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コーヒーブレイク (2)

  今週も水曜日になった。今日やるべき仕事を切り上げて喫茶店で一服しよう。毎週同じ時間、ブレンドコーヒーを注文する。端にある1人用席に座りゆっくりと気持ちを落ち着かせる。本を読むこともあるが、ただコーヒーを飲むというのも良い。今日はどうしようか、読みかけの本を持ってきていたかな。さっき購入した雑誌もまだ読んでいない。

  今日もまばらに人が入っている店内。お喋りを楽しんでいる客、勉強している学生、読書している老人、サンドイッチをほおばりながらパソコンに向かっている者もいる。いずれも思い思いの時間を過ごしているようだ。穏やかに流れるBGMと穏やかに流れる時間。店内をそれとなく見回すのも面白い。

  静かにコーヒーを飲んでいると、近くの客の話が耳に入ることがある。興味深い話をしていると、つい聞き耳をたててしまうものだ。さっきから私の読んでいる雑誌の頁は進んでいない。

「これって何だっけ?中央値って、何だっけ」

「中央値はね、そのまんまの名前なんだけど、低い数値から高い数値まで並べた時に中央にあたる値だよ」

「へー、じゃあ、ここは3番が正解かな?1、2、3、4、5、6……。17個あるから、1、2、3、4、……9個目か」

「そうそう。奇数個あったら、ちょうど真ん中だね。だから3番で正解。偶数個だったら真ん中の2つの数字のさらに真ん中を選べばいい」

「なるほどね、ここまでは大丈夫、たぶん。えーっと、次はね――」

  どうやら勉強を教えている子と勉強を教えてもらっている子がいるらしい。平均値、分散、標準偏差、箱ひげ図、次々に聞きなれた言葉が聞こえてくる。統計についての勉強だろうか、いや、最近は高校の数学でも平均値や標準偏差などもあると聞く。数学の勉強かもしれない。チラと学生さんの様子を見ても、若い二人の男女である以上のことは分からない。制服も来ていないし、高校生なのか大学生なのか、それを判別できる自信は、あまりない。少なくとも、まぁ中学生ではないだろう。

  コーヒーを飲みながら、教えている子の先生っぷりを大人しく聞いてみる。自分も学生になったような気分だ。思い返せば自分にもそういう時代があった。私はもっぱら教えを乞う方だった。特に数学やら統計やらはとても周りの学生についていけるタイプではなかった。いつも赤点ギリギリ、大学だったら単位を落とすギリギリというところだ。何度となく友人たちに助けられてきた。講義の解説をお願いし、ノートを写させてくれるようにお願いしたものだ。私の得意なところと言えば、お願いにお願いを重ねる事、教えてくれる友達の出来の良さやノートの素晴らしさを褒め称える事くらいだったものだ。今振り返っても反省しきりである。今喫茶店で教え合っている彼らも、その何気ない日常を懐かしく振り返ることがあるだろうか。それはまだまだ先の事になるのだろう。今はお互いを高め合い、時に摩擦を起こしながら大切な時間を過ごしたらいい。

  コーヒーカップの底が見えた。まだ彼らの課外授業は終わらない様子であるが、私はそろそろ店を出よう。勉強を共にするという代えがたい時間を過ごす人々に、たくさんの実りが訪れることを祈って。

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