みなさんの生活の中で、今本当に大切で欠かせない物はなんでしょう? その頭に描いた物は、どんな思いで購入したか覚えていますか? よく吟味をして購入した物か、意外とパッと決めて買った物かどちらでしょうか。どちらにせよ、暮らしの中で時間とともに刻まれた、人と物の関係性があってこそ、今大切で欠かせない物が身近に存在するわけです。そんなかけがいのない物との生活を羽仁もと子は、「一粒選りの生活」と表現しました。
羽仁もと子著作集 第21巻『真理のかがやき』の中に登場するこの「一粒選りの生活」には、「家事家計質問会にて」という副題がついています。そして、上記で紹介した文章の前には、当時行われた「家事家計質問会」に集まった方々に対して、羽仁もと子は「家計のやりくりには、上手もあれば下手もある」という話しをしています。その中で、もと子は、自らの経済下手から家計簿が生まれたことを正直に「下手の巧妙」という言葉で話しています。
そんな羽仁もと子の生活から生まれた『羽仁もと子案家計簿』。予算超過に苦しむ間は、きっと前述のような一粒選りの生活は望めなかったでしょう。家計簿が、予算超過を引きとめてくれたからこそ、「ぴかぴか光った家具が美しいと思ったり、艶消しが上品でよいと考えたりするものですが、道具ばかりでなく家にしても、たとえそれが借家でも、自分の住む所、使う所の物をほんとうに愛して、それをどうしたら美しいよいものにすることが出来るかを落着いて考えるのは楽しみでもあるようです。」と、暮らしへの展望が見えてきたのでしょう。
現在、物価高をはじめとする家庭への経済の影響から、不安な日々が続いています。だからこそ、今あるわが家の経済状況を家計簿で可視化することで、ただ不安に過ごすことがなくなり、暮らしの展望が見えてくるはずです。