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530 83歳ゆらぎの中を

 (5)春の雨の日

 春雨というより暗く重い雨が朝からずっと、今日は一日雨の予報。
自分は晴れ女で、陽気な行動派なのだが、八十路に入ってからは、徐々に様子が変わってきた。表見は、まだ、誰にも気づかれないのだが、己はごまかせない。身体的な衰えに引きずられて、精神には、様々な揺れが生じている。
まあ、しかし、基調が晴れやかな性格であるゆえに、ゆつくり進行中の内面の変化は、黙っていれば、あまり気づかれない程度だろう。
いやいや、この頃、朗らかな花子節に、陰りが出てきたこと、もしかして敏感な人は感じているかもしれない。
今日のような雨の日、日ごろのはしゃぎやすさが、少し静まって、人とも話さず家でぐずっとしたり、気が向けば片付けをしたり、雨に唄えば♫心楽しく、気に入っていた。
過敏なところのあった思春期のメランコリーとは違い、大人になって、粋も甘いもわかってからのメランコリーほど甘やかな魅力的な気分はない。
もっと、通り越して、老年のメランコリーはいかに?
体の不調が、今のところなだめられて、医者通いもなく、約束もないから、でれっとした気分で、雨音を聞きながら、レモンケーキにほうじ茶など。
晴れて掃除日和でも、ガラス窓は見ないようにする人が、雨の灰色の立ち込めた空気感は、目障りなことが消えて、ゆったり出来る。
腹部大動脈瘤が、手術をしたから、破裂して死ヘ直行は無い。大きな不安が取り敢えず抑えられ、足腰手指のイテテ、イテテが、しぶとく疼く。
先日、食器ダナの最上部のものを取ろうとして、手を伸ばしたら?届かない!えっ?
馬鹿な!
背伸びしてみても、さわれても下ろせない。
暫し呆然、あれ?少しずつ縮んではいたけど、161センチが156までは確認している。
仕方がない、台を持ってきて、要は済んだよ。
ショックは大きかったなあ。
道理で、姉妹三人の中では一番背の低い次女と、並んでいたのに、この頃は見上げていた。
アレコレできにくくなってるのは自覚していたが、なんか一挙に、背が縮んでしまったみたいで、凄いダメージ。
そういえば、食卓に付いても、必ずクッションがないと、落ち着けなくなっている。坐高が不足して、作法が綺麗さにかける。
そうそう、おトイレのペーパーも、棚の上に並べて保管してあるのが、手を伸ばしても取りにくくなった。
嫌だわ、少しロマンチックな気分で、メランコリーな風情を味わおうと思っていたのに、実際的な具体的な事実物語の無惨。
フランスの詩の一節でも浮かんできて、沈丁花の香りに包まれながら、アンニュイな気分に浸ってでもいたら、一幕は出来上がるだろうに!
 それにしてもよく降る雨である。昨日魚市場で買ってきた本マグロを、贅沢にもおやつの様に味わっている。このとろりといい味の切り身を、ゆつくり。ここでお酒を少しとなればムードが出来上がるのに。色気なしの私は、ぬるいお白湯をちびちびと。まあ、機嫌よく雨音を愉しんでいるのだから良しとするか。 
 昨日の医者を思い出している。心臓血管外科のハンサムドクターは、悪戯な目つきで太っチヨバアさんをからかったなあ!人のお腹の脂肪の厚さなんか、ほっときなって!
 もう一人内科の先生。真っ赤な顔がむくんでつらそうだった。普通でなかったよ?
私は聞きたいことが一つ2つあったのに、唯ごとでない様子に恐れをなして、血圧も収まっているからもうこなくていいと言われたのを聞いて、早々に逃げ出した。もしや先生もコロナだったりして?!まさかとは思うけど、あの病院、患者が押しかけ、先生ほかスタッフも大忙し。なんかあってもおかしくない。
 取り敢えず一応の結着。
こうして文章書きながら、メランコリーにはならないで時は過ぎ行く。

#静かな雨の日
#特に思い煩うことなし

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