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463 82歳暮らしの断片。

(4)食事処にて

 劇団民芸とこまつ座の公演を見た。
井上ひさし原作[ある八重子物語]は、実に上質の楽しめた芝居。
主人公の老舗医院長は、大女優八重子の熱狂的なファン。医院のスタッフにも伝染し、新派の有名な場面の触りが惜しげなく披露される。
今日私が話したいのは、この感激的な観劇のあと、立ち寄った食事処での一幕である。

あった!こんな隅に

 なくなってしまったと思っていた魚専門のお店が、確かめに行ったら、規模が少し縮小されて、中身にも変化があった。
自分の住んでいる一宮の駅にも、(嘉文)は、あった。思い出して寄ったのは、金山の駅の方。チェーン店であるらしく、三河の刈谷駅の(嘉文)にも、何度か行ったことがある。
金山のそこは、やはり今日のように観劇の前か帰りに寄って、家ではなかなかうまくできない珍しい魚の煮付けなどを食べていた。
店は広く、一杯やる男連中が多くて、最初は女一人で入りにくかったが、煮魚焼き魚を食べたくて、思い切って行ってみた。珍しい魚も色々あるし、お刺身等も新鮮たっぷり、すっかり気に入って、それからは一人でも躊躇わず席に座って注文を楽しんだ。

さて久し振りに、いそいそ入った店内は?!

様変わり

 狭くなって明るくなった。
メニューを見たら、食べたい魚が種類も少なく、値段は高く、程々がない、気安く手の出るのは、なんのことない、魚屋ならず、鶏の唐揚げとかトンカツとか、魚はフライ。
悩んだ挙げ句、海鮮ちらしを注文、海鮮はともかくご飯が多くて、八十路のみには、食いしん坊といえども、持て余すほどの量だった。
ハアーと、ため息付きながら、隣を見ると、ビールが。
小柄な老女が、澄まして、魚のアラをしやぶっている。小骨を丹念に取り除けながら、実に美味しそうに。何やら通な感じがする。

声かける

 あの、ビール美味しそうですね!美味しいよ、おかずがいいから。
それから二人、たちまちの仲良し、90歳とおっしゃる、ちゃきちゃき老女は、82歳の私を、若い若いと。
もうね、やること済んだし、家族の事はとにかく、自分一人が機嫌良く暮らすことを考えているの。お陰様で屋根とわずかでも年金あれば、転ばないようにしながら、外食に出歩き、好きなもの食べて、今日を暮せばそれでいい。彼女の言。
 意気投合しながら、更に彼女の願いを聞くと、できたら瀬戸内寂聴と同じくらいまでは、生きたいとのこと。それはそれは!私にはきついわ。あなたなら大丈夫ですねという私に、にっこり笑った!

芝居より染みた

 楽しく笑った3時間の観劇より、見知らぬ婆さん同士、魚突きながら、オッホオッホと声立てて笑いあった時間が実に良かった!
名残惜しくて、ずっと話していたかったが、今日はまだ帰ってから、夜の楽しみが待っている。
珍しく、テレビで野球を見ようと思っていた。好きな訳では無い。長いし、普段は縁のないことだが、大谷選手の生を、是非見たかった。
 お先に失礼しますねといった私に、にっこり笑って、まだ、あらを丁寧に選り分けながら、年上の彼女は、転ばないように気をつけてねと、若い?私に言うのだった。
 ああ、ほっこりしたよ!わかり合って、ひと時。行きずりのおばあさん二人、芝居じゃない、一幕は味があったというものだ。

#ある日ある時
#年増二人が意気投合

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