大空の戦士たち(9)ルフトヴァッフェ篇vol.2【小説】
リエーナとセルゲイは、極東からヨーロッパ軍管区へと移動を命じられた。
ソビエトとドイツの新たな友好関係を示すため、双方の若手パイロットが顔を合わせることになったのだ。そして、リエーナとセルゲイがその代表に選ばれた。
華やかなパーティー会場に到着したセルゲイは、テーブルに並べられたドイツ料理に目を輝かせる。
「すげー! やっぱりドイツの料理はうまいな!」
リエーナは苦笑いを浮かべ、冷静に返す。
「おいおい、ポテトとソーセージしかないんだぞ。そんなに感動することか?」
「そんなことはどうでもいいんだよ! 美味けりゃそれで十分さ。」
セルゲイが無邪気に料理を楽しむ様子に、リエーナはやれやれといった表情で肩をすくめる。
その時、パーティー会場の入り口に、少し息を切らせた背の高いドイツ将校が現れた。
シンジがコバを出迎える。
「やあ、コバ。遅いじゃないか。」
コバは軽く息を整え、シンジに向かって微笑む。
「書類の整理に時間がかかってね。遅れてすまない。」
シンジは肩をすくめると、そばに立っていた美しい女性をコバに紹介した。
「クリスティーナを紹介するよ。僕の大切なパートナーだ。」
「初めまして、コバさん。」
コバは丁寧に一礼し、手を差し出した。
「こちらこそ、初めまして。」
三人はしばし、パーティーの雰囲気に溶け込むように会話を楽しんでいた。音楽が流れ、シャンデリアの光が華やかに輝く中、シンジは手を挙げて給仕を呼んだ。
「おい、シャンパンを持ってきてくれ。」
シンジの声がかかったのは、他ならぬリエーナとセルゲイだった。
「我々はソビエト空軍の士官だ。何を言っている?」
「ネズミのような格好だったので。失礼した。」
シンジは平然と言った。
セルゲイは目を丸くし、抗議の声を上げた。
「ネズミはひどいな! 謝ってくれよ。」
しかし、シンジはまったく悪びれた様子を見せない。
「本当のことを言ったまでさ。それに、君たちの国は貴族を迫害しているんだろう? そんな国の兵士に何を期待しろって言うんだ?」
場の空気が一瞬凍りつく。
だが、その緊迫した雰囲気を和らげるように、コバが割って入った。
「シンジ、さすがにそれは言いすぎだ。」
そしてリエーナとセルゲイに向き直り、深々と頭を下げた。
「これは失礼した。悪気はないんだ、許してくれ。君たちのことは噂で聞いているよ。」
リエーナとセルゲイは、コバの誠実な態度に驚きながらも、静かに耳を傾ける。
「永田万作や増税タカイチを倒したんだって? なかなかの功績だ。」
セルゲイは得意げに胸を張る。
「そうだよ! ぼくたちの手で奴らをやっつけたんだ!」
コバは軽く笑みを浮かべると、軽く肩をすくめた。
「なんでも、君たちはすべての増税に反対してるとか。それで勝てるのか、僕にはわからないな。」
リエーナはその言葉に微かに笑みを浮かべ、冷静に返した。
「もし空で会うことがあったら、その答えがわかるかもね。」
リエーナがそう言うと、コバはしばらく考えるように黙り込んだ。
彼はリエーナを見つめたが、何か静かな理解が生まれたように感じられた。
リエーナとセルゲイが去り、彼らの背中が見えなくなった瞬間、シンジはコバとクリスティーナに小声で言った。
「ふん、ドブネズミどもめ。次に会うときは空の藻屑だ。」
その言葉にクリスティーナは少し戸惑った表情を見せたが、すぐに取り繕うように微笑んだ。
一方、コバはシンジの言葉に対して何も言わず、ただ静かに前を見つめていた。彼の心の中に浮かぶ思いは、その表情からは読み取れなかった。
続く
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