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508 82歳暮らしの断片


(49)逝きし世の面影  3

 久しぶりの読書の感想文には、実に、手こずった。
文庫本にしても600ページの厚さは、十分読み応えがある。何も知らずに、紹介があったから、つい手を伸ばした1冊は、しかし想定外の面白さであった。
1冊分のあらすじだけも纏まらず、まして、意見や考察なんてとんでも無い。
3回にまでなってしまったのを
とにかく締めくくろう。

簡素と豊かさ。


 幕藩体制下の民衆生活は悲惨極まりないと叩きこまれているような現世の私達。
19世紀末、乗り込んできた外国人はどんな先入観年があったのだろうか?!彼らの驚きやいかに。
一見みすぼらしい漁村、不潔とも思いそうな山村があるにしてもだ、最も基本の衣、食、住の豊かさは、将軍から庶民まで、質素でシンプル。楽しく美しい生活の場としての土地が拡がっていた。
西欧人の言う物質文明の豊かさとは次元の異なる豊かさがあったのである。僅かな収入でも、かなりの生活の安定は、得ていた。
先進の国から、閉ざされた世界をこじ開けに来た自分達は、もしかして、この目前にある幸せな暮らしと、人々の心を、破戒しに来た?と暗然とした向きもあるらしい。
異邦人であっても、アジアへの知見と卓越した知性の持ち主たちは、感じていたらしい。
 現在、様々な時を重ねて発達?してきた文明の中に生きる私達は、江戸、明治の外国人の目に映った日本人の暮らしの真実を、彼らと同じくらいの驚きで見直す気分である。

礼節


 封建制、或いは身分制度の表現であるはずの礼儀作法が、ある種の自由や自立に通じるという逆説もあるらしいが、欧米の観察者が驚いたのはこうだ。
日本人の礼儀正しさは観察者が揃って認めた特性であり、無邪気で明朗、人が良く親切という、正に要に位置する徳目であるということ。深々と丁寧なお辞儀についての、感想が面白い、度が過ぎて滑稽に見えたという。
もう一つ、楽しい群衆の大人しさと秩序については、隅田川の川開きの大混雑の中でも、有難う、ごめんなさいなどと、優雅で温厚な声が飛び交う。下流に属する労働者たちの正直、節儉、清潔など、西欧では、キリスト教徒的とも呼ばれる道徳の全てに関し本を書けると思った程だ。
 開放的で親和性の強い社会は争いの少ない和やかな社会であったと。
表面的にだけでもそう見られたとは?真実は如何?
 身分と自由についても、完全な専制主義のもとで、なんの幸福も満足も享受していないと普通想像されていたところ、事実は全く違っていた。
上級者と下級者との関係も、丁寧で温和であり、一般に信頼が行き渡っていることを知った。
欧米人は江戸期の日本に思いもかけず、平等社会と、自立的人々を見たのである。
勝手に東洋に押し付けていたイメージとは違い、身分的差異があろうとも、不満が残るようなことではなかった。
親和的に貫かれた文明だったのである。

特筆すべきこと


 西欧人をして、日本を楽園と感じさせた一つは、自然の美しさである。日本の魅力は、下層階級の市井の生活をはじめ色々あったが、心奪われたのは自然であった。
江戸は当時世界で最大の人口を擁する巨大都市であったのだが、ヨーロッパにも似ず、アジアの都市にも似ない、田園もしくわ巨大な村であった。都市化された田園という。
自然を熱愛し、安楽で静かな生活、よくも競争もなく、穏やかな感覚と、慎ましい物質的満足感。日本人以上に自然美に敏感な国民はないと言わしめた。
日本人の性格の特徴は、下層階級に至るまで萬人が植物を育てる喜びを見出していることだ。
文明の高さの印だとは、ほんとうに嬉しい評価である。

最後に


 西欧近代のヒューマニズムの洗礼を受け、現代の日本人は、己に確かな個を感じている。
人類史の必然というものがあって、古き良き時代の文明は、命数を終えるものなのであるらしい。
 秋を迎え様々に物思う。

#日本が失ったもの
#合意と工夫で成立していた
 一つの文明

 

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