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【えひめ丸撃沈事件から20年】米原潜によるえひめ丸撃沈事件を糾弾する! (週刊かけはし 2001年2月19日号)

日米安保条約破棄・すべての米軍基地撤去を
     

支配体制を守る「軍隊による安全保障」が民衆を殺した!

 二月九日午後(日本時間十日午前)、ハワイ・オアフ島沖で米海軍のロサンゼルス級攻撃型原子力潜水艦グリーンビル(水中排水量六九二七トン)が、愛媛県立宇和島水産高校の実習生ら三十五人が乗った漁業実習船えひめ丸に海中から急浮上中に激突、沈没させ、九人を行方不明にし多数を負傷させるという、許しがたい事件が発生した。われわれは、米海軍によるこの大量殺人行為を怒りを込めて糾弾する。

 グリーンビルは米太平洋艦隊所属の攻撃型原潜で、本来の対潜水艦・対艦攻撃に加え、核・非核両用のトマホーク巡航ミサイルを搭載し、地上攻撃も行う。湾岸戦争にも出撃して多数の巡航ミサイルを打ち込んで、破壊・殺戮を行った。九八年には、佐世保港や沖縄の米軍ホワイトビーチに寄港している。

知らなかったはずはない!

 事故の原因は、原潜が海中から浮上する際、音波探知装置(ソナー)や潜望鏡で海上の状況を確認するなどの注意義務を怠った可能性が高いとされ、米軍側もラフルアー駐日公使が「米国側の原因によるもの」と認め、米政府も日本側に謝罪した。しかしそれは、単なる「注意義務違反」「うっかりミス」ではない可能性がきわめて高い。グリーンビルは頭上にえひめ丸が航行していることを知っており、知っていながら急浮上したと考えるほうが、むしろ自然であろう。

 当たり前のことだが、潜行中の潜水艦は、常に水中からソナーで水中と海上の船舶の位置や進行方向を調べ、接近してくる船舶がいないかどうかを確認し続けなければ、行動することができない。報道されているように、浮上する際は、ソナーで周辺に船舶がいないことを確認した上で潜望鏡深度の水深二十メートル程度まで上昇し、潜望鏡で周囲三六〇度を観測し、近くに船舶がいないかどうかを目視によって慎重に確認した上で、はじめて浮上することになっている。衝突の危険性と同時に、自らの位置を秘匿するために通常海中を航行する潜水艦が浮上した場合、敵艦艇に発見される恐れがあるからだ。

 御用軍事アナリストの小川和久は、「原潜が浮上時の手順を守っていれば、起きなかった。潜望鏡担当者が未熟だったか、うっかりミスの可能性が高い」と述べている(朝日新聞2月11日)。いかにも御用軍事アナリストらしい、米軍と日米安保体制を防衛しようとする「ためにする議論」の典型である。

 えひめ丸がエンジンを完全に停止していた場合には、装備されたソナーのうち、パッシブ・ソナーしか使わなかったとすれば探知はたしかにある程度、困難になるであろう。しかしえひめ丸は十一ノット(時速約二十キロ)で航行中であった。攻撃型原潜は海中にひそむ敵潜水艦を発見し追尾することが最大の使命であり、搭載された高性能ソナーは数十キロ先のわずかなスクリュー音で、敵艦の種類から時には個別の艦名まで識別する能力を持っている。付近を航行中のえひめ丸のスクリュー音など、探知したくなくても探知してしまうのである。

 「ソナートラブル説」も流されている。しかしソナーは攻撃型原潜にとって生命線であり、仮にトラブルが生じたとしても必ず二重、三重のバックアップシステムがあるはずである。しかもグリーンビルは、九六年に就役したばかりの新鋭艦である。

 それでもソナーがすべてダウンする可能性はもちろんある。しかしそうなったとき、艦長はどう対処するだろうか。現場のハワイ・オアフ島沖は、パールハーバーに司令部を持つ米太平洋艦隊(横須賀の第七艦隊も含まれる)を中心に年間述べ六万五千隻の艦艇が行き交う、きわめて過密な海域である。またハワイが世界有数の観光地であるために、この周辺には常に多数のプレジャーボートが行き来している。

「この海域を航行したことのある、ある潜水艦艦長経験者は『こうしたボートが多くて危険なので、常に潜望鏡を上げて航行していた』と話す」(同前)。潜望鏡で慎重のうえにも慎重に確認しなければ、何よりも自艦を危険にさらすことになってしまう。海上交通量のはるかに少ない全く別の海域ならいざしらず、この海域でそうした確認ぬきに急浮上などできるわけがないのである。

最もありそうなシナリオは

 軍事評論家の藤井治夫は、原潜が港湾から離れた海域で浮上したことは疑問だ、として言う。「攻撃型原潜の行動は軍事機密で、帰港や訓練以外で浮上して艦体をさらすことはまれだ」と語る(同前)。グリーンビルは事故当時、海軍の宣伝活動の一環として民間企業の役員らを乗せた「体験搭乗」を行っていたと報じられている。藤井はさらに言う。「艦内で事故があったのでなければ、民間人へのサービスで浮上してみせた可能性がある。サービスに気を取られ、操艦で気の緩みがでたのではないか」(同前)。

 いままで述べてきた要素を考慮した上で、最も可能性のあるシナリオは次のようになるだろう。近くに航行するえひめ丸を発見したグリーンビルは、「体験搭乗」の乗客に対するサービスとして艦長の操艦技術を誇示しようとし、えひめ丸にギリギリまで接近して急浮上するというパフォーマンスを行おうとした。しかし余りにも近づきすぎ、えひめ丸をかすめて海上に躍り出るつもりが、衝突して沈没させてしまったのである。

 もちろんすべての情報は米軍によって管理・秘匿されており、具体的証拠はない。しかし「ソナートラブル説」や「うっかりミス説」が成り立たず、グリーンビルがえひめ丸の存在に気づかなかったなどということがあり得ないとすれば、このように考えるのが最も自然である。

 米軍や自衛隊が民間人の生命を平然として危険にさらし、生活を破壊して顧みないということは、すでにこれまでいやというほど見せつけられてきた。潜水艦に関わるものだけでも、八一年四月に鹿児島県沖東シナ海で、米戦略原潜ジョージ・ワシントンが貨物船日昇丸に衝突・沈没させて船長ら二人の命を奪った事件や、八七年七月に横須賀沖で自衛隊の潜水艦「なだしお」が、回避義務を無視して大型釣り舟第一富士丸に衝突・沈没させ、三十人の命を奪った事件をはじめ、いくつも数え上げることができる。

 日昇丸を沈没させたジョージ・ワシントンは、救助もせずにそのまま逃げ去った。米政府がこの事故を通告してきたのは、事故発生から三十五時間も経ってからであった。第一富士丸を沈没させた「なだしお」艦上には多数の自衛隊員が並んでいたが、釣り舟客がつぎつぎに溺れていくのをながめているだけで、だれひとり飛び込んで助けようとするものはなく、救命ボートを降ろそうともしなかった。

 今回もやはりグリーンビルは救命ボートを降ろそうともせず、救助活動は一切しなかった。これについて米側は「甲板が不安定で適していないからだ」と主張している(読売新聞2月11日)。しかし事故当時、現場海域の気象条件は北東の風五メートル、波の高さ一~一・三メートル、視界十三キロメートルで、いずれも「良好」であった。これで救命ボートが降ろせないのなら、降ろせるときなど全くないだろう。

 このように、自ら沈没させた民間船の乗員が目の前で溺れているのに助けようともしないという精神構造に訓練された軍人たちが、「体験搭乗」の企業役員らにサービスするために、意図的に民間船を危険にさらすパフォーマンスを行ったとしても何の不思議もないだろう。

日米安保体制は民衆を殺す

 パフォーマンスどころではない。米軍は、防空レーダーをかいくぐって低空で侵入し、敵の施設を爆撃・破壊するための超低空飛行訓練を日本全国各地で繰り広げている。山や谷の複雑な地形に沿って猛スピードで飛行し、ダムや橋や発電所や学校などを現実の目標にして攻撃訓練を行っている。年間数千回も各地で目撃され、衝撃で窓ガラスが割れるなどの被害も多発している。

 航空法は百五十メートルを「最低安全高度」として、それ以下での低空飛行を禁じているが、米軍機は特例法でこれにしばられることなく、百メートル以下の超低空で危険極まりない攻撃訓練を運輸省航空局への申請もなく繰り返しており、政府はそれを容認しているのである。

 九八年二月、イタリアでは超低空飛行訓練中の米軍機がスキー場のロープウェーの下をくぐって飛行しようとしてケーブルを切断し、観光客ら二十人が死亡するという惨事が起きた。日本でも九四年に米海軍攻撃機が低空飛行訓練中に高知県本山町のダム付近に墜落し、乗員二人が死亡する事故が起こっている。

 先日、日航機同士のニアミスで、空中衝突防止装置(TCAS)が作動し、多数の負傷者が出る事故が起きたが、米軍戦闘機の急接近でTCASが作動し、緊急回避するという事態が、毎年何件も発生している。はっきり「追尾された」とする報告もある。米軍機や自衛隊機が、民間の旅客機を敵機に見立てて訓練を行っているというのは、いわば公然の秘密であった。このために七一年には、岩手県・雫石上空で自衛隊機が全日空機に衝突して墜落させ、乗客乗員全員の命を奪うという大惨事を引き起こしている。

 そして横須賀を母港とする米空母キティホークの艦載機による、厚木基地などの滑走路を空母の甲板に見立てたタッチ・アンド・ゴーをはじめとした危険極まりない実戦訓練が、すさまじい騒音で住民生活を破壊しつつ昼夜を分かたず繰り返されている。

米軍は地元自治体の厳しい抗議を平然と踏みにじって演習を続けており、自民党を軸にする歴代政府もこれを容認し続けてきた。沖縄県議会が度重なる米兵による犯罪に抗議し、「海兵隊縮小」を要求する決議をあげたことに対して、在沖米軍トップが「知事は頭の悪い弱虫だ」とののしるメールを流している。これが帝国主義軍隊であり、米軍であり、日米安保体制なのである。

悲劇を繰り返さないために

 えひめ丸撃沈事件は、日米帝国主義の「安全保障体制」が人民の安全を保障するどころか、安全を踏みにじり、命を奪うものでしかないことをあらためて実証した。米軍や自衛隊のこのような横暴を許していては、海でも空でもそして陸でもえひめ丸撃沈事件のような悲劇が今後何度も繰り返されるだろう。

 周辺事態法のもとで、米軍は日米安保条約地位協定第五条をたてに、各地の民間港への強行入港や民間空港への強行離着陸を繰り返している。森連立政権は、戦争になったときに軍事が法秩序を支配し基本的人権を制限することも可能にする有事法体系の整備に全力を上げようとしている。

軍事が優先される社会、軍隊がわがもの顔に振る舞える社会は、労働者人民の生活が脅かされる社会に他ならないことを、えひめ丸撃沈事件はあらためてわれわれに突きつけている。軍事が優先される社会への流れに抗し、「戦争ができる国家体制」形成への流れに抗して、基地も軍隊もない社会をめざして闘いぬこう。

 米原潜グリーンビルによるえひめ丸撃沈を糾弾する! 艦長の身柄を確保して徹底的な真相究明を行え! 米政府は犠牲者遺族の要求にもとづく補償に無条件に応ぜよ! 地域・自治体から戦争協力を拒否する闘いを作り出そう! 米軍艦艇・軍用機の民間港への入港と民間空港への離着陸を阻止しよう! 非核・平和自治体条令を制定しよう! 有事法の整備を阻止しよう! 憲法改悪を阻止する広範な闘いを作り出そう! 日米安保条約の破棄を! 沖縄・日本からすべての米軍基地を撤去しよう! 沖縄・韓国・日本を結び、アジアから米軍基地を撤去する国際主義的連帯を強化しよう! (2月11日)

追記

 二月十日、米太平洋艦隊司令部は、今回の事故が潜望鏡による確認を省略して行われる緊急浮上訓練中に発生したと発表し、同時にグリーンビルのスコット・ワドル艦長を艦長職から更迭して司令部付きとする「処分」を発表した。米海軍当局は、あくまでも「訓練中の不慮の事故」として集約しようとしている。

 事故の真相は何一つ明らかになってはいない。緊急浮上訓練中であったとすれば、まず第一にグリーンビルの艦長がえひめ丸の存在に気がついていなかったのかどうかがはっきりさせられなければならない。第二に、気がついていたとすればなぜギリギリの至近距離に緊急浮上しようとするなどという危険な行動を取ったのか、気づいていなかったとすれば、何が原因なのかをはっきりさせなければならない。

第三に、この過密な海域で、原潜の緊急浮上訓練が日常的に行われていたのかどうかがはっきりさせられなければならない。行われていたのだとすれば、人命軽視もはなはだしいということになり、まさに言語道断である。第四に、日常的に行われていたわけではなく、たまたま今回に限って行われたのだとすれば、なぜ艦長がこの過密な海域で危険な訓練を行おうと判断したのか、それは艦長の一存なのか、それとも艦隊司令部の決定なのかがはっきりさせられなければならない。

 米海軍当局の発表によれば、グリーンビルは通常浮上で海面に出て安全を確認し、再び急速潜行して今度は緊急浮上するという、「緊急浮上訓練」の手順を踏んだ行動を取ったことになっている。そうだとすれば、えひめ丸に気がつかなかったという主張はきわめて不自然である。えひめ丸は四九九トンで、全長五十八メートルもあるかなり大きな船である。レジャー用の小さなモーターボートではない。気がつかないはずはないのである。

 いずれにせよ、真相は何一つ明らかになってはいない。「とかげの尻尾切り」による幕引きを絶対に許してはならない。日本政府はこのような点の解明を米政府に要求する義務がある。国会の審議のなかでも、これらの点の追及が行われなければならない。

  (2月12日 高島義一)

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