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過去の日常が、今の嬉しいことに変わる

今回、このコラムを書くために、仕事で嬉しいと思った出来事を記憶の中から掻きだす作業をした。

そのとき思ったのは、会社で働いていたときよりも、フリーランスになってからの3年半の方が、嬉しいことが圧倒的に多いということ。20年以上、色々な会社で事務職として働かせてもらったけれど、思い浮かぶ出来事がどれも浅い記憶で驚いた。

「いてくれると安心感が違う」
「いないと仕事が回らない」
「そんなことまでやってくれるの?」

ありがたいことに、仕事でこのような言葉を沢山いただいた。でもそのときの情景がどうしても思い出せない。オフィスで言われたのか、飲み会で言われたのかも曖昧。自分がどんな受け答えをしたのかも、記憶から弾かれている。

あの頃の私は、誰かに褒められたとき「自分がやれることは誰にでもできること」「だから調子に乗ると恥ずかしい」と、自分を過度に戒めていたように思う。そのような癖が、仕事での喜びを半減させていたのだろう。

一方で、ネガティブな出来事は深く思い出せる。電話口でお客様から「声が小さい!聞こえない!」と怒鳴られたこと。入力ミスをして、データの取り込みが間に合わなかったこと。そのときの自分の体温や鼓動まで、蘇ってくるほどだ。

今思い返すと、コロナ渦で仕事が決まらなかったとき、Webライターになろうと思ったのは、事務職時代のネガティブな感情も影響していたように思う。たくさんの人と関わる仕事に、少し疲れていた自分がいたから。

Webライターになって半年ほど経った頃、とあるクライアントさんと打合せをする機会があった。
そのとき驚いたのは、会話が始まって10分ほどで「事務の仕事やってくれませんか?」と言われたこと。

以前「ライターになる前は、事務職をしていました」と話したことを覚えていてくれたのだろう。ただそのときの私には「せっかくWebライターになったのに、また事務?」という思いがあり「考えておきますね」とだけ答えた。

しかしその後、打合せ中に同じことを2回、合計3回言われたので、相当困っていたのだろう。

「で、さっき話した事務の仕事やってくれます?」最後にそう聞かれたとき、私は事務の仕事を受けることにした。そのクライアントさんが好きだったし、サポートしたいと思ったからだ。

これがきっかけとなり、このクライアントさんとは長期的なお付き合いをしている。仕事をしていく中で、オフライン、オンライン、音声配信などで嬉しい言葉をたくさん投げかけてくれた。

どれも場所や場面がくっきり頭に浮かぶような出来事ばかりで、感謝している。

「このクライアントさんに貰った言葉をコラムに書こう」
「コラムに書くならどれを選ぶかな?」
と考えていたとき、
「事務の仕事やってくれませんか?」
と言われた日のことが、一番しっくりくると感じた。言われた時は戸惑ったが、今の自分が嬉しいと思ったからだ。

この言葉がなかったら、今の私はいない。

私が事務の仕事が好きだと気がついたのも、事務のキャリアを捨てずに済んだのも、この言葉があったからだと確信している。

もしあのとき「事務の仕事はもうやりません」と答えていたら、専業ライターで上手くいかず、フリーランスをやめていたかもしれない。そう思うと3回聞いてくれたことも「ありがたい」と思えた。

この企画を通して気がついたのは、過去・現在・未来で、自分にとっての「嬉しいこと」が変化するということ。

仕事をしていると「褒められたい」「人から感謝されたい」と思うことは多い。もちろん自分にも、承認欲求はある。でもそれに囚われて言葉を集めても、記憶の浅いところにしか留められず、未来の自分は忘れてしまう。

未来の自分が嬉しいと思う出来事は、今は日常に隠れていて分からない。でも人に対して誠実に仕事をしていれば、確実に未来への痕跡は残せる。

数年後に人生を振り返ったとき、進んできた道中にキラリと光る言葉を見つけたら、それが「本当に嬉しかったこと」なのではないか。そう考えると、日々の承認欲求はほどほどに、人生を送れる気がする。

Discord名:大江かこ
#Webライターラボ2407コラム企画

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