徒歩○○分の，冒険のすゝめ

　ふと，無性に刺激が欲しい時がある．

　特に普段の生活に不満があるわけではないが，家と仕事場との往復になりがちな平日を過ごしていると，どうしても何か新しいワクワク感が欲しくなってしまうものだ．
　友達を誘って居酒屋に行くでもいいし，YouTubeをあさって何かピンとくる動画を探し当てたりするのも悪くないが，私の場合は，特に行く当ても決めずに近所を歩き続けることでワクワク感を得ている．
　これが意外と新鮮な刺激を提供してくれるのだ．

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　私が贔屓にしているアーティストであるB'zの曲で，こんな歌詞がある．

「ドライヴしよう知らない世界へ
    道路地図なんかは見ないで
　家へと曲がる角を反対に曲がったらいいよ
　夕暮れのセブンイレブンから
　神社をすぎ　深い森まで
　気持ちの続く限り　oh　さみしくない
　道も続く」
（『drive to MY WORLD』 -B'z）

　まさにこのような心境である．
　単なる散歩でもいいし，仕事場からの帰り道でもいい．普段見慣れた街並みをうまく遠ざけて見知らぬ道を選びつつ歩くのである．これがまた癖になるのだ．
　自分の家からそこまで離れていないはずなのに，まるで異世界に迷い込むことが時たまあるからである．

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　ある夜，近所の川沿いを反対方向に歩いていた．閑静な住宅街で猫一匹いない．しばらく歩いていると，遠くの方に妙に馬鹿でかい建物がある．もう真っ暗だというのに，その建物の屋上付近が必要以上にギラギラと点滅しており，明らかに異彩を放つ圧倒的な存在感だった．
　近づけば近づくほど，ますますその妙な建物は私の前に立ちはだかるように聳え立っており，何かの秘密結社のアジトなのではないかと錯覚してしまうほどだった．畏怖の念さえ起こしかねない不思議なオーラを放っていた．

　あまりに気になったので，家に戻った後調べてみると，その正体は30階建ての高級タワーマンションだった．昼間に改めてその場所に行ったが，なるほど確かに不動産のチラシでよく見る何の変哲もないタワマンだった．夜真っ暗になるとあれほど雰囲気を変えてしまうものなのだろうか．

　近所だからといって，我々が把握していることは案外少なかったりする．せいぜい，通勤通学で使う道しかよく分かっていない．北側の徒歩10分圏内は大体詳細までつかんでいるけれど，南側はさっぱりだという人もきっと少なくないだろう．
　そのような人は，刺激が欲しいとなったときに，何も無理に有休を使って遠くへ行かなくても，実は自宅周辺の散歩で簡単に冒険出来てしまう．

　パンが美味しいおしゃれなカフェ，緑が生い茂っているだだっ広い公園，こじんまりとした個人経営の激安スーパー，荘厳さの漂う小さな神社，地元の住民に愛されている図書館，…
　お馴染みの道から少し外れて，気の赴くままに歩を進めていると，これまで自分が知らなかったスポットに意図せず出会うことがあり，いつしかそのスポットの常連になることだってある．こうした偶然な出会いに恵まれて，普段の日常に新たな彩りある習慣が始まることも，この半径徒歩○○分の冒険の醍醐味といえる．

　家に帰りついて少し時間を持て余した際は，家を飛び出してみてプチ冒険に出かけてみてはいかがだろうか？