五目並べ。

掴めもしない青に手を伸ばした。
届きもしないなんて考えもしない。
白い雲に手をかざした。
黒い影が顔にさした。
息を吸って顔を逸らした。
それでも手は伸ばし続けた。
こうして手を伸ばしていれば、少なくとも。
死にたがりには見えないはずだから。

死にたい。と言う時の口は笑顔で。
生きるか。と言う時の口は嘆きだ。
生を受けた時の鳴き声に意味を問わないで。
物心ついた時に打った感情の布石を見てくれ。
盤上に死にたい。の黒を打ったのはいつだろう。
誤魔化すように生きるか。と白を打ち始めたのはいつだろう。
この空虚な五目並べが始まったのは、いつなんだろう。

掴めもしない青に手を伸ばした。
死にたがりには見えないはずだから。
届きもしないなんて考えもしない。
黒い影が顔にさした。
息を吸って顔を逸らした。
この空虚な五目並べが終わるのは、いつだろう。

乗り気であるわけではなかった。
一つの白を打つ度に、四つの黒が差し込んだ。
オセロだったらひっくり返るのに。
終わり良ければすべて良し。
最初に打ったのは何色だったっけ。

死ぬほど死にたかった。
前を向きたくなかった。
自分の白を信じ続ける他なかった。
黒の四目をもう防ぎたくなかった。
けれど、それを防ぐのは。
決まって私の手ではなかった。

きっと、黒色だっただろう。
だから、白を打ったのだろう。
そうして始まって、黒ばかりが増えて。
いつしか、白は僕しか打たなくなった。
もう、いいや。

投了の選択肢はなかった。
選ぼうにも選べなかった。
気が付けば勝手に白が打たれていた。
誰かの手が、半透明な手が。勝手に白を打つ。
勝手に、その手を彼だと思った。
勝手に、その手を彼女だと思った。
生を願う彼ら彼女らが、盤上に白を打つ。
俺の感情を打ち叩く。

前を向いていなかった。
前を向いても誰もいなかった。
たった1人の五目並べだった。
ずるいよな。
勝手に黒を打つ周りも。
勝手に白を打っていくあんたらも。
本当にずるいよ。

ごめんな。
俺、あんたらの盤上に白。
打ってやれなかったんだ。

掴めもしない青に手を伸ばした。
届きもしないなんて考えもしない。
白い雲に手をかざした。
黒い影が顔にさした。
息を吸って顔を逸らした。
それでも手は伸ばし続けた。
こうして手を伸ばしていれば、少なくとも。

死にたがりには見えないはずだから。

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