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538 83歳の日々

(13)山崎方代を読む

 緑内障も、何とか落ち着いているとは言へ、左目の視力は極端に悪いし、目がスッキリしていることはまずない。
それでも人に勧められて興味が湧くと、つい、手を出してしまう。文庫本は字が小さくて読めないからと、自分からは手に取らないし、今や片端から整理している最中である。
 歌集などは良い。 ページがべったり文字で埋まってるわけでないから、何とか目をいたわりながらも読むことができる。
普通に文庫本は全く辛い。目薬を指したり、休憩を挟んだり、読みたい気は逸れども、なんとも切ない。
はあー、やっと読み終わった!
 自分を求めて、歌を読み続けた方代の歌を、自分が何者か知りたい藤島秀憲が、歌人入門の書としてまとめた。
 (まつくらな、電柱のかげに、どくだみの花が
 真白くふくらんでいる)
真っ暗と真っ白の言い回し。
 (鎌倉の裏山づたいを
  てくてくと、仕事のように歩きおりたり)
 オノマトペの頻度が多い私としては実に親しみが持てる。
(ふるさとを、捜していると
トンネルの穴の向こうに
ちゃんとありたり)
内容は俗っぽくても、格調高い調べがあると書いてある。
小気味よいことだ。
 さて、自分も八十路の人となり、いくらおっちよこちよいでも、味わい深い話が身にしみるようになった。あれこれ一人の視点で書き連ねるにしても、流石に上っ面を軽やかにと言うより、心に深く重みも伴って、言葉をつなげたいものである。
 山崎方代。知れば、なんとも憎みきれない達観の人。短歌一筋の人生を、ノンフィクション作家の田澤拓也が、詳細に、見事な物語として書き上げてくれたものだ。
 最初読みかけて、なんだか汗臭いような、もしやもしや、垢抜けない風体の、それでも人懐こいような冴えない男像が浮かんで来た。お金もないし、寝るところ差へ不安定みたいだし、食うための仕事もきちんとしてなくて、歌を作って売り込むだけから事は始まっている。でもそれは、驚くべき熱心さでである。
どんなに見た目は、普通でなくても、やっぱり、好きと才能がきっちり足並み揃っていたんだなあ!
照れ屋で嘘つきで、いい加減に見えるけど、根っこは大真面目。彼とすれ違ったり触れ合う人たちは、大方が彼に取り込まれて、助けたり、褒めたり、可愛がったり、尽くしたり。人たらしみたいなところがある。人が好きで、自分は神経質で傷つくくせに、変なサービス精神がある。
 方代のうたには、憎しみ、恨み、怒りを詠んだものは殆どありません。
 60代半ばの頃には、その名は着実に世間に広まっていた。口から出放題の嘘の真もマスメディアに乗っている。
(青じその花)が、鎌倉春秋社から刊行され、おびには、文士の長老里見弴が、(現世にこんな変わった男のいるとは、あきれたことよ)と、書いている。
何でもかんでも自分中心に好き勝手やるのに暮らしがなっていくし、幼児のような率直さに人は打たれる。
世事に疎く、方代は只短歌一筋の人であった。
恋愛らしきこともあるにはあったが、丸で、お話にならない有り様で、大人と子供のような、心得たほうが寛容に受け止めたようなことだった。
それでも多くの人に方代は愛されたのだと思う。一筋の人には、誰も邪険にはできないものと思う。
 俺は短歌を発表しなければただのかわいそうな盲目の老人だと、本人は、言っていた。
 (白内障、緑内障を併せ持つ
同病の人の歌人生、文庫本読み価値を知る)私の感想。

#始末つかぬ自分に悩んだ歌人
#異端の歌人

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