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536 83歳の日々 

(11)人それぞれの旅

 図書館にこってり縁のある娘が、時々、私用に本を見つけてきてくれる。私はと言うと、老齢のくせに、何かと忙しく、本を選びに図書館まで足を運ぶゆとりなし。
これお母さんどう?と持って来てくれたのを借りて読む。
 角田光代の(いつも旅のなか)というのが届けられた。
ずらりとならんだ外国名が24。私が未経験の国は5カ国のみ。
長く心に温めて、やっと訪ねた国や、たまたま家族が住んでいて、その機を逃さず訪れた国、友に誘われたすべて自前の個人グループの旅、一人での手配旅とか、ツアーも結構たくさん参加した。
とにかくたくさんの国名がダブって書かれていたので、一度に親近感を覚え、家事の何もかも放っておいて、本の中へ。
読み始めて直ぐ感じたこと。海外旅行は40歳が初めてで、頻繁に出かけるようになったのは、50歳を過ぎてからの私と違い、ずいぶん年下の彼女は、旅の始まりも早かったし、時代の流れとともに、女性の一人旅も増えていたのだと思う。
最初に書いてあるモロッコについても、例えば私の紀行文だと、始まりから終わりまでの旅の詳細を、事細かに作文のような感じのところがあこま5る。
クライマックスと言うか、一番描きたかったベルベル人の商売については、角田光代女史も、私もこれが核だったと思うのだが、それ、その通り私の饒舌な文との違いは、(鷲掴み)であるということ。他の国の、どの記述をとっても、余分なことは書かない。必ず核心を外さず、さりげない文体なのに内容の濃い書き方で
結びに向かって、密度を上げ、読者をずっと引き寄せてやまない。それも、熱烈なところはなくて、実にさり気なく、軽やかと言って良い記述で、連れて行く。
 モロッコなどへ来る旅行者は、もう既にあちこち海外は経験していて、だんだん行く先が絞られてきたような人の集まりであることが多い。
たとえば、ものを買うにしても、海外旅行が流行する初めの頃の、例えば中国のあちこち、売り手の必死な様にタジタジ、日本人は辟易させられたものだ。
慣れてきて、行く先も近場でなくなり、商売のやり取りも双方が垢抜けてきて、
まさか、シエンエン、千円ではなくなったが、モロッコでのアンモナイト購入など、思い出に残っていたのが、角田作品を読んで、深く理解出来たことであった。
中国人のオシの強さとは別物の、モロッコを訪れた数多の日本人が育てたと言うべき、幼い商売人。
一度も日本を訪れたことのない商売人の青年は、旅行者から日本という国を知らされて、はからずも日本人好みの対応をする。そのことから逆に、日本の旅人は、彼らの中に自分たちの特性を見せられる。
角田光代なる若い女性作家が、一つの旅から深い考察をするさまに、感心した。
自分の旅と重なる何処の国の記述も、見事に、核心にふれ、それを明るみに表現して、彼女はしかと、国の特徴を見つけ出していると思った。
旅のスタイルで言うと、飾り気なし、気負いなし、身軽にふいと出掛けていって、見てくること味わってくることは、しっかりものにして、大した女性だと、舌を巻く。
ネパール、インド、モンゴルなど、どれをとっても面白く読めた。
キューバには、惹かれる。ミャンマーも行きそびれた!
アイルランドも良いなあ!







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