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昔書いた文章を後付けで考察してみる。

以前このnoteに「部屋の中だというのに、髪が揺れている。」という記事で文章を書いた。ただの思いつきを形にした散文なのだが、自分が書いた文章の中では割と気に入っており、最近読み返したところ、当時の私ですら意図していなかった部分に目がいくようになったため、この文章にはこういう意図があったということを後付けで考えていきたいと思う。繰り返して書いておくが、これから書く考察は、全て当時の自分が意図していなかったところに触れていくものである。
当時はあまり考えずに、思いついた言葉をただなぞるようにして書いただけの文章が後から意味を持つように感じて、面白かったので、だらだらと書いていく。

死にたい、と突然LINEが入り、仕方なく僕は知り合いの女の子の家に行くことになった。
 彼女の家は僕の家から二駅先行ったところにある。僕は一度彼女の家に行ったことがあるから、場所は覚えていた。

「僕」は、一度彼女の家に行ったことがあるため、彼女の家までの道のりを覚えていた。
このことから、「僕」と彼女はある程度親しい仲にあると考えられる。逆に言うと、一度しか行ったことがないとも考えられる。親しくはあるものの、恋人同士ではなく、親しい友人くらいの距離感である。「僕」は彼女の家に一度しか行ったことがないにも関わらず、彼女の家の場所を把握していた。このことから、「僕」が彼女に対して恋心のようなものを覚えている可能性があることが指摘できる。

部屋の中は驚くほどの暗闇だった。外は月明かりで明るいが、部屋の中は月明かりを通さない。

彼女が急に死にたいとLINEを送って「僕」を呼び出したにも関わらず、ケロッとした顔で笑みを浮かべているところから、文面とは違い元気な彼女の姿が窺えるが、一方で部屋の中は真っ暗であり、月明かりを通しておらず、不穏である。

僕は彼女の大事なものを踏んでしまわないように、目を凝らしてゆっくりと歩いた。

「僕」が慎重に彼女の心に踏み入れようとしている描写である。大切なものには、モノの他にも、記憶や価値観など内的なものも含まれる。「僕」はそういった彼女の大切なものに対して不用意に踏み荒らさないように配慮している。

どうしても誰かと一緒に居たかったと彼女は言った。
どうして僕なのか、と彼女に聞くと、私にとってどうでもいい人だからだと彼女は言った。

彼女は「僕」に対して「どうしても一緒に居たかった」と述べるとともに、「どうでもいい人だから」とも言っている。彼女の「僕」に対する行為や発言は常に思わせぶりである。

彼女は窓を全開にすると、ベットに寝転んだ。

彼女の、窓を全開にするという行為と、ベットに寝転ぶという行為は「僕」に対して心を開いているように思えるが、同時に、「僕」に対しての警戒とも捉えることができる。大きな声を出したら外にまでその声が響くという意思表示とも捉えることができる。

彼女は、僕を見つめたまま何も言わなかった。彼女の目は、何も言わなくても良いと言っていた。

彼女が何も言わなくて良いと目で言っているにも関わらず、「僕」はしだいに窮屈になっていってしまう。ここが「僕」と彼女で大きくズレているところだろう。

試しに、キスをしてみようかと思った。そうすれば、この沈黙は解けるかもしれない。

そして、「僕」は自分が何のためにここに呼ばれたのかを考えるようになる。自分は何をすれば良いのかを考えた結果、「僕」は彼女にキスをしようとする。

僕は彼女に近づくと、そっと唇を寄せた。彼女は僕の方をじっと見て、それから、止めて、と言った。恐ろしく冷たい声だった。僕はごめん、とだけ言って、顔を遠ざけた。

彼女の「僕」に対する拒絶が伺えるが、これは友人関係すら終わらせるほどの激しい拒絶ではない。けれど、はっきりと彼女は「僕」をそういう目で見ていないという意思を表明している。

「僕」は自分の役割を自問自答した結果、彼女に性的な安らぎという異性としての役割を果たそうとする。そして、彼女はそれを望んでおらず、むしろ彼女にとって一番望んでいない方向へと「僕」は進んでしまう。

もう二人とも、何も喋らなかった。再び沈黙が結ばれた。

この文章は誰の語りだろうか。普通ならばこの語りも同様に「僕」と捉えることができるだろうが、私はそう考えない。「再び沈黙は結ばれた」という文章は第三者、あるいは彼女の語りであった可能性があると考える。
この裏付けとして、2つ前の引用にもあるように、「僕」は沈黙を「解く」ためにキスをしようとしている。沈黙を気まずいものと感じた上で、それを解消するために行動を起こしている。そのため、沈黙が再び「結ばれた」というのが「僕」の語りであることには矛盾が生まれる。


彼女からすれば再び沈黙が結ばれた=彼女にとっては心地良い空間であるはずだが、「僕」にとっては不完全な沈黙という居心地の悪い空間であることがわかる。このことからも、「僕」の彼女に対する思いと、彼女の「僕」に対する思いは大きく違っていると考えられる。

空を見ると、月明かりが綺麗だった。

月は恋愛のメタファーとして扱われることも多い。ここで、少し前の文章に立ち返ってみる。

部屋の中は驚くほどの暗闇だった。外は月明かりで明るいが、部屋の中は月明かりを通さない。だから、部屋の中の方が外よりも暗いということに僕は気がついた。

月明かりを通さない彼女の部屋は、恋愛を排除しようとする彼女の心を表していると考えられる。そして、「僕」は月の光で明るい外からやってきており、月を綺麗なものとして捉えている語りがあることからも、恋愛に対して肯定的であり、恋愛に対する憧れのようなものもあると考えられる。そして、「僕」は彼女の部屋の外に出てからも、月のことを考えている。

以上が考察である。これらの考察は本当に当時意図していなかったもので、今こじつけも含めて考えたことである。意外と整合性があって、論理的に考察できてしまったことに私自身驚いている。文学って意外とこういうものなのかもしれない。作家の意図しなかったところに意味を見出すことができた時、文学はより魅力的な輝きをもつのかもしれない。

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