受けてマルグリットは幼いトラウムを連れヴァイスの故郷の山村へ。フロロも一緒に連れて行ってもらうべきだったと後になって後悔する。マルグリット自身は戦うためにウィンダスへすぐ戻って来た。
7月にヤグード教団軍に我が国が襲われる。その後も聖都は獣人軍に蹂躙され、甚大な被害を被った。
残暑厳しいある夏の日、戦友のマルグリットがヤグード教団軍との戦いで命を落とす。
11月、多国籍教導部隊が結成される事になり、私もチエーロロもその部隊に組み込まれる。その部隊の名はハイドラ戦隊。アルタナ連合軍の中でもずば抜けた能力の持ち主が集められた部隊らしい。我々は、代表16名からなる各武具のエキスパート達の補佐を勤める事になった。
この頃から幼いフロロは、知人宅に預けっ放しになってしまった…
*****
年は巡り、ザルカバード会戦にも我々は勝利し、いよいよズヴァール城攻囲戦が始まろうとしていた。それに向けて連合軍よりレリック装束が支給される事となり、久々にウィンダスへ帰国した。
真新しい装束に身を包みながら、その様子を黙って見上げたまま直立不動になっている愛娘を見下ろす。フロロの隣には赤魔道士のレリック装束を身に着けた妻チエーロロが居る。
私もチエーロロも、フロロと生きたまま会うのは最後になるかも知れないとどこかで感ていた。服を着終わった私とチエーロロ、フロロの三人は、随分と長いこと黙したまま手を繋いでこの戦いの勝利を祈った。
この時、フロロはまだ5歳だった。
7月…ズヴァール城攻囲戦が開始される。長く激しい戦い。
そして…真夏のある日、悪夢は起こった。
デュナミス
ハイドラ戦隊として従軍して久しく。みなの疲労はピークに達しようとしていた。
私は根っからの後衛ゆえか厳しい北の地での戦闘で疲労が溜まり、最近は第一線より後ろに控えるようになった。勿論、前衛陣への魔法による支援は体力魔力が続く限り行っている。今は軽い怪我と疲労のために前線から少し後退した場所にあるキャンプの外れでヒーリングしている所である。
*****
私のメインジョブは学者だが、白魔道士としての修行も積んでいるので、怪我人が後退して来た時はすぐに治療を施す。後方支援ジョブだが、戦隊のリーダー達が集まって行う【作戦方針】を決める会議には軍学者として出席していた。
ただ、学者の命とも言える魔道大典グリモアは自宅に置いて来ていた。殆どの内容は頭に入っているが魔道大典のいくつかの項目を引き抜いて作った戦術魔道書は携行している。これだけでも学者は十分に戦えるのである。いつかフロロが大きくなって学者と言うジョブに興味を持ってくれたら、自分のグリモアを読ませたいと思ったので置いて来た。
きっと私とチエーロロの子だから、筋の良い魔道士に育つに違いない。その成長の過程を…我々は見れるのだろうか………
チエーロロも根っからの魔道士なのは私と同じだが、こちらは魔法の威力を高めるのに情熱と金を惜しみなく注ぎ込む戦闘狂ゆえ最前線で戦い続けていた。
ある時は黒魔道士として、前衛の背後から峻烈な炎で襲い来る敵を焼き払う。または凍てつく冷気で飛びかかって来る敵を氷像へと変える。またある時は赤魔道士として、メンバーに回復魔法や強化魔法を連続魔でも発動させているかのような速度で的確に飛ばす。
怯懦で知られるタルタル族にあって、チエーロロはとても勇敢で明るい性格だった。いつも元気が良く、彼女が居ると自然と周りに笑顔が溢れる…そんな人。苦しい戦いの中でも、彼女の太陽のような性格に救われていた人はきっと多かっただろう。
*****
体を休めていたら、突然自分の周囲に濃い影が落ちた。いや違う…闇に包まれた…?
「何が…」
起こったのだ?と言う声は、仲間達の叫び声によって止められた。こちらからはまだ周囲が見える。暗闇の中だが、どこかに光源が残っているのか…
急いで立ち上がり前線へ向かおうとするが、おかしい。声は聞こえるが、突然近くなったり遠くなったり…距離が定まらない。走り出そうとして、走り出せずにたたらを踏んだ。
前衛達が居たはずの場所は、そうこうしている間に闇に覆い尽くされてしまった。もはや何者の声も私には届かなかった。
闇がこちらへ近付いて来る。それと同時に方向感覚が失せる感じが強まる。自分が向いてる方角も分からなくなりそうで、背後を振り返ってみる。
「…まだ、こちらは大丈夫なのか」
何となく声に出して背後の状況を確認する。
幸いと言うか何と言うか、私だけ少し離れた位置で休んでいたため、一気に闇に飲み込まれずに済んだようだ。
仲間の安否は気になるが、正体不明の闇が迫って来ると言う恐怖もあって足が前へ進まない。恐慌をきたしそうになる自分をどうにか叱咤し、何が起こっているのかをハッキリさせねばと迫る闇に目を凝らす。
魔力の流れに敏感な魔道士である私には、上空に潜む者の姿がかすかに見えた。それは禍々しくもあり、神々しくも見えた。
記憶が正しいのなら、あれは夢を司る霊獣…
「ディアボロスなのか…」
昔、書物で読んだ事がある。しかし、その書物には"詳しい事は分かっていない"と最終的に書かれていてた。
どうすれば良いのだ………
これは役に立たないなと思いつつも読破した書物の内容を必死に思い出そうとするが、迫り来る闇に意識を奪われ、いつものように必要な情報がすぐに引き出せない。
焦るな!焦るな!と何度も口の中で唱える。
どうにか集中すると、いくつかの単語が頭に浮かんで来た。デュナミス、虚ろなる闇、争いの無い理想郷……
突然ドスッ!っと低い音がすぐ後ろから聞こえた。振り返ると、はぐれらしいデーモンが1体。矢を番えながら、こちらを睨んでいた。
む…矢…?背中にそっと手を当てる…
「ぅっ」
自分の長所でもあり短所でもある。何かに集中すると、それ以外の一切が意識外に追いやられる。そのせいで自分が矢で射られた事にすら気付いていなかった。
一度意識すると背中に燃えるような痛みが襲ってきた。
ディアボロスの闇の事は後だ。先にこの狩人らしいデーモンを何とかしなければ…!
痛みを堪えつつアポロスタッフを振り上げるが、向こうの行動の方が早かった。2本目の矢が今度は右の鎖骨下に突き刺さる。
「ぐああっ!」
激痛にどうしようもなくなって杖を落とすが、聞こえるはずの杖が地面に落ちた音が聞こえなかった。
闇が足元を這うように覆っていた。
もうダメなのか…デュナミスの闇に囚われるのが先か、あのデーモンの矢に射殺されるのが先か…
いや、ダメだ…それじゃいかんのだ…!
「フロロ…チエーロロ…」
囚われるわけにも、殺されるわけにも…
「いかんのだッ!!」
アルタナの女神よ!どうかどうかッ!私に生きるチャンスを―!
強く願った直後、淡い緑の光が自分を照らした。その時、ディアボロスがこちらを見たような気がした。だが、それには構っていられない。
突然の光に驚いたデーモンは、両腕で顔を覆うようにして2~3歩後退した。
矢は体に突き刺さったままだが、アルタナの【女神の祝福】を受け、痛みを感じない。意識を集中すると目の高さ辺りの空中にパッと白いグリモアが現れた。グリモアに更に強く意識を向け、手を使う事なく高速でページを繰る。そして、とある箇所でピタッと止める。開かれたページには【電光石火の章】の見出し。既に一字一句完璧に暗記している。一瞬だけ本を見、すぐにパタンと閉じる。
これは白魔法のスペルの一部を省略して詠唱する為の技術で、この術を用いた白魔法は通常の半分程の詠唱時間で済むのである。
「心安らかなる光の揺りかごの中で昏々と眠るが良い、デーモンよ!【リポーズ】!」
どんどん濃くなる闇の中に現れた真白な光の玉。光の玉はスーッとデーモンの頭部に吸い寄せられる様に集まり、更に強い光の塊となった。そして、光は集束して行き、デーモンの中へ消えた…辺りは再び闇へ。
数秒、ジッとデーモンを見つめて様子を見る。
寝たか?寝ているな?!
すぐにウエストポーチに手を突っ込み、手探りで1枚の羊皮紙を取り出す。ただの紙切れではなく、これはホームポイントへの帰還魔法【デジョン】の魔法が封じられた特殊な羊皮紙【呪符デジョン】。どうせ使うのなら、戦いを終えて本国へ帰還する時に使いたかった。
デジョンを発動させる為に必要な魔法力は羊皮紙に込められている。私自身への負担は殆ど無い。非常に助かる。女神の祝福によって一旦は全快した体力だが、突き刺さったままの矢の痛みは半端ではないし、そこから流れ出した血も戻ってはいない。体はフラフラと左右に揺れている酷い状態だ。
こんな状態では魔法など唱えられるわけが無い。羊皮紙の魔法力を開放すべく、呪符を握りしめた手に意識を集中させる。呪符から高まって来た魔法力が溢れ出して来る。もう少しでデジョンが発動する。
もう地面に立っている感覚すらない。痛みのせいなのか、デュナミスの闇が私の足を既に捕らえているせいなのか…そして、前後左右の感覚を失う。
初め呪符にデジョン分の魔法力が溜まり、私を包み込んだのだと思った。だが、違う…デジョンなどの移送魔法特有の浮遊感とは違う。
デュナミスの闇が私を絡めとる。逃すまいと。
あと少しなのだ…あと少しでデジョンが発動するのだ!死に物狂いで自らの魔法力も込めようと手に意識を集中する。
突然ズガガガガーンと轟音が響いた。何だと思う間も無く物凄い衝撃を受け吹き飛んだ。握り締めた呪符は気合で離さなかった。
視界の端に一瞬だけ映ったデーモンの姿。矢を撃ち放った直後の体勢…その威力から、放たれたのは狩人最強の一矢【イーグルアイ】。
木っ端の様に長距離を吹き飛ばされ、硬い岩壁に背中から叩き付けられる。岩壁…?不幸中の幸いか、イーグルアイの衝撃でデュナミスの闇に侵食されたエリアから脱したようだ。
だが、急速に私の意識は失われようとしていた。手の中には、まだ呪符がある。気力を振り絞り最後の力で魔法力を込めた。
デジョン特有の地面から浮遊する感じが全身を包み込んだ。帰れる…ウィンダスへ…
*****
まぶたの裏から光を感じる。真っ白な世界。方向感覚など何もないが、デュナミスの闇のような恐ろしさは全く感じない。
誰かが私の体を揺すっている気がする。小さな手だ。自分を呼ぶ幼い声も聞こえる気がする。
戻って来れたのか。ホームポイントにしてある自宅の庭に。
顔が見たいのに目が開かない。声も上手く聞き取れない。腕も上げられない。指も動かせない。ここまで帰って来て…何も出来ずに終わるのか…
「フロロ…」
私の声は【声】として伝わっているだろうか?それすらも、もう分からない…それでも伝えねばならない。
「私以外…デュナミスの闇に囚われた…みな…ディアボロスの……作り…した………」
急速に目の前が暗くなっていく。何も見えず、何も聞こえず、全ての感覚が失われた。
*****
天晶暦863年8月某日―ハイドラ戦隊失踪。
ウィンダス連邦きっての軍学者ネーロスオーロは、デュナミスの闇に囚われる事無く帰還した唯一のハイドラ戦隊隊員。
しかし、帰国後すぐ一人娘の前で力尽きる。
*****
『デュナミスの闇に囚われた』
あくまで、その【闇】に捕まったって事で…もしかして、死んだわけではない?生存の可能性……?
「フロ~!」
思案していたフロィエは、ドアの向こうから名を呼ばれて思考を止めた。
「今、行くたるぁ~ッ!」
外に向けてそう言い放ち、緩めていたソーサラーコートの襟を直す。戦時中、母チエーロロに支給された物らしい黒魔道士のレリック装束は自宅にそのまま残されていた。現在は自分が着ている。
デスク上に置かれた綺麗な青いシェルを掴む。新しいリンクシェル。中にはシェルと同じ色をしたパールが幾つも入っている。そのパールを幾つかずつに分けて小さなサックに入れる。
デュナミス攻略。どう言うめぐり合わせか、自分がその攻略チームのリーダーをやる事になった。
母の手掛かりが一つでも見付かれば…いや、むしろ囚われている母を…母の魂を開放できれば…逢えるのだろうか…
いや…今考えてもしようがない事と気付いて、首を振る。
「冒険者は引退したはずなんだけどなぁ~…」
誰にともなくそう呟いて、フロィエはサンドリアのレンタルハウスから出た。
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