アンチョビ、ジョリーパスタ、幼き記憶
お前のことが忘れられない。
はじめてアンチョビと出会ったのはジョリーパスタ。今は無くなってしまったメニュー。遠い記憶。私はお前を忘れられない。
平鍋のようなフライパンのような黒い器は湯気をたてて、油でてらてら光っていた。中には薄切りにされたフランスパンが数切れ、少し焦げているのも乙なもの。パンの上にはチーズ、チーズ、チーズ。とろっとしたチーズが大量にかかっていたね。熱されて浮かんだ油がパンに染み込み、器の底でふつふつと音をたてていた。実際熱かった。火傷をしてもいいと思える料理に出会えることは幸せだ。
パン、チーズ、そして、アンチョビ。あの頃の私はアンチョビという名称すら知らなかった。何でできているのかも、どこの国で産まれたのかも。あまりに塩気の多いお前は、チーズの味とも相まって私の喉を嗄れさせた。熱く、しょっぱく、あまりに旨かった。心底惚れ込んだ料理だった。
なのに、お前は消えてしまった。
今となっては料理の名前すら思い出せない。短い、遠い記憶となった。私はお前に教えられたんだよ。フランスパンの歯ごたえ。チーズの甘み。アンチョビの旨み。お前がメニュー表から姿を消したことを知った日、幼い私がどれほど悲しんだことか。
ジョリーパスタからは、だんだんアンチョビの料理が消えていくね。この間アンチョビピッツァがいなくなった。くせのあるあの味を真正面から愛することは、この国では難しいことなのかもしれない。塩分の多さも、ヘルシーとはいえないから。
いつかまたお前が奏でる、チーズとアンチョビのハーモニーが聴けることを願っている。
今でもお前を愛してる。