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542 83歳の日々

(17)思い通り

 こんなに大勢の人間が暮らしていて、一人一人はかけがえのない存在で、よりよく生きたいと、之は本能で願うことなのか?
 人生の山坂越えてきた古びた女たちが、死ぬまで思うことなのだろうか?
 弱くはないなあ、強くなくても、したたかではある。
おぎやあと生まれ落ちて、子供時代を駆け抜け、此世の誰かと番いになり、気がつけば自分が子の親、責任大の時代を頑張り、さらに気付けば、己をいかに豊かにさせうるか、偏に自分にかかっている生の最終段階にいる。
 
 タクシーに乗った。仕切り上手の親分肌の人が助手席。
後は、体の大きな太めが一番奥、真ん中は、これも仕切りや女史、口元には一見大人しい、しんの強い小柄の人。
乗るのはほんの少し、降りる段になると、助手席から割引のあるカードを後ろに手渡す姉御、
カード受け取り、さて支払いの段、運転手は体をひねり後方に声を枯らす。
そこに○△□あるでしょ、そこ押してカード下に入れて!左側に座る2人頭を寄せ、どれ?なに?わからんねえ!ノンビリ。運転手いらつく、そこそこ、したした、みえんの?
もう、お金払うから、670えん?簡単だがね、それそれ!運転手頑張る。
後ろの角で涼しい顔の太め、思っているわけである。
運転手はさっと降りて後ろに回り、料金を入れるやり方を教えれば、理解は早い。ボケてる人はいないのだから!
どっちみち、いきなり支払いシステム変わったら、さっとデキる人はそういないのじゃないか?
スーパ〜の買い物レジや、レストランの支払いのセルフは近頃慣れた!店により機械はマチマチで、お金も縦に入れたり横に入れたり、かざし方も色々で、なにこれ?って言うとスタッフがこうです、あーです、結局口やら手やら出している。
ゴチやついているのを見ると、なんだかなあ?!経過途中の必要悪なんだろうか?!皮肉めいた笑いがこみ上げる。

 タクシーからオリテ後、仕切りや女史二人は、道路上で、大声で息巻く。間違っとるわ、あの運転手の態度は許せん、やり方変わったなら、わかるように説明せんかい!
おばあさんばかりだと言って、あそこにいたのは、やり手の、新シ好きの、陽気な婆さん、揃い踏みなんだよ!
誰もボケてないから、説明すれば理解の早い人ばかり、それを、自分は運転席からてこでも動かず、下手に怒鳴るばかり、あれはなっとらん。
タクシー会社に物申さねば。
どどまることなく怒りは増す。
 太めの婆さんのやったことは!
怒って歩いていくのを横目で見ながら、矢張り、舌打ち顔の運ちゃんによって行くと、(ねえ、今は大変だね)と話しかける。
 慣れるまでは皆んな喧嘩腰だねえ、ちゃんと教えたほうが早いよ!スマホを使い慣れてる私たちでも、目の前のタブレットは目が見えないし、順に説明あればすぐわかる、賢い人達でも、初めから頭ごなしのイライラはイヤだよ。
 のんびり言いながら、でもさ、今日私は初体験で、勉強になったし、面白かったよ。
 やっと気の静まったオジサン、ありがとうと手を振って去っていった。
 腹を立てるより策を講じるほうがあってるなあと思いながら、
あとからゆっくりみんなの後を追った。

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