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【初心者向けミリタリー】戦車の歴史あらかると/Panzer019【T-72戦車】

(全4,444文字)
皆さんこんにちは。

毎週木曜日、軍事・ミリタリー記事を投稿しています。

この『歴代戦車あらかると』シリーズでは、世界各国の歴代戦車を”単品”で取り上げてみたいと思います。

今回も旧ソ連戦車です。『T-72』について書きたいと思います。

過去のミリタリー関連記事はこちらのマガジンにまとめています。

【T-72戦車】


1.概要

T-72は1971年に開発された第2世代戦車です。このT72と言う戦車ですが、恐らく、世界中のどの戦車よりも書くこと(書けること)が豊富にある戦車だと思います。何しろ、同じ名前なのに全然仕様の異なる車体がゆうに30種類前後も存在する戦車なので。

旧ソ連崩壊以降、T80のエンジン部品の多くを生産していた国との分離によって、サプライチェーンの問題などから最新鋭のT80戦車の維持が困難になり、T72の車体にT80の砲塔を搭載したT90が登場しましたが、広義ではこの車体もT72の派生型として考えられます。

(T72の正確なバリエーションを数えようとしましたが、このような理由から『どこまでカウントするか』に迷い、結局記事執筆時までにまとまりませんでした:汗)

旧ソ連がT64の後継となる新戦車として開発を計画したT80。T64に同じく実戦配備まで多くの技術的課題をクリアする必要がありました。またT80は非常に高性能だったが故、大量生産が難しかったことなどもあり、その絶対数を補う必要性から、T72が戦力補完のため量産・配備されることになりました。

T-72は実戦配備後も度重なるアップデートを施され、旧東側各国にかなりの量が供給されました。そして、今も中東やアフリカ諸国などでは、稼働状態にある現役の実車が多く存在しています。

2.構造・機能など

(1)構造機能

ソ連戦車の最大の特徴にして、アドバンテージとされる、軽量コンパクトな車体は、全体的な車体投影面積の小ささから、被弾面積が極めて小さいと言われており、諸外国の同性能戦車と比較しても、西側各国の戦車がおよそ50~60トン級であるのに比較して、初期型で41トン、最新型のB3型でも46トンにおさまっています。

また、世界中の主力戦車の中では、唯一特殊な枠にある『Strv103』を除くと、あらゆる戦車と比較して車高は最小値におさまっています。

(Sタンクより10cm高い。世界中の戦車で車高がほぼ同格なのは74式戦車(日)のみ。)

2012年以降にロシアが保有しているT72戦車の多くは、最新型のB3タイプに換装されており、最新型のERA(爆発反応装甲)や、FCS、エンジンなどのアップデートが図られており、性能そのものは西側第3世代戦車に匹敵します。

車内レイアウトは、自動装てん装置を採用していることから、車長、砲手、操縦手の3名。オーソドックスな乗員配置になっています。

(2)火力など

【主砲】
2A46/125mm滑腔砲は、多くの西側戦車が装備するL44/ラインメタル(独)製120mm滑腔砲とほぼ同等の威力と言われています。

最新型のものはレーザー測遠器と連動した弾道計算機を搭載しており、T62の泣き所だった1.5km以遠の目標に対する命中率低下を克服しているとされます。

【夜間戦闘能力】
アクティブ・パッシブ兼用の赤外線暗視装置も装備しており、微光増幅型の装置を使用した場合は約500mと能力が限定的ですが、主砲横に装着した円盤型「ルナ」赤外線投光器を使用すると、夜間視察距離はより遠くまで索敵が可能。1980年代に西側で実用化された熱戦映像化装置は、旧ソ連時代にT72には装備されていませんでしたが、最新型のT72B3には「ルナ」が撤去された代わりにフランス製の同性能をもつカメラが搭載されています。

【砲発射型ATM】
T72B型以降、一部のタイプに限定されますが、9K120スヴィリ・砲発射型ATM(対戦車ミサイル)が装備され、最大射程が約5kmでの対戦車戦闘が可能になりました。レーザーセミアクティブホーミング方式のため、目標を常に照準してレーザーを照射しておく必要があるものの、この長射程火力は十分脅威と言えます。

第二次世界大戦後、旧ソ連では『ラケーテン・タンクヌイ』という『ミサイル戦車』が考案された時期があり、戦車砲が届かない距離5km前後の目標を担当する対戦車ミサイル搭載型戦車が導入直前までテストが繰り返された経緯があり、その開発ノウハウは後のBMP歩兵戦闘車に継承されます。

砲発射型ATMは今や旧ソ連/ロシア製戦車のお家芸のようにも感じますが、そこには深い歴史があることは余り知られていません。

【自動装てん装置】
砲塔真下にレイアウトされているドーナツ型の回転方式の『カセトカ式自動装てん装置』があり、同部位に直撃弾を受けると大爆発を起こすことから、米軍からは『ビックリ箱』と揶揄されることもありました。

しかしながら、同機能は、戦車同士で正面から戦うことを前提に、比較的被弾確率が低い車体内に主砲砲弾を格納すると言う考えで設計されたものですので、時代背景的には何ら非合理的設計ではなかったとも言えます。

(時代がエアランドバトルやドローンなどの飛躍的発達と積極的導入によってT72、T90の脆弱性が叫ばれるようにもなりましたが、結果論に過ぎないと私個人は思います。)

ただ、このタイプの自動装てん装置の泣き所が、他にもう一つあります。

砲弾と発射装薬が別になった『分離装填方式』だったため、西側戦車のように砲弾と火薬が一体化したカートリッジ形状ではないことから、APFSDS弾丸の弾芯の長さを延長するのに限界があること。S/N比(侵徹率)から、弾芯をカートリッジの全長まで延長できる西側製砲弾に比較すると、T72タイプは、装甲貫通力に限界があること。(砲発射型ATMで補完できると言う解釈もあるにはあります)

余談になりますが、西側製戦車が自動装てん装置を本格的に導入したのは、フランス製ルクレール戦車と日本の90式、10式戦車のみであり、その技術的先進性は間違いなく旧ソ連の方が勝っていたことも事実です。

(3)防護力

先に述べた通り、多くのバリエーションが存在するため非常に複雑な家系図になっています(汗)

基本的な初期型砲塔は鋳造性で、最も装甲厚があった部位で約28cm。初期型では単一部材による鋳鋼装甲でしたが、T72Aタイプからセラミック入り複合装甲に換装されています。

車体部分のみ、初期型から複合装甲が採用されていて、鋼鉄装甲版にセラミックやガラス繊維などを織り込んだ特殊装甲は厚さが約20cmでしたが傾斜(避弾経始)形状から、実質的に約50~60cm程度の均質圧延装甲に匹敵する防護力があったとされます。

T72Bタイプ以降、コンタークト1型ERAが追加され、T72BM以降はAPFSDS弾にも有効なコンタークト5に換装。ソ連崩壊後に行われたテストでは、当時西側が装備していたAPFSDS弾を無効化することが確認されています。

(4)機動力

本車が搭載するV46エンジンは、もともとはT34に搭載されていたエンジンを改良したV型12気筒ディーゼルエンジンです。基本設計はとても古いエンジンでしたが、信用性はピカイチ、たいへん優秀なエンジンでした。

T64やT80が先進的な技術を積極的に導入しようと、ガスタービンエンジンに拘った結果、実用化にかなりの時間を要した上、導入以降もメンテナンスに多大な労力を要したのに比較して、既存技術を応用した本車のエンジンは非常に安定した整備性を示したと言われます。

【泣き所】
通常、戦車は、射撃したら装甲厚がある正面を敵に向けて間合いを切るため、後進(バック)速度に速い性能が求められます。T72は変速装置の機構上、その速度が諸外国戦車に比較すると遅く、時速4km程度とされます。また、同機構の制約上、『超信地旋回』(左右のキャタピラを逆回転させ、車体中心を軸に車向を一瞬で前後逆にできる)が不可能とされます。

3.運用実績など

T72は、旧東側諸国で1970年代から1991年(ソ連崩壊)までの間、最も多く使用された戦車でした。ソ連国内の主要な工場で2万2千両余りが製造され、ポーランドやチェコ、インド、ユーゴなどでT72M型(ダウングレード版)がライセンス生産され、総数としては3万両を超える車体が作られたと言われています。

ワルシャワ条約機構加盟国以外でも、フィンランドやイラン、イラク、シリア、リビアなどにも輸出実績があり、1980年代にはチェコやポーランドからもイラクに完成車両が輸出されています。

旧東欧諸国は、この旧ソ連製戦車の重量にあわせた強度設計で道路や橋を建設していたことから、西側戦車は通れないけど東側戦車は走れるといった、インフラ面でも有利な環境的要素があったことは大きなポイントでした。

旧ソ連製戦車は、ヨーロッパの広大な平地を主戦場と想定していたため、砲身を上下に振る角度は西側製戦車よりも狭く、この機械的な制約から砂漠地帯での戦闘ではそれが弱点にもなったと言われています。

【近代戦争史】
イラン・イラク戦争、中東戦争、湾岸戦争、ナゴルノカラバフ戦争、チェチェン紛争などに参加

旧ソ連製戦車は性能を落とした『モンキーモデル』というものが輸出仕様として提供されていたことから、イラク軍のT72Sには複合装甲が装備されておらず、『73イースティングの戦い』では乗員の練度、夜間戦闘能力、FCSの性能、装甲防護力など、総合的に米国M1エイブラムスに劣っていて、ほぼワンサイドゲームに近い状況でイラク側の戦車隊が敗北。これらの戦例・教訓から、ロシア製戦車の輸出仕様モデルは後に本国仕様と同等の性能のものが積極的にアピールされるようにもなります。

(筆者の認識では、中東戦争以降現在に至るまで、正規軍同士のまともな戦車vs戦車によって戦われた対機甲戦闘は、本戦例が最後だったと記憶しています。それ以降も世界各地で戦車を使用した戦争・紛争はあったものの、本格的・組織的な戦車戦闘と言う観点からの解釈です。)

(2022年以降のウ戦に関する事項は記載を控えます。)

4.最後に…

戦車の歴史はソ連の歴史
ソ連の歴史は戦車の歴史
(byかけうどん)


(…もうエエちゅうねん(笑))

旧ソ連時代から現在に至るまでの間、とても長い期間、旧東側勢力の機甲戦闘力の中核を構成し、名目ともに『一時代を築き上げた戦車』であるT72と言う主力戦車に敬意を払って書いたつもりでした。

下書き時点で文字数は約1万数千文字になりました(笑)

さすがに、余りにも長いと読んでもらえない…。泣く泣く、削りに削ってこの形になりました。それでも長い記事ですが(汗)


毎度のことながら、なにしろ素人が書いている記事です。諸所分かりにくいところもあるかと思いますがどうかご容赦ください。

最後まで読んで頂いて、ありがとうございました。

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