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ハゲワシに 眼球突かれ インフェルノ

会社の昼休みが終わり、満腹になった腹を右手で擦りながらオフィスへ戻ろうと街路を歩いていると、突然ポケットの中で携帯が振動した。
右手で取り出して確認すると、妻からの電話がかかってきていた。
電話を取るとすぐさま妻の囀る声が聞こえ、何事かと聞くと、
「動物園のどうぶつを全て野に放してしまった」
と言う。
脳がフリーズする。
“動物園のどうぶつを全て野に放してしまった”
意味がわからない。
唖然とする私を我に返したのは街の人間の悲鳴であった。
慌てて周囲を見渡すと、蜘蛛の子を散らすように何人もの人々が私の後方へ逃げていく。
前方を伺うと、逃げる人々によって視界が遮られるが、見えるだけで数千体のハゲワシが人間の眼球を啄んでいる。
まさか、妻の言っていたことは本当だったのか?
だが、一つの動物園に数千体のハゲワシがいるなどありえない。普通は一、二体程度であろう。
右手で持つ携帯はまだ妻と繋がっている。
妻に、いくつの動物園の動物を解き放ってしまったのかを聞くと、
「ぜんぶ」
と答えた。
ぜんぶ?うそ。
だが、妻の発言は視界の前方の数千の飛び回る黒い影のおかげで事実だと証明されている。
ポカンとしていると、そのポカンが実銃となり、私の口内から放たれる銃弾が数千体のハゲワシを撃ち抜いてゆく。
バタバタと倒れるハゲワシと立ちすくむ私。
この光景は第三者から見れば異常であるし、私から見ても異常である。
そこで私は第四者ならどう見えるのだろうと考えた
すると、空から一筋の光が指し、私は空へ吸い込まれて行った。
気づくとソコはインフェルノであった。
目の前に閻魔大王が現れ、私に言う。
「貴様はインフェルノへ堕ちた」
なぜ?私は質問する。
「動物園のどうぶつを放してしまったからだ」
それをしたのは妻ですよ。と言い返す。
「貴様は罪の保証人として登録されている。よって貴様はインフェルノ行きだ」
まさか。記憶を巡らせる。
そういえば、数ヶ月前からスマホに月額六千円コースでインフェルノ保証人に登録していることにされていた。
今思い返せば、あれは妻がやったのだろう。
妻の計画的犯行によって私はインフェルノ行きになってしまった。
私は運命を憎んだ。

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