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美大生に必要なのはむしろ実学・左脳的論理的思考では・・・?

MFA(芸術修士)について調べていたりするとどうも違和感を覚えた。造形教育を受けてこなかった人(ビジネスマン/論理的思考を既に身に着けている人)にアート教育をしてビジネスで飛躍させようという意見を聞く割りに、既に一定の造形的能力を身に着けた人がこれからどうすればいいかという視点が欠けている。

よくよく考えれば当然のことである。

美術系進学者は進学者のなかで3%しか存在しない。絵描きという存在は思いのほか特異な存在であったようなのだ。安定志向から工学や経営学などの社会科学などをして就職する人が大半を占める世の中においては、むしろ左脳的思考こそが共通言語でありスタンダードな思考法であることが予想される。

では、造形的能力が優れていれば、果たして冒頭で述べたようなビジネス的飛躍をするかと言えば、クリエイティブ業界の低賃金問題を考えれば必ずしもイコールでないことが理解できる。

しかしながら、グローバル企業の幹部に芸術学修士をとらせたりする例があるのはなぜかを考えれば、やはり論理的思考ができる人材に創造的思考をさせるから価値が生まれるからであることに気づいた。

逆に言えば、今絵師と言われる人であったり漫画家・美術的素養のある人材に論理的思考を習得させれば飛躍が望めるのではないかという仮説が成立する。

ただ、私の体感としてそうした選択をする人は存在しないも等しい。その原因はなぜかと考えると、いくつか原因が考えられた。

これは東北芸術工科大学の大学院の木田実希さんの研究
「環境から得られるGift-美術教育における格差と環境の重要性-」
が非常に参考になる。

 本研究のアンケートで、その人にとって「美術」が唯一差異化・卓越化の可能性であった内容の記述が確認できた。例えば「これしか誇れるものなかった」「周りと同じレベルの大学に行ける学力がなかった」等だ。これは芸術が社会階層の中で自分自身を差異化・卓越化させる行為(ブルデュー1990)と関わる。

https://www.tuad.ac.jp/g_document/works/2020/883/

進路選択において「これしかなかった」という薄っすらとした劣等感が原因ではないかと思った。学校の勉強がふるわなかったことによる、自身は「できないやつ」なのだという思い込みと、それが原因の左脳的論理的思考の回避が起きているのではないだろうか。

もう一つは、アイデンティティの一致である。絵描きは絵が描きたくて絵を描いているのであって、本来的にずっと絵を描いていたい生き物である。だからわざわざ実学にこだわる必要がない。それがもう自分にとって幸せだから、という考え方である。

以前お話したアニメーターさんの言葉が非常に印象深い。

「他の仕事やるくらいなら、一日中ずっと絵を描いていたい」

俺、バカだからよくわかんねぇけどよ・・・

私はど田舎育ちだからそこら辺よくわからないけど、確かに一般大の人を観察していると有名大出身じゃないと「小難しいこと」を言っちゃいけないような空気感がどうもあるように見える。

それは実際理解できる。いわゆる「学歴フィルター」というものであったり、いわゆる偏差値の序列であったり。

そうした意味で、美術系というのは最強の免罪符になりうる。

「だって俺、絵描けるし!!!」

MFA取得が実学系学科出身者における新たなMBAになっているということは、それは逆説的に、既にアート思考をできる人が論理的思考を習得すればそのまま飛躍できてしまう原石になりうると言えなくもない。

それが、近年言われている美術系人材の採用の活性化であると思っている。

こうした企業の経営層が考えているのは「新しい風を吹かせてもらう」ことであり、右脳人材に研修などでビジネスを叩きこませるというキャリアを積むことになるだろう。

・・・冷静に考えてほしい。絵描きは絵を描いていたい生き物である。真にアート思考をしている人が、果たして一般職を希望するだろうか・・・?普通は美術職を望むはずなのである。

そもそも新卒就活をしちゃう時点である程度の論理的思考を持った安定志向人材である。真にアート思考をしてる人は自主アニメ作家のこむぎこ2000氏のように卒業を待たずして独立してしまう。

と、考えれば、後者の人材に論理的思考をトレーニングさせるのが最も社会に新たな何かを生み出すのではないか・・・?というのが今回思い浮かんだ仮説である。

その一例にスタジオカラーさんの存在があげられる。

業界関係者によると、『エヴァンゲリヲン新劇場版:序』を大ヒットさせた庵野秀明監督は、この作品のために株式会社カラーを設立する際、BS(貸借対照表)、PL(損益計算書)など財務を勉強し、100%自社で出資し大きな利益をあげ、次作の『エヴァンゲリヲン新劇場版:破』につなげたそうだ。

しかし庵野監督のような経営者は少数派で、多くの経営者はBSは読めず、資金繰り表も作れず、内部留保の重要性もわからず、気にするのは翌月の現金だけ。だからキャッシュ(現金)が足りなくなると、前受金をもらうために無理を承知で新作を受注する。そしてあとで苦しくなり現場が崩壊。「アニメ業界の残酷物語」などと言われる過重労働問題の根本にあるのは、財務の健全化を図れない経営力のなさなのだ。

https://toyokeizai.net/articles/-/365518?page=2

学位などなくとも、優秀なクリエイターは無意識的にアート思考・デザイン思考など当然のように習得している。

しかし、前述のとおり、なにかしらの理由から左脳的思考・学問を回避することにより、知識不足/無知による左脳的思考人材から利用されるにとどまっている。論理的に考えられない彼らは左脳的人材にとって、とても扱いやすい人材と言える。

美術的才能・経験は非常に特殊であることがわかった。しばしばアーティストの「学へのコンプレックス」が見受けられるが、むしろ世の中の大半は左脳的思考人材で構成されているため、我々アーティストがこれを身につければ最強なのでは・・・?というのが今回の言説である!

そんな人に・・・私はなりたい・・・・・・

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