【その②】24歳はじめて父親を知る、の巻

「私は知ったぞ、24年の謎を。私のお父さん、カズちゃんなんだってね。」と告げる私に「そうだよ。知らなかったの?」と母。「一昨日知ったの!」と言えば、「大人になったら自然と分かると思ってたから。」と、母。幼いうちは不安定になるかもしれないから、大人になってから、とは思っていたが、大人になったらなったで自然と分かるだろうと思っていた。とのこと。コイツ…。あまりにも時の流れに身を任せすぎではなかろうか…。

そこからは、これがせめてもの罰だと言わんばかりに質問攻めをしてやった。これまで私に気を遣わせ、5月8日からの数日間、私をザワザワさせた罰である。

どうやら、既にバツイチだったカズちゃんは、母と再婚したがっていたが、母は、長女の存在がチラついて、なんかやめたということらしかった。というのも、幼い姉が「なんで毎日あの人来るの?いやだ」的なことを言ったそうだ。姉本人は記憶にないと言っていた。母はそれが決定的なきっかけとは明言しなかったが、まあそういうことらしかった。「家っていうのは全員が落ち着いて安心できなきゃいけないけど。お姉ちゃんも多感な時期だったし。」と。確かに姉からすれば、突如現れた男が家を出入りするようになったのだから「コイツ誰だよ」とはなる。そういう、小さな姉の気持ちや違和感を、母として見過ごしたくはなかったのだろう。

養育費については、そのような形で払ってはいないが、節目節目でいろいろと出してはいたらしい。母も頑固なところがあるので、受け取らなかったりしたのだろう。というより、「別に嫌いとかじゃないけど、お金のやり取りで関係性が続くのが面倒くさかった。」こっちがメインの理由らしかった。「人に執着しないんだよね」とも。変な人である。あまりに執着がなさすぎて、2人の元夫(?)からそれぞれ「ほんとうに連絡しないんだね。困ったりはしていないか。」という旨の連絡が入ったそうだ。

私も、恋人と別れたら一切の連絡手段を断って進む人間なので、その辺の感覚はわかる気がした。子どもをもうけた母の元夫たちと、薄く浅く短い関係であった私の元恋人たちで並べていいのかは分からないが。母からしてみれば、元夫も元恋人も、「終わった関係」という意味ではたいして変わらないのかも知れない。


とにもかくにも「人の話は半分で聞く」がモットーの私。怪しい情報源であったおじさんからの話は半分。なんなら当事者である母からの話も半分、である。この際細かいことはどうでもよい。とりあえず何かしらは「知れたな〜」という満足感でいっぱいである。


子どもに好かれる感じではなかったというカズちゃんに、すごく懐いていたという私。遺伝子ってすごいと思ったそうだ。私とカズちゃんのフィーリングは間違いなく合っていたというし、思い返してみてもそうだ。私の理屈っぽいところや、変人なところがカズちゃんと似ているらしい。…母は自分が変人ではないと言いたいのだろうか。

今のところは、カズちゃんの連絡先を探せと母に言ってあるので、気が向いたら連絡をしてみようかと思う。しかし、子どもの頃に大好きだったカズちゃん。だからこそ怖くもあるというもの。還暦を迎えたというカズちゃんが年老いて、塩らしくなっていたらなんだか腹が立つし、変に繋がりを持って老後の面倒を見ることになっても困るので、その辺は距離感をわきまえたい。

私が「遺産とかあると嬉しいなあ。」などとふざけると、母は「何年も会ってないから知らんけど、ないね。」「会いたいならセッティングはしてやる、私は行かないけどね」と。カズちゃんと連絡がつくか、再会したら続きを書こうと思う。

きっと、現実の「本当のこと」というのは、力が抜けるほど、くだらなかったりする。だからこそ、あるいはそうすることによって、私たちは生きていけるのだろう。現実に近い状態であればあるほど、映画や漫画、ドラマ作品のように、人間が一義的に生きたり一貫性を保ったりすることはできない。文章などという小さな枠に、「生」を収めることもできない。にしても、もうちょっとドラマティックでもよかったのだが。

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