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「帳面が指摘してくれる!」と喜んだ記帳法とは?

『家庭之友  家計簿」が1904年に出版される前のことを、どのように羽仁もと子が書き残しているか、ご紹介します。新婚家庭の工夫、発見が、家計簿出版の背景にあることがわかります。

 副食物費を日割りにする案は、全部前の主人の小遣(註・1日35銭ずつ財布に入れていく)と同じことです。すなわち毎日の割当額を前夜に記入しておくことになりますから、明日はなにほど以上は使われないということが、毎日はっきりわかっているようになります。
 次に米燃料、調味料などは、毎日買うものではないのですから、一カ月分の三十五円から、一日に※を一斗(一四キログラム)四円二十銭で買ったら、それを引き、また別の日にみりんを五十銭で買ったらそれを引いて、一と月分の予算からの残額を、そのあとに書いていくようにしました。それはちょうど、前の小遣の流儀を逆にした同一工夫なのでした。一日ずつ重ねていって、使いすぎないようにするかわりに、予算総額をいつでも目の前において、そこから使っただけ引いて、残額を一々ちゃんと書いておくと、金がなくても使うという乱暴な考えでない限り、予算は実行されるわけです。衣服費も家具費もみな同じつけ方です。(略)
 そうして月末に、幾枚もつけた小遣帳をしめてみる世話もなく、しめてみてはじめて驚く必要もなく、各費目にわけてあるものですから、だんだん試みていくうちに、予算のたて方の実際に当たらないところも、自分たちの金の使い方の下手なところや、かたよっているところがどこだということを、この帳面が指摘してくれるので、私たちは実にどんなに喜んだかしれません。

買うときめてあったものはきっと買える
 来年はこの案を、一冊の帳簿につくって出版しよう。そうすると、雑誌の読者の方にも、こんなに多くの喜びを与えることができて、私たちももう少しよい生活ができると、そのころいつもいっていました。あのころが思い出されます。
 いよいよ一冊の帳簿にしようと思って、なおだんだんと考えてみると、ほんとにこのやり方には、ほかのいろいろの大切なことがあることを発見しました。それは各費目から少しずつ、あるいは全然あまった金を、各費目別に今月のあまりまた来月さらい月とたやすく合計できるので、それを一緒にしてあずけておいて、もう衣服費はどれだけたまっている、家具費はどのくらいになているとよくわかっているので、励みにもなり、また自然にその額よりも多く買うこともなくなるのでございます。そうして買うときめてあったものはきっと買えるのです。(略)
 このよい合理的な記帳法がなかったら、よい予算の価値はじつにすくないものになってしまいます。反対によい予算をたてて、収支をこの帳面に毎日欠かさずしるしていれば、完全な指導者と一緒に、家計をとっているのと同じことで、少しも心配がないばかりでなく、はっきりと筋道たった家計をとっていることが、日々の大きな楽しみになるものです。

羽仁もと子著作集 第9巻『家事家計篇』第三章 生活費とその予算

 毎日の割当額を決める、予算の総額を常に目の前に置くetc、各費目や食費の割当額を常に帳簿上で確認できる状態にしておくことが、使いすぎの防止や買うと決めておいたものが買えることにつながっていくと、もと子自身の経験が物語っています。それは今日まで続く『羽仁もと子案 家計簿』が愛される理由でもあります。


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