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【初心者向けミリタリー】戦車の歴史あらかると/Panzer001【Strv103B/通称Sタンク】について

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皆さんおはようございます。
毎週木曜日は、かけうどんの趣味の軍事・ミリタリーに関連する記事を投稿する日にしています。

アニメやゲームなどで御馴染みの武器・アイテムなどにもつながるので、少なからず需要はあるのかな?とも思うのですが、なるべく初心者向けの記事にしたいので、難しい専門用語やクドイ説明はしないようにします。

専門的な知識をお持ちの方が見たら「なんじゃこりゃ?」的な所もあるかも知れませんが、素人が書いている記事ですので、ご愛嬌とお許しください。

この『歴代戦車あらかると』シリーズでは、世界各国の歴代戦車を”単品”で取り上げてみたいと思います。

よろしければお付き合いください。

過去のミリタリー関連記事はこちらのマガジンにまとめています。


1.Strv103B/通称”Sタンク”の概要

Strv103(ストリッツヴァグン103)は、スウェーデン陸軍が1960年代に制式採用した主力戦車で、1967年量産開始、1971年までの間に約300両が生産されました。

第二次世界大戦後の戦車開発の体系上は『第2世代戦車』に区分されます。

Stridsvagnとはスウェーデン語で『戦車』を意味し、Strv103は"Stridsvagn S"(ストリッツヴァグンS)とも呼ばれていたので、その訳語から『S-TANK』(エス・タンク)とも呼ばれました。

特徴的なのが、戦車なのに『砲塔』がありません。第2次世界大戦中にドイツ軍が使用していた『突撃砲』や『駆逐戦車』のフォルムに似ています。

105mm砲を車体に直接取り付け、自動装てん装置を導入。このため装てん手が必要なく、乗員は3人乗りです。それらの設計上の恩恵は車高を極限まで低くすることができ、他国の一般的な主力戦車に比較すると、車体をコンパクトにまとめられ、『被弾面積』の極小化に成功しています。

スウェーデンは錯雑した山岳や森林に覆われた地形の国なので、このような『アンブッシュ/待ち伏せ』戦法に特化した装備がピッタリだったのかも知れません。

それともう一つ。
エンジンが2コあります。

車体右前側にロールスロイス製ディーゼルエンジン。

車体左側前にボーイング製ガスタービンエンジン。

通常移動時はディーゼルエンジンで走り、路外などで高速移動しなければならない場面(一撃離脱するときなど)で高出力が必要な時はガスタービンエンジンを併用します。

異なる2系統のエンジンを動力源とするアイデアは、戦闘艦艇によくみられるCODAGやCODOG方式といったものがありますが、正式採用された戦車でこの方式をとっているものは、Sタンクが世界最初のものだと言われています。現代の戦車は消費電力が大きいためメインエンジンを停止中でもAPU/補助動力装置を使って発電する仕組みがあったり、フランスのルクレール戦車ではディーゼルエンジンの補助動力としてガスタービンエンジンが搭載されていますが、1960年代に正式採用された戦車ということを考えると、かなり先進的で『尖った』戦車だったと言えると思います。

これらのアイデアは全て『運用上の要求』に基づく仕様だと思うのですが、まったくもって、防御戦闘の理にかなった仕組みと言えます。

2.開発経緯

1950年代中期までスウェーデンは英国製のセンチュリオン戦車を運用していましたが、その後継となる新戦車について検討が開始されます。

新型戦車の開発に名乗りをあげたのは、ランズベルク、ボルボ、ボフォースなどの共同会社がありました。

こちらの社案は『155mm口径の滑腔砲を搭載した重戦車モデル』でしたが、軍が要求していた性能に対してオーバースペックだったため、いったん見送られています。

1956年に軍から『被弾面積を極力小さくした低車高の設計案』が提案され、この案に基づき新型戦車の設計が行われました。

その結果、1958年に試作車輛が完成。1960年に陸軍から追加発注を受け、最終的に1961年に試作モデルが完成しました。

その後、Strv103の名称が決まり、1967年から量産が開始されています。

3.構造・機能・運用

(1)足回り

日本の陸上自衛隊ではお馴染みとも言える油圧式の『可変懸架装置』を備えています。スウェーデンと言う国の地形上の特性から、射撃時に地面が凸凹しているだけじゃなく、傾斜がきつい斜面に戦車を配置しなければならない場合を想定しての機能だと思われます。(なので日本でも導入している)

車体が小さく全長が短いことから、片側4個の転輪しかありませんので、キャタピラの設地長が短い。このため、キャタピラの幅を広くすることで設地圧を増やし、積雪・泥濘地でも機動力が低下しないような工夫が取り入れられています。

(泣き所)
車高が低く、砲身の取り付け位置が低いところにあるため、溝や壕を乗り越える時に注意しておかないと、砲身を地面に突っ込んでしまう恐れがあること。一般的な諸外国戦車に比べると、超壕能力がやや低いところが弱点と指摘されることもありますが、そもそも防御戦闘を主体に運用する前提なので、そこは考慮する必要が無かったのかも知れません。

(2)武装

主砲:L74/105mm戦車砲

戦車砲のベストセラーと言われる、英ロイヤルオードナンス社製のL7砲をベースに長砲身化したものを装備。自動装てん装置の採用により、毎分15発の発射速度を誇る。これは4秒に1発撃てる計算になり、かなり早い。

戦車砲弾は砲尾を挟んで左右の弾倉に25発づつ、合計50発搭載。

弾丸の種類はAPDS/装弾筒付徹甲弾25発(後にイスラエル製M111/装弾筒付有翼徹甲弾/APFSDS弾を採用)、HE(榴弾)20発、発煙弾5発。弾倉への装填時間は約10分程度。

この戦車には砲塔がないので、横方向に射撃する必要がある時は車体ごと向きを変える必要があるのですが、この時に『超信地旋回』(左右のキャタピラを逆方向に動かして同じ位置で車体の向きを変える)を行います。
キャタピラの設地長が一般的な戦車よりも短いため、超信地旋回の速度はとても速い。砲の照準を行うことを考慮すると、早いだけではだめで、かなり精密な旋回性能が要求されます。

車体前方左側に服武装の7.62mm機関銃2丁が装備されているほか、戦車長用の潜望鏡横のマウントにもう1丁7.62mm機関銃が装備されている。

(3)乗員レイアウト

この戦車の最大の特徴は砲塔が無いことですが、それとは別に非常にユニークな点がこの乗員の乗り方です。

車体内に3人の乗員が乗るのですが、車体右側に戦車長、左側に操縦手兼砲手。その後方に背中合わせに通信士が配置されています。

なぜ背中合わせなのか。

この戦車は車体ごと砲を目標の方向に動かす必要があるため、操縦席に火器管制装置が装備されていて、ドライバーが砲手を兼務することになっています。また、戦車長席にも同様の火器管制装置と操縦装置が備えられていて、戦車長と操縦手が双方で操作と戦闘を行うことができるようになっています。これは90年代の第3世代戦車とほぼ変わらない設計でもあります。(非常に先進的)

車体に砲が直接固定されているので、後退時は敵方向に砲を向けたままバックで離脱しなければならないのですが、この時に前進時とほぼ同じ速度でバックすることができます。車体後方の後ろ向きにもう一つ操縦席があるからで、ここには通信士が乗っています。通信士は副操縦士を兼ねており、後方離脱時は後ろ向きに走れるのはこのためです。尚、通信士兼副操縦士は、砲の自動装てん装置が故障した場合に手動で砲弾を装填する『装填手』も兼務します。

(4)世界初のワンマンTANKの誕生

自動装てん装置を装備し、射撃と操縦が一つの席に座る一人の乗員で可能なので、理論上この戦車は『一人で全ての運用が可能』な世界初の戦車と言えます。

(5)弱点

(一般的な評価)
①砲塔が無いので横方向を射撃するには車体ごと向きを変える必要がある。
②一般的な諸外国の戦車が走行中に射撃を行う『行進間射撃』ができるまで技術が進歩する中、車体構造上、同射撃が不可能。
③車高が著しく低いのは非弾面積が極小と言う利点がある一方において、遠くまで見通す視界が不足する。(目線が低いので遠くまで見えない)
④キャタピラの設地長が短いため、溝や壕を超える能力が一般的な戦車に劣る。
⑤自動装てん装置や2系統の動力(エンジンが2コ)、複雑なトランスミッション等を搭載しているが、乗員が3名であり野外整備上の負担が大きい。

(私個人の評価)
①そもそも運用構想と相対する要素を言ってる。不必要な機能は弱点にはならない。
②前項に同じ。
③ドローンを使え。
④防御戦闘に超壕能力は不必要。
⑤野外整備体系(部隊の編制や運用面)の仕組みを工夫すれば問題なし。(むしろ3名乗員では、待機中の直接警戒などのローテが厳しいなど他の問題点の方が多いと思料)

⇒個人的な結論:一般的に言われている弱点は、全て『尖った運用構想を形にした』ものに対して反対の要素を並べてるので、そもそも欠点や弱点にはならないと思います(笑)

(6)時代の流れとともに…

1983年から各部を近代化改修したCタイプに仕様変更され、翌年の1984年からは後継装備となるStrv2000の開発がスタートしましたが、コストなどの問題から1994年に計画は中止されています。

これは筆者の予想ですが、当時は冷戦構造崩壊直後であり、世界各国の重戦力整備はかなり困窮しはじめたころでもあったことから、新しい装備にお金をかけるよりは既存のものを輸入した方がコスパがいいとなったのかも知れません。(情報ソースなし、あくまでも個人的な考えです。)

現在のスウェーデン陸軍では、Strv121(ドイツ製レオパルト2A4)、Strv122(ドイツ製レオパルト2A5改)が主力戦車として採用されており、Sタンクは全車両が退役しています。

時代の流れとともに既存装備が技術的に陳腐化してゆくのは仕方がありません。

このSタンクと言う戦車は、スウェーデンという国の気候風土に基づいた具体的かつ実効性のある防衛構想を運用に密接に繋げきっている世界稀に見る装備であると思えます。

なぜ私がSタンクと言うマイナーな戦車のことが好きなのか。『自国を本気で、自力で守る。』と言う気概に満ちた戦車であったことが間違いないと思えるからです。

4.最後に…

このSタンクの幻の『Dタイプ』が1両だけ試作されており、それは『スウェーデン陸軍機甲部隊博物館』に展示されているそうです。

ヨーロッパ各地には有名な戦車博物館があちこちにありますが、いつの日か、直接自分の眼で、この1両のSタンクを直に見てみたいと思います。

毎度のことながらですが、なにしろ素人が書いている記事ですので、諸所分かりにくいところもあるかと思いますが、どうかご容赦ください。

最後まで読んで頂いて、ありがとうございました。

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