偽りの王冠 (BS/ER 二次創作SS)

左腰の砕けるような激痛に、ジャッキーは意識を取り戻した。

息を乱しながら、右頬にこすれる冷えた砂利の感触を確かめる。どれくらい気を失っていただろうか?

眼をこじ開けるが、飛び込んでくる光に頭がクラクラした。赤と白の標識は回転し、コーヒーに溶け込むミルクのようだ。

「チェック」
離れた位置から、覚えのある声がした。

舌打ちしながら、ジャッキーは理解した。どうやら気絶したのは一瞬だったようだ。長い間気絶している人間を、アデラは見逃さない。
彼女に敗北するのは初めてではなかった。

次第に頭がクリアになってきたジャッキーは、うつ伏せで倒れたまま、先ほどの出来事を思い出すことにした。

路地裏で野生のクマと格闘していると、背後に突如現れた何者かに不意を突かれた。
何かが空を切る音と共に、強い衝撃が左腰を襲う。身体は宙を舞い、石壁に激しく叩きつけられた。そして、意識を失ってしまった。

先ほどの出来事をはっきりと思い出し、歯を食いしばる。気配を感じられなかった自分が信じられなかった。

_敵の気配がだんだんと近づいてくる。

ジャッキーは島に来てから何度目かわからない、死が迫っていることを本能で悟った。
救急箱を入れた鞄は手元になく、負傷を癒す時間もない。

痛みに顔をしかめながら、ゆっくり半身を起こす。そのまま先ほど激突した壁にもたれかかり、目線を上げる。

「やってくれるじゃない。」
少し離れた位置から迫りくる敵の姿を見つけ、声を張った。自然と乾いた笑いがこぼれる。

「聞かせてくれる?今、どんな気分なのか。」ジャッキーは目を細めた。

人影は答えず、コツ、コツと一歩ずつ歩み寄ってくる。

目を逸らさないまま付近を手探りしたが、右手は地べたをノロノロ往復し、やがて冷たい壁に到達した。得物はどこかに吹き飛んだようだ。

3歩以上離れた位置で、アデラは立ち止まった。握るゴルフクラブには血が滴り、路地裏を満たす暮色を鈍く反射している。

西日に背を向けた彼女の表情を見ようと、さらに目を細めた。逆光ではっきり見えないが、仮面のような無表情がありありと想像できる。

口を開いてジャッキーは何か言いかけたが、呼吸のたびに痛む脇腹に気づいて再び口を閉じた。
ドクン、ドクンと暴れる心臓は、命を惜しがっているようだ。

立ち上がれない様子を見てゆっくり近づいてくる彼女を、静かに見つめる。
不規則にはためくマントには、誰かの血が乾いてこびりついていた。

気が付けば、鋭い視線がこちらを見下ろしていた。睨みつけるようにその顔を見上げたジャッキーは、心の中で毒づく。

「質問してるんだけど」イラつきを抑えきれずに言葉をぶつける。
死にかけの敵を目前にしてもなお、考えが読めないその表情が気に食わなかった。
「君は人を殺すとき、どんな気分?」

一瞬の間があった。

「答える必要があるのか?」眉一つ動かさぬまま、ようやくアデラが口を開く。
「どんな気分かなんて、どうでもいい」
そう言い放つと、彼女は悠然とゴルフクラブを振り上げた。

「チェックメイトよ。」

つまらなそうに彼女の顔を見つめていたジャッキーは、凶器が振り下ろされる一瞬、何かを見つけて不意にニヤリと笑った。

「今の顔」

本人も自覚していない表情の変化を、ジャッキーは見逃さなかった。

見開かれた彼女の瞳には、仄暗く、踊るような歓喜の光が宿っていた。

「それが君の答えなのね」

心の中で呟いた。ヒヒヒッと笑い声が漏れる。

路地裏に狂ったような笑い声が響き渡り、鈍い打撲音と共に再び静寂が訪れた。

無機質なアナウンスが、むなしく島全域に反響する。

『生存者、残り3人です。』

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