「何でも手に入ってしまう」時代になった今,時間が貴重な資源になる

 日本はいつからか,ずっと経済成長への糸口をつかみきれないまま,長い間低迷期を彷徨っている.
 現在の国民の平均年収の水準は,約20年前の水準とほぼ同等というデータもあるようだ.もはや日本は先進国から転落したのだと嘆く人も珍しくない.ニュースでも心なしか,あまり元気のないものばかりが報道される.

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 しかし個人的には,生きるために必要なものであったり,生活に彩りを与えてくれるものはだいぶ手に入りやすくなったと感じている.
 例として,必需品の代表格である衣食住の話から始めてみよう.

 まず衣では,ファストファッションの盛り上がりによって高品質な衣服がかなり低価格で手に入るようになった.
 先日あるアパレルショップにて4000円ほどでジーンズを購入したが,予想以上に生地がしっかりしており非常に驚いた.加えてここ数年でファッションEC市場も急激に成長を見せると同時に,ZOZOを筆頭に各社とも価格競争・品質向上にしのぎを削っている.こうした血のにじむような企業努力の甲斐あって,質の高い衣類に簡単にアクセスが出来るようになった.
 

 食に話を移すと,「フードシェアリング」という新たな概念が登場し,レストランなどで出た売れ残りを格安で提供するサブスクリプションモデルのサービスが登場し始めている.まだ数自体は少なく利益を出すのも難しいビジネスであるが,これがより普及すれば,食費を一定額で済ませることが出来る.今後もますます食を確保するハードルが下がってゆくだろう.

 住においては,空き家をうまく活用し低価格のシェアハウスを提供するなど,住まいに関するサービスが多く登場している.直近では,インド発のホテルベンチャーであるOYOが日本の不動産業界に参入し,初期費用を抑えスマホで契約を完結させる画期的なサービスを発表した.こうした活発な動きにより,家賃を抑えて住環境を確保する方法が以前に比べ多様化した.
 それでもやはり東京近辺は依然として家賃が高いが,地方都市の不動産を検索してみると,駅近で築年数が一桁年でも東京の相場の半額以下の物件が結構多くヒットする.場所にもよるが,500万円ほど用意すれば購入できる家でさえ結構存在する.
 不動産価格の下落が続いていることの証左でもあるので一概に喜ばしいことではないが,少なくとも借りたり買ったりする立場から考えるとだいぶハードルが下がったような印象を受ける.

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 もちろん衣食住だけではない.人生に彩りを与えるコンテンツが多く出現していることにも言及せねばならない.むしろ,コンテンツの進化の方が顕著だろう.

 まず格安SIM・スマホの普及によって,誰でも簡単にネット環境にアクセスできるようになった.私もこれを利用したおかげで,通信費を以前の1/4以上に抑えることが出来ている.
 ネット環境に常時アクセスできる環境が整ったということは,娯楽となるコンテンツにも簡単にアクセスできることも意味する.今や無料あるいは安価で様々なコンテンツを楽しめる.


 YouTubeで動画を楽しんだり,ニュースアプリやメディアサイトで気になる記事を読んだり,e-learningサービスで幅広い分野を勉強したり,amazonプライム会員になって莫大な恩恵を享受したりできる.
 先週,古典や良書の概要をマンガで楽しめる「まんがで読破」シリーズが、kindleで1冊11円で売られていたことに衝撃を受け,片っ端から買ってしまった.
 今書いているnoteだって,アカウントさえ作ってしまえば,サーバー構築・ブログ開設をすることなく無料で記事をすぐインターネット上に公開できる.
 プログラミングに興味があるなら,相応のスペックを備えたPCさえ準備できれば無料で環境を構築できるし,無料でプログラミングを学べるサービスを利用でき,実装したアプリを公開できる.
 旅行もかなり安価で楽しむことが可能になった.LCCの発達やairbnbの登場などで移動手段・宿泊場所を利用するハードルが下がり,数多ある旅行関連のサービスを駆使すれば,誰でもワクワクするような旅行を楽しむことができる.


 ここまで思いつくものを色々と書いてきたが,ここ数年の驚異的な変化で,単に衣食住の確保ばかりではなくレジャーまでも簡単に楽しめる環境が整ったと感じている.
 むしろ,あまりに娯楽が溢れすぎて,全部消化することなどまず不可能と思うほどにまで成熟しきった印象さえ持っている.

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 そんな,もはや「何でも手に入ってしまう」時代において,今後は何が一番価値をもちうる資源になりうるか.もう多くの方が気付いていることではあろうが,やはり時間だろう.

 人類はこれまで素晴らしいテクノロジーを世に生み出し,便利で有益で画期的な発明を次々に生み出したが,それでも時間の絶対量を増やすことはできなかった.時間を消費するものはどんどん生まれていくのに,時間そのものを生み出す方法は一つとして無いのである.

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 少し話が変わるが,私の場合「出来なかったことが出来るようになる」「知らなかったものを知れる」「分からなかったものが分かるようになる」といった経験をすると,喜びや幸せを大きく感じると最近気づいた.

 単なる消費活動にはどうしても効用の収束値があるようで,ある程度の水準を超えると,限界効用逓減の法則にしたがってお金の多寡が幸福度の向上に寄与しなくなる.
 しかし,先述した3つのことを経験すると,消費活動では手にしえない満足感や幸福感を味わえるのだ.例えば,新しい技術を勉強する過程でつまづいていたところが,ある日突然ふと手に取ったように理解できたとき.本を読んでいて,それまで全く知らなかった観点を手にすることができたとき.カラオケで1年前は全然歌えなかった難曲を形にできたとき.そうしたときに大きな喜びを感じる.


 しかし,この無上の喜びを感じるためには,相応の積み重ねの時期がどうしても必要だ.そして,その積み重ねの時期を確保するということは,すなわち多くの時間を確保することと同義なのである.

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 あくまで個人の予想であるが,時間の必要性は,私だけでなくいずれ多くの人が課題となることだろうと思っている.自分の見識を広げたりエキサイティングな刺激を楽しむ時間をどう捻出するかが今後のカギとなるだろう.

 「いずれ人工知能が発達し,人間は仕事を失う」という言説をよく聞くが,正直私は懐疑的である.単に私が勉強不足なだけであればいいのだが,現状を見る限り各業界とも人手が足りないと聞く(よく学生時代の同期で飲みにいくが,どこも本当に人が足りないらしく,ギリギリの人数でなんとかやりくりしている状況のようだ)し,人間の頭脳労働をAIがどう代替していくのか,それを実現するためにどうシステムを設計していくべきなのか,具体的にイメージがわかないからである.
 もし今後AIが人間の労働をそっくり代替してくれるのであれば,それは本当に歓迎すべきことだと思っている.時間の重要性は高まっていく一方であるし,人手不足の解消は喫緊の課題になっていきそうなので,テクノロジーの進歩が一気に進むことを願うのみだ.

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 かつては,いかに多くお金を稼ぐかが最重要課題であったが,今はその価値観がだいぶ薄れてきた.テクノロジーの勝利でモノ・コンテンツにアクセスする金銭的ハードルが以前よりはるかに低くなっている.
 これからは自由な時間を確保して,個々人の興味・知識・技術を広げ積み重ねていけるかが重要テーマになっていきそうである.
 私も少しでも多く時間を確保するために工夫をこらしつつ,いろんな楽しいことに首を突っ込んでいきたい.

いつもお読みくださり、ありがとうございます。今後とも、ふと思い立ったときにお立ち寄りください。 何か一つでも誰かにピンと来るような言葉を、これからも紡ぎだせるよう精進します。