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(連載小説)影の総理~官房長官の政治人生~第1話「総辞職」(全5話)

とある日の事だった。総理大臣官邸・官房長官執務室で、椅子に座りながらコーヒーを飲みながら仕事をしている一人の人物。

その名も花田健太郎。内閣官房のトップである内閣官房長官を務めている人物だ。彼は去年「笹谷第二次改造内閣」で初めて官房長官を任命されて以来、影の総理大臣として様々な任務に取り掛かっていた。

花田はテレビをつけ始める。テレビではニュースを女性キャスターが読み上げていた。

「先月突然の内閣総辞職を発表した笹谷総理の後任として、日本平和党代表選に先週当選した谷岡義秀副総理が、今日から新内閣を発足します。内閣官房長官には前内閣でも官房長官を務めた、花田氏が再び留任する予定です」

花田は少し微笑みながら、コーヒーを口に入れる。しかし、彼は官房長官になったからと言って、満足しているわけではなかった。本来の目標は内閣総理大臣になることだ。でも現ポストの仕事をおろそかにしようと思ってなかった。
今になってとあることを思い出した。それは前内閣総理大臣である笹谷のスキャンダル事件が発覚した際の事だった。

~回想・先月~
総理執務室では内閣総理大臣の笹谷が、副総理兼経済産業大臣である谷岡と、日本平和党幹事長である橋本と官房長官である花田が、椅子に座って討論していた。まず谷岡が口を開く

「どうするおつもりですか。このスキャンダルが発覚して以来、国民共和党が来週内閣不信任案を提出する見込みです。この党内でも不満や反発が出ています。内閣不信任案もこのままだと可決されます」

「そのくらい自分でも分かってる」

笹谷が少し強めに言ってた。
そのスキャンダルというのは、去年笹谷が政治資金でパーティーを3回も行ったことどころか、その中に暴力団組織のお偉いさんを招待してしまったことを週刊誌にスクープされてしまったのだ。その時は谷岡副総理などの閣僚が参加しており、結構のバッシングを受けていた。でも花田や橋本は3回とも出張などで不参加で批判対象にはならなかった。しかし花田も内閣総辞職か解散総選挙しか道はないと、他の閣僚共々思っていた。
そのため花田が

「私も、谷岡さんや橋本さんと同じ気持ちです。このままだと野党との政権交代もあり得ます。それを防ぐためには、内閣総辞職しか道はありません」

悩みだす笹谷。本当なら解散総選挙でもしたいところだが、そんなに簡単なことは言ってられない。野党である国民共和党との政権交代となれば、恐らく共和党の力となれば、4年は政権を奪い取ることは不可能だ。それも危惧していたのだ。そのため花田が続けて

「それか、総辞職してから再び閣僚に入るのも手です」

「え?」

笹谷が驚いた顔で花田を見る。総辞職した人間が再び閣僚に入るのはリスクも伴う。今までそれをしたのは、5年前の「中野内閣」で官房長官を務めた内田徹元内閣総理大臣しか例がないからだ。内田元総理は元々病気で退陣をしたため、リスクはあまり無かったが、今の笹谷はスキャンダルを起こしてしまったため、リスクはかなり大きい。そのリスクを背負うのは笹谷だけではなくて、次に引き継ぐ総理大臣にもあるため、それは避けたいところだった。
そのため、橋本が驚いた顔で

「それは何があっても無茶ですよ長官」

すると花田が笑顔で

「でも、実は総理の第三次改造内閣以降、支持率は50.3%です。今回のスキャンダル以前と比べれば、たったの2.3%しか落ちていません。憲政史上初めて消費税を引き下げたり、看護医療支援年金を初めて施行したり、結構人気があるんですから、自分的には副総理か内閣特命担当大臣などの重要ポストに位置付ければ、大丈夫だと思いますよ」

自信持って言った。でも裏腹ではとある策略があった。すると携帯に一つの着信が花田にかかってきた。

「失礼」

執務室を出て、少し離れたところで電話に出る花田。

「もしもし。あぁ清水君か。よくやってくれたな、後で秘書経由で封筒を送らせていただくよ」

実は、今回のスキャンダルがなぜ出たかというと、全て官房長官である花田の横流し情報だったのだ。花田は長期政権を目指していた笹谷が一番の邪魔者だった。そのため、去年上司だった上田官房長官を失脚に追い込んで、今のポストに就任してから、あとは政権のナンバー2である副総理を目指すつもりでいた。そのためのタレコミだった。
すると、谷岡や橋本が執務室から出てきた。花田が笑顔で

「どうでした?」

谷岡が少し思いつめた顔で

「内閣総辞職を決意してくれたよ。これから会見を開くらしい」

「そうですか」

少しホッとした笑顔で言う花田。橋本が少し重い顔でその場を後にした。花田が気になった顔で

「どうかしたんですか?」

「さっきの話だよ。総理を次の内閣でも閣僚に入れるって」

「あぁそれですか」

すると谷岡が花田に近づいて小さな声で

「何がしたい」

「え?」

「何か企んでるだろ。見たら分かるぞ」

すると花田が話をそらして、少し笑顔になりながら谷岡に

「それより、少し協力してほしいんですけど」

「協力?」

「手を組みませんか。次の日本平和党代表選、谷岡さん立候補してください」

「は?」

「自分の入っている内田派はこの党内最大派閥です。私が内田さんに言っておくので、谷岡さんが当選するように仕組みますから。そしたら谷岡さんは次期総理ですよ」

するとそういう話に弱い谷岡は、少し笑顔になって

「そ、そうか。そしたら俺が総理か」

「言ってましたよね。一番夢に思っている職業は総理だって」

少し不気味な笑顔で花田は言った。それもそうだ。それも一つの策略でもあり、谷岡は総理にさせれば、自分は官房長官のままで影で支えてから、今年の衆議院選挙では自分が内閣総理大臣に任命されるように繋げるということを考えていた。
谷岡は笑顔になり

「それはもしかしたら言ったな。よしその時はよろしく頼むぞ」

そこからすぐにしないうちに笹谷総理大臣が辞任会見をしてから、翌月に代表選にて内田派閥会長の計らいもあり、谷岡が代表選で勝ち取り、総理大臣に就任することが決定したのだ。日本平和党本部のホールで代表選が執り行ったため、その場には当然橋本や笹谷や花田の姿もあった。
そして、代表選が終わり花田がホールから出ようとしたとき、笹谷が呼び止めて、後ろを振り返る。笑顔で笹谷が迫ってきて

「なぁ、あの話本当なんだろうな」

「組閣の件ですよね。分かってますよ」

「俺は官房長官の方がいいなぁ」

少し微笑んでそこを後にした。でもそこで彼が思っていたことは一つ

「官房長官は譲らない」

だった。

~現在~
花田はテレビを消し、谷岡新内閣総理大臣執務室に向かうことにした。ドアをノックして入る。

「新総理」

執務室で同じくテレビニュースを見ていた谷岡。

「あぁ花田君。その呼び方はやめたまえ」

テレビを消し、執務席に座る谷岡。花田は執務席の前に立ち

「谷岡さん。どうですか、椅子の座り心地は」

「最高だね。国のトップになるってことがこんなに気持ち良いことだとは。今まで副総理という国のナンバー2だったが、意外と総理の席は遠くてね。君のおかげでこんな簡単にこの椅子に座れるとは、夢にも思わなかったよ」

「国会に参りましょう。まもなく総理大臣指名選挙がありますから」

「そうだな」

二人はそのまま国会に向かう。首相指名選挙は名前の通り総理大臣を選ぶ選挙であり、国会議員だけの専用でもあり、国会議員なら誰でも投票は可能だ。だが基本は与党の代表が選ばれる。その内閣総理大臣指名選挙で当然谷岡が選ばれ、早速首相官邸の組閣本部にて組閣を行うことにした。その場には花田の姿もあった。
重い空気の中、まずは谷岡が口を開き

「さてと、組閣を始めますか、会見まで時間がありませんから」

「そのことで総理。少しだけ」

花田が重い顔で言う。すると谷岡に近づき耳元に何かを喋り始める。一瞬驚いた顔で花田を見たが、しばらくして納得した顔になった。

そのまま1時間ほどで組閣を終えて、いよいよ内閣官房長官の花田による閣僚名簿読み上げ記者会見を始まろうとしていた。

~第1話終わり~


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