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EVA~企業価値を高める経営管理~財務状況により企業価値の見極め

企業の将来性を知るためには、財務分析が欠かせません。
今では少なくなりましたが、かつては売上高を重視する企業が数多く存在していました。しかし売上が増加しているにも関わらず、経営が悪化する企業が続出したことから、損益計算書(P/L)の当期純利益をもとにしたフリーキャッシュフロー(FCF)などの指標が注目されるようになりました。

現在では「最終的にどれくらいのお金が残っているか」という利益重視の考え方が広く浸透されるようになり、最近ではEVA(経済的付加価値)という指標が注目を集めています。
今回は、EVAについて理解するために必要なことや実際の導入事例などを見ていきたいと思います!

EVAを理解するために必要な2つのこと


①EVAを使うことで企業の何がわかるようになるのか

EVAを使うことで、「企業の本当の価値」を知ることができます。
損益計算書上で、最終的に算出される当期純利益は、会社に残る最終的な利益です。
しかし上場している場合、会社に残った当期純利益から株主に対して配当を払う必要があり、損益計算書上では反映されない、株主に対する費用を加味することで、本当の企業に残る利益を知ることができます。

②EVAを導入することの意味合い

EVAを導入している企業は年々増加しています。
1998年に花王が日本で一番はじめに導入して以来、三菱商事や東京ガス、旭硝子など数多くの大手企業がEVAを導入をしてきました。実はEVAというものは米国などでは古くから使われていました。

米国ではLBOなどの企業買収が一時期盛んに行われ、株式市場のプレッシャーというものが古くから存在していたことが影響しています。

一方で、日本の市場においては株式市場のプレッシャーは米国市場ほど大きくはありません。敵対的買収なども海外ほど多く存在しない日本では、EVAなど株式市場でのコストを織り込む必要性があまりなかったというのが実態です。
しかし近年では、「日経企業の海外売上比率の上昇」、「資金調達の方法の多様化」、「外国人投資家の増加」に伴い、日本の株式市場のグローバル化が進んでいます。外部からの評価の1つの手段として今後もEVAが重要な役割を果たしているのです。

EVAの算出方法と各要素が意味すること
【EVAの求め方】

EVAは一般的に、
「税引後営業利益(NOPAT)-投下資本×WACC(加重平均資本コスト)」にて算出することができます。
このことから、EVAを高めるためには、
①NOPATをあげる 
②投下資本を減らす 
③WACCを下げる 

という3つの方法しかないことがわかります。
また、EVA=(ROIC-WACC)×投下資本という式でも算出することができます。

NOPAT

NOPATは税引後営業利益です。
損益計算書上では、税引前の営業利益が算出されていますが、NOPATを用いることで「本業で稼いだ営業利益から実際に税金を差し引いて残る金額」を把握することができます。

WACC

WACCは加重平均資本コストのことを指します。企業活動を行う上で、コストは2種類あります。
借入金など負債科目の利息の支払いなどは「負債コスト」に該当します。
一方で、株主に対する配当金はどは「資本コスト」と呼ばれています。
WACCではどちらか一方のコストではなく、2種類のコストを比率で按分した総合コストの算出を可能としています。

EVAを活用するメリット2つ

①【資本を圧縮できる】

EVAを活用することで、資本の圧縮を行うことができます。例えば毎期黒字を出している事業はP/Lだけを見てみると「良い事業」だと判断されてしまいがちです。
しかし、その事業にP/L上であらわされていない費用(資本コスト)がどれだけ投入されているのかを判断することはできません。毎期黒字であるが、莫大な資本コストを投入している事業というのは、目線を変えると撤退推奨事業にもなりえるということです。EVAを用いることで、資本の効率化を図ることが可能となります。

②【資本コストの圧縮ができる】

キャッシュフローや利益のみを見ていると、資本コストを見える化することはできません。EVAを用いると、EVAをプラスにするために資本コストの圧縮を図らなければなりません。
そのために、「IR活動を行い株主への経営の透明性をアピール」したり、「自己株式を取得する」といった活動を明確に行っていくことの理由付けが可能となります。

EVAを活用する際に気をつけるべきこと4つ

①長期的な判断にはむかない

前述の算式のとおり、1年間の税引後営業利益を基準として単年度の指標として活用されます。
よって、長期で利益を生み出すような「1年を超える投資や費用」が存在すると必然的にEVAは低下してしまいます。
一方で短期的にEVAを改善するために、長期での費用や投資を抑制することができてしまうためEVAの向上のみを目的としてしまうことで長期的な投資に弊害が生まれてしまう可能性があります。

②理解している人が少ない

日本での導入・活用の歴史は浅く、導入している企業がまだまだ少ないというのが現状です。
今でもP/Lのみを財務指標として経営判断を行っている企業が多く、社内での調整・波及というのが大きな課題となります。メリットだけではなくデメリットもあるので、全社を巻き込んで各事業部を説得していくことは中長期での取り組みとなることが予想されます。

③事業部別資本コストの算定困難

パナソニックやAGCなどのカンパニー制をとっている企業や、多角的に事業を行っている企業では他企業に比べて正確なEVAの算出をすることが容易ではありません。
各事業によって予想される投資リスクが全く異なるからです。しかし一方で企業の株価は1つの数字でしか表せません。
その株価に対しての各事業の按分を考えることは非常に難易度が高いといえます。

④株式市場に左右される

EVAを導入し、推進している企業はEVAが低下してしまうことがよくあります。なぜなら時価総額が上昇してしまうからです。

前述したようにEVAはNOPATから投下資本×資本コストを差し引くことで算出されます。時価総額が上昇すると、投下資本が増加してしまうので、一時的にEVAが下がってしまうのです。このようにEVAの向上を目指す場合、想定以上に株価が上昇することで目標としていたEVAに到達できないという問題点があります。
一時的な急上昇などを織り込んでしまうと適正なEVAが算出されないため、「導入時には2年間の平均株価を用いる」といったルール作りを行うことでこれらの問題点をカバーしていく必要があります。

EVA導入による失敗事例(SONY)

SONYはかつて8期連続赤字のテレビ事業を立て直すため、出井社長がEVAを導入しました。米国流の経営手法により、これまで丼勘定であった開発現場を徹底的に管理することで「出井改革」と称賛されてきました。
しかしその一方でイノベーションの喪失が生まれてしまいました。SONYの現場ではこれまで個人の開発の自由な時間がどこかで存在しており、業務外の余分な時間が新商品のヒットを大きくけん引している部分がありました。しかし徹底的なコスト管理によりそのような環境が消滅したことで、SONYからヒット作品が出せない状況を招いてしまうことになりました。

EVAについて指標の意味から実際に利用する際の注意点などを網羅的に説明してきましたが、EVAを正確に理解したうえで皆様の企業経営や投資判断の一助になれば幸いです。

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