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抹茶ミルク4

吐く息が白くなったころ、突然おやじが帰ってきた。
何の前触れもなく、焼きそばを作っている俺とアニメを見ている俊のいる居間に、泥酔したヤニ臭いおじさんが現れた。
「おっひさしぶりでーす。へへへ、お父さんですよおー。和志も俊も元気だったかあ~?」
3年ぶりに見たおやじは、俺たちの背が伸びたのを割り引いても、明らかに縮んでいた。
ダブダブで縦縞の背広を着て、ひどい猫背で頬はこけ、顔は日に焼けたのか黒く、目だけが大きく爛々と光るくたびれた中年。
前はもっとかっこよくなかったっけ? もっと父親らしくなかったっけ? 海外に行ってお金を稼いでくるんじゃなかったんだっけ? どう見てもチンピラにしか見えないおやじの姿に、俺たちはただただ絶句した。

「おとうしゃんにお水を入れてくれないかな?」
固まっている俺たちを横目に、こたつにぬくぬくと入った父に言われて、我に返って氷の入った水入りのコップを手渡す。おやじは細かく震える手で受け取り、一気にそれを飲みほした。
「くあー、うまい! やっぱ家はいいなあ!」
そういってごろりと横になると、
「お母さんが帰ってくるまで、ちょっと寝るわ。起こさないでね」と言って、高いびきをかき始めた。

22時になり、おふくろが帰ってきた。おやじが寝ているのを見たとたん「キャー!!!」と叫んでおやじに抱き着いた。
目を覚ましたおやじは泣きじゃくるおふくろの背中を撫でながら、「長い間一人でよく頑張ってくれたな。ありがとう」と言って一緒に泣いた。
その後、積もる話を始めた二人に追い払われて、俺たちは子供部屋で寝る支度をはじめた。

おふくろの怒鳴り声が聞こえたのは、それから30分ほど経ってからだった。
「ふざけないでよっ! お金なんてあるわけないでしょ!!」
「黙って海外に行って、さらに借金が増えたってどういうこと!?」
漫画を読んでいた俊と勉強をしていた俺は思わず目を見合わせた。何かとんでもないことが起きている、ということだけはわかった。

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