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テレビの試合中継。写メってツイートするのは著作権侵害??|平林弁護士がアドバイス!SNS法律相談所(連載02)(2015.6.29 )

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※掲載内容は、Webメディア「kakeru」での公開当時のもの(2015.6.29)のものとなっております。ご了承ください。

相談内容

相談者Tさん(社会人男性)

僕は野球が大好きで、小さい時から阪神タイガースのファンです!試合があれば球場まで観に行ったり、テレビの生中継を観て、Twitterで実況ツイートをおこなっています。そしてTwitter上で阪神ファンと盛り上がるのが恒例となっています。

だけど、あることが気になっています。それは「テレビで放送されている生中継映像を撮影してツイートしていいのか」ということです。ファン同士で盛り上がりたくてついつい画像つきツイートをしたくなりますが、最近よく「著作権」の話題を目にするようになっているので、気になっていて…

平林先生、教えてください!

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結論は…

こんにちは。「JOIN US」審査通りました、平林です。

なるほど、テレビで野球中継を見ながらTwitterで盛り上がるんですね。楽しそうです。いい場面があったら、思わず、スマホでテレビ画面を撮影して、画像も一緒にツイートしたくなりそうです。

今回は「著作権・著作物」について実例を交えて丁寧に解説していきます。 まずは結論をお伝えいたしますね。

【結論】Tさんの画像付きツイートが著作物の「引用」(著作権法32条1項)と認められる場合、著作物侵害にはならない

です。なぜそう言えるのか、分かりやすくひも解いていきます!

著作権とはなにか

さて、著作権が気になっていて……というご相談ですが、そもそも「著作権」とは何でしょうか。

著作権とは、「著作物」を独占的に利用できる権利です。著作権をもっている人(著作権者)以外の多くの人にとっては、著作権者の許諾がない限り「著作物」を利用できないという意味で、権利というよりも規制として機能します。

「独占的に利用できる」といっても、あらゆる利用形態が著作権の対象になるわけではありません。独占的な権利が認められる利用形態は著作権法で決められています。たとえば、複製、上演・演奏といった利用態様に応じて、複製権(著作権法21条)、上演権・演奏権(著作権法22条)があります。これに対し、著作物にアクセスする(閲覧する、視聴する、鑑賞する)という利用態様に対応する権利は著作権法にはないので、誰でも自由に行うことができます。

複製権、上演権・演奏権のような、著作権の内容の一つ一つのことを「支分権」と呼んでいます。支分権のラインナップは世の中の変化に合わせて、法改正により変更されます。たとえば、通信技術の発展に対応するために、平成9年の著作権法改正で、公衆に対して有線又は無線電気通信によって著作物を送信するという利用態様(公衆送信)が著作権の対象となりました(公衆送信権、著作権法23条1項)。

ツイートする行為は、ツイートの内容をTwitterのサーバに記録して、インターネット経由で不特定多数の人が閲覧できるようにする行為なので、著作権法が定める「送信可能化」(著作権法2条1項9号の5)という利用態様に該当します。

そこで、ツイートの内容が「著作物」である場合、著作権者の許諾なくツイートすると公衆送信権(著作権法23条1項)の侵害になります。

著作物とは何か

では「著作物」とはいったい何なのでしょうか。

著作権法には「著作物 思想又は感情を創作的に表現したもの……」(著作権法2条1項1号)と書かれています。著作「物」と呼ばれていますが「物」ではなく無形の情報です。たとえば、小説は著作物ですが、小説が記された書籍は著作物の媒体に過ぎずそれ自体は著作物ではありません。同様に、楽曲は著作物ですが、それを音符で表した楽譜は著作物ではありません。

ある情報が「著作物」ということになると、著作権者以外の人(=世の中のほとんどすべての人)はその情報を自由に利用できません。そこで、「著作物」の範囲を広げすぎると、情報をうまく活用できない窮屈な社会になってしまいます。

たとえば、2013年の流行語大賞になった「今でしょ!」が著作物になると仮定すると、我々は勝手に「今でしょ!」とツイートできないわけです。え、もはや死語なので不都合ないですか…時の流れは残酷ですね…しかし、著作権は類似表現にも及ぶので、「今だろ!」とか「今だよね!」とか「今でしょうが!」みたいな表現さえも、勝手に使えない可能性が出てきます。いくらなんでも、そんな世の中じゃ…POISON!

…というわけで、ある情報を「著作物」として著作権者に独占させるべきか、それとも「著作物」とはせずに誰でも自由に利用できるリソース(公共財)として社会に残しておくべきか、というバランスは、非常に重要です。そのようなバランスをとった結果、著作物にならないことになっている情報もあります。

まず、事実やアイディアは著作物になりません。法解釈としては、事実は「思想又は感情」(著作権法2条1項1号)ではないから、アイディアは「表現」(著作権法2条1項1号)ではないから、それぞれ著作物ではないと説明されるのですが、その背景には、事実とかアイディアとかいった情報を誰かに独占させたら社会が成り立たない、という価値判断があります(注釈1)。たとえば「フレーズの最後に唐突に”POISON!”を入れる」というのはアイディアに過ぎないので、反町以外の方も自由に使えます。

(注釈1:アイディアの中でも「発明」には「特許権」という独占的な権利が認められることがあります。)

また、「ありふれた表現」も著作物になりません。「今でしょ!」が著作物にならないのは、このためです。法解釈としては、「ありふれた表現」は「創作的な表現」(著作権法2条1項1号)ではないから著作物ではない、と説明されますが、その背景には、誰が表現しても同じような表現とならざるを得ないもの(=ありふれた表現)を誰かに独占させてしまうと、これまた社会が成り立たないので、著作物にはしないことにしたのです。

中継映像のひとコマは著作物か

それでは、改めてTさんの相談内容を考えてみたいと思います。

まず、野球の試合を撮影した生中継映像は、著作物になります。試合の中継映像は、野球の試合の各場面に応じて被写体(選手、観客、審判など)の選択や撮影方法(被写体を撮影する角度や被写体の大きさなど)に工夫がこらされており、「創作的に表現されたもの」といえるからです。この結論については、あまり異論がないと思います。

最近の例でも、総合格闘技の試合を撮影した動画映像を「著作物」と認め、著作権者の許諾なくこれをニコニコ動画にアップロードした被告に対して1,000万円の損害賠償請求を認めた判決があります(東京地裁平成25年5月17日判決)。

では、中継映像のひとコマも「著作物」になるでしょうか。これが「著作物」になると、Tさんが撮影した画像も著作物のデッドコピーということになるので、Tさんの画像付きツイートは公衆送信権侵害ということになります。

中継映像が膨大なコマ(昔は1秒間に24コマ)の集積から構成されているのは、みなさんもご存知かと思います。このコマの一つ一つは、静止画、すなわち「写真」です。そして、著作権法には、著作物となるものの具体例として「写真」が挙げられています(著作権法10条1項8号)。もっとも、あらゆる写真が著作物となるわけではありません。前出の著作物の定義を思い出してください。著作物とは「思想又は感情を創作的に表現されたもの」(著作権法2条1項1号)のことでした。したがって、写真も「思想又は感情を創作的に表現されたもの」といえる場合に著作物になります。

写真が「思想又は感情を創作的に表現されたもの」といえるための条件ですが、被写体の選択、シャッターチャンス、シャッタースピード、絞りの選択、アングル、ライティング、構図、トリミング、レンズ、カメラの選択などのどこかに「創作性」が認められれば足りると考えられています(「Dolphin Blue事件」東京地裁平成11年3月26日判決、「グルニエ・ダイン事件」大阪地裁平成15年10月30日判決、「東京アウトサイダーズ事件」東京地裁平成18年12月21日判決など)。ここでいう「創作性」というのは、高い芸術性や独創性が要求されるわけではなくて、「何らかの個性が現れていればよい」というかなりハードルの低い概念と考えられてきました。もっとも、著作権法学界では「創作性」概念を個性の発現に求めるのではなく「表現の選択の幅」と捉える見解が近時有力になってきています。

…えーと…あまりに抽象的なので、具体例で説明しましょう!

創作性が否定される写真の例

まず、創作性がないために著作物と認められない写真の代表例として、固定式監視カメラで撮影された写真、自動証明写真機で撮影された写真があります。これらの写真は、機械が自動的に撮影しているので撮影者(人)の「個性」が現れているとはいえず「創作性」がないと考えられています。

また、絵画など2Dの著作物を忠実に撮影した写真は、被写体となっている著作物に、さらに独自に何かを付け加えるものではないため「創作性」が認められず、著作物ではないと考えられています(「版画写真事件」東京地裁平成10年11月30日判決)。

創作性が肯定される写真の例

創作性が否定される自動証明写真とは異なり、人が撮影する肖像写真は、単なるカメラの機械的作用を超えて何らかの撮影者の個性が現れるものなので、大抵の場合、創作性が認められ、著作物になります(「真田広之ブロマイド事件」東京地裁昭和62年7月10日判決、「創価学会肖像写真事件」東京地裁平成17年2月26日判決)。

また、高い芸術性や独創性がなくても、何らかの個性が現れていれば創作性が肯定される点については、例えば、写真撮影については全くの素人である撮影者(アマチュア史家)が撮影した石垣の写真について、撮影者の個性が現れているとして著作物と認めた裁判例があります(「石垣写真事件」青森地裁平成7年2月21日判決、同事件について、仙台高裁平成9年1月30日判決)。

(再び)中継映像のひとコマは著作物か

では、Tさんの事例に戻りましょう。Tさんが撮影した中継映像のひとコマは、著作物といえるでしょうか。

中継映像の中の任意のひとコマは、そのコマについてシャッターチャンス、シャッタースピード、絞りの選択が行われているわけではありません。しかし、中継カメラを操作している撮影者は、刻々と変化していく野球の試合を連続的に撮影する際に、その瞬間ごとに、被写体、アングル、ライティング、構図を選択しており、その一瞬を切り取った中継映像のひとコマにも撮影者の個性が現れていると評価するのが妥当だと思います。

そうすると、中継映像のひとコマにも「創作性」は認められ、これも「著作物」という結論になるのだろうと考えています。

引用として許されるか

このままでは、野球中継を撮影した画像付きツイートは著作権侵害になってしまいそうです。画像と一緒にツイートして盛り上がりたいというTさんの希望をなんとか叶えてあげる方法はないでしょうか。ひとつの可能性として「引用」として許される余地があるか検討してみます。

著作権法は「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない」(著作権法32条1項)として、著作権者の許可を得ずに著作物を利用できる場面があることを認めています。そこで、Tさんの画像付きのツイートが、この「引用」になる場合、著作権侵害にはなりません。

では、どのような場合に、引用と認められるのか。従来、裁判所は「引用」と認められるためには、①「明瞭区別性」と②「主従関係」という2つの要件を満たさなければならないと判断していました(「パロディ=モンタージュ写真事件」最高裁55年3月28日判決、「藤田嗣治事件」東京高裁昭和60年10月17日判決)。「明瞭区別性」というのは、引用される著作物と引用するモノが明確に区別されていることを要求するものです。また、「主従関係」というのは、あくまで引用するモノがメインになっていて、引用される著作物は従属的に出てくるような関係を要求するものです。

これを、Tさんの画像付きツイートにあてはめて考えてみると、ツイート内で(テレビ局の著作物である)画像と(Tさんの)テキストははっきり分かれているので①「明瞭区別性」の要件は満たすでしょう。しかし、②「主従関係」の要件を満たすのは難しいと思います。

「主従関係」の要件を満たすか否かが争われた裁判はたくさんありますが、けっこう厳しい認定がされている印象を持っています。たとえば、バーンズ・コレクション展を紹介する新聞記事の中で、ピカソの絵画のカラー写真とこの絵画に関する女優の談話を掲載したことについて、女優の談話が「主」、ピカソの絵画が「従」という関係にはなく、主眼は絵画の複製掲載にあったとして引用を認めなかった例があります(「バーンズ・コレクション事件」東京地裁平成10年2月20日判決)。同様に、「中田英寿 日本をフランスに導いた男」という書籍の中で中田英寿さんの中学生時代の詩を掲載し「中学の文集で中田が書いた詩。強い信念を感じさせる。」と紹介した(1ページに詩と左記のコメントだけが記載され、書籍の他の箇所でこの詩に言及した記載は一切なかった)ことについて、中田英寿さんの詩の方が「主」であるとして引用を認めなかった例もあります(「中田英寿事件」東京地裁平成12年2月29日判決)。

Tさんの画像付きツイートの場合、Tさんのツイート内容と画像との関係によってケースバイケースの判断になりますが、野球中継の画像が「主」で、Tさんのツイート内容は「従」と判断されてしまうケースはけっこう多いのではないかと思います。

もっとも、近時、この「主従関係」を要求しない裁判例も現れてきています(「鑑定書事件」知財高裁平成22年10月13日判決、「絶対音感事件」東京地裁平成13年6月13日判決)。これらの裁判例は、条文の文言どおり「公正な慣行に合致」し、「正当な範囲内」といえる場合には「引用」と認められるとし、そういえるかどうかを、利用目的、利用方法・態様、利用される著作物の種類・性質、著作権者に及ぼす影響の有無・程度などを考慮して判断しています。

中継映像の一瞬を撮影した画像をツイートするだけで、とくに営利目的もないのであれば、テレビ局に及ぼす悪影響もとくになさそうな気がしますし、今後、裁判所がこういった新しい判断基準によって「引用」の成否を判断するようになれば、Tさんの画像付きツイートが「引用」と認められるかもしれません。

というわけで、Tさん、ここは一つ、野球中継を撮影した画像付きツイートにトライして頂いて、テレビ局に訴えられたら「引用」の抗弁を主張してみてください!健闘を祈ります…( ˘ω˘ )



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