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光の戦士たち 第一章 祭あつし

『Success is the ability to go from failure to failure without losing your enthusiasm.』
 Winston Churchill
(成功とは、失敗を重ねても、やる気を失わないでいられる才能である)


登場人物
祭あつし:25歳 市役所勤務
館山敏宏市議会議員: 49歳 積極財政派を自認している。交通税を導入したい。
広島心平市議会議員: 41歳 表向きは改革派。宿泊税を導入したい。
鈴鹿秀人課長: 43歳。市役所議会事務局の課長。

5月の蒸し暑い朝、祭あつしは市役所の狭いオフィスで次回議会の準備に追われていた。窓から差し込む太陽の光は、彼の机に積み重なった書類を照らしている。

「また今年も、前年通りの予算編成か」
と、あつしは心の中で呟いた。鈴鹿秀人課長は、毎年同じような予算案を提出し、何も変えないことで有名だった。

「祭くん、この書類のコピーを10部作ってくれ」
と課長が声をかける。鈴鹿課長の指示は常に単調で、クリエイティブな意見や新しい提案はほとんど歓迎されなかった。

館山議員が事務室に入ってきた。
「おお、祭くん、次の公共工事の件でちょっと話があるんだ」
と彼は声を張り上げた。館山議員は市の予算を使って大型プロジェクトを推進することに情熱を注いでいたが、それが市民の利益になるかどうかは二の次だった。

「分かりました、館山議員」
と祭は形式的に答えるが、心の中では疑念が渦巻いていた。

そんな中、広島議員がオフィスに現れた。彼は表向きは改革派を名乗りながら、実際には増税を推進していた。
「祭くん、君の意見を聞かせてくれないか?」
と広島議員は尋ねる。

「あ、はい、広島議員」
と祭は一瞬戸惑ったが、自分の考えを話し始めた。
「市の財政を改善するためには、宿泊税の導入は一つの手段かもしれませんが、それだけでは根本的な解決にはならないと思います。もっと効率的な予算配分や、無駄の削減が必要だと思います。」

広島議員はにこやかに頷きながら、
「君の意見も一理ある。しかし、現実には新しい税収が必要だ。宿泊税の導入は避けられないんだ」
と答えた。

その瞬間、館山議員が口を挟んだ。
「広島さん、それよりもまず、既存のインフラを活用して新しい公共工事を進めるべきだ。これが市民のためになるんだよ」
と声を上げた。

広島議員は冷静に返す。
「それでは持続可能な財政にはならない。新しい税収なしでは、インフラの維持すら難しい。宿泊税の導入は避けられない。」

館山議員はすかさず反論した。
「いや、宿泊税よりも交通税のほうが現実的だ。宿泊税は観光業に負担をかけるだけだ。交通税を導入して、その税収をインフラの改善に使うべきだ。」

広島議員は顔をしかめながら、
「交通税は市民に直接的な負担を強いるだけだ。宿泊税のほうが公平だ」
と言い返す。

祭あつしは、目の前で繰り広げられる館山議員と広島議員のただの無益な利権争いを見て、深い失望感を覚えた。どちらも市民のためと言いながら、支持団体の利益を最優先していることが明らかだった。

祭は、自分の立場が何の意味も持たないように感じながら、次の議会の準備に追われ続ける日々を過ごしていた。しかし、この無益な争いの中で、彼の心の中には変革への小さな火が灯り始めていたのであった。

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