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【帝国主義的グリーン政党批判】ヨーロッパ緑の党はいまでも反戦勢力だと言えるのか (週刊かけはし 2001年8月6日号)

NATO「新戦略概念」とドイツ緑の党の態度

 この六月十九日からドイツ連邦憲法裁判所で、NATO(北大西洋条約機構)の「新戦略概念」を議会での審議なしにシュレーダー政権(社民・緑連立政権)が受け入れた問題についての審問が始まった。

 九九年三月二十三日から七十八日間にわたって、NATO軍によるユーゴ空爆が行われた。NATO加盟諸国がユーゴスラビアから武力攻撃を受けたわけでもなく、もちろん空爆を指示ないし支持するようなどのような国連総会や安保理の決議もなかった。国際法の常識に従えば、それは公然たる侵略戦争であった。またそれは、外部から侵略を受けた際に「共同防衛」するという、それまでのNATOの「建前」さえも踏み越える侵略戦争であった。

 NATOの「新戦略概念」はこの「建前」を根本的に変更して、外部からの侵略を受けていなくても、NATO域外諸国の民族対立や紛争あるいは「ならず者国家」のけしからぬ振る舞いに対して、先制的に武力攻撃を加えるというものである。この「新戦略概念」は、ユーゴ空爆に先立つ九八年十二月、アメリカ・クリントン政権の国務長官オルブライトがNATO外相理事会で提案し、空爆の最中の九九年四月にワシントンで開かれたNATO首脳会議で決定された。

 「新戦略概念」のポイントのひとつは、このようなNATO域外への武力行使を、国連安保理の承認なしにアメリカとNATOの一方的判断で行えるようにするというものだった。オルブライトは述べた。「NATOと国連が協調できるときはいい。しかし同盟国はある作戦に対し、あれこれの拒否権の人質になるわけにはいかない」。

 民主社会主義党(PDS)は、社民・緑政権が連邦議会の審議もなしにこの「新戦略概念」を受け入れたことが、外交・安保政策についての連邦議会の決定権を侵害するものであるとして告発した。ドイツ連邦憲法裁判所での審問は、この告発を受けて始まったものである。

 審問のなかで緑の党フィッシャー外相は、「NATO新戦略概念は条約ではなく政治文書なので、連邦議会の審議は必ずしも必要ではない」と開き直った。そしてさらに裁判所に対して「ひとつの判決が政府の活動を劇的に制限し、ドイツ外交を危うくする」と述べて脅しつけた。「PDSの主張を受け入れたりしたら国際的に大変なことになるぞ。分かってるんだろうな」というわけである。

 ユーゴ空爆を自ら行うことで「帝国主義グリーン」への決定的右転落を遂げたドイツ・フランスなどの緑の党は、さらにこの右転落路線を国際的にも押し広げようとしている。今年四月、オーストラリアで「グローバル・グリーン」国際会議が開かれた。政治的にも財政的にも組織的にも、政権党となっているドイツやフランスなどヨーロッパの緑の党が主導したものである。そこで決定された「グローバル・グリーン憲章」には、次のような項目がある。

 「9│1 紛争処理と平和維持のための地球規模組織としての国連の強化を支援する、その一方で、予防策がない場合、および計画的で大規模な人権侵害や大量虐殺が起きた場合には、国連もしくは国連の一地方機関の権限に基づくという条件で、軍事力の使用が排除され得ないものであることを認識する」。

 これが、「多国籍軍」による湾岸戦争型の侵略戦争やユーゴ空爆を正当化しようとして入れられた項目であることは、論を待たない。もっとも、フィッシャーらが擁護するユーゴ空爆とNATOの「新戦略概念」はここからさえはみ出している。グローバル・グリーン国際会議に出席した六十カ国以上のグループのうち、この項目に反対する修正意見を出したのはオーストラリアと日本のグループだけで、原案が採決されてしまった。

 ただし、この文言の後ろに「それぞれの国は行動(戦争行為)を支援もしくは協力しないという権利をもっている」という一文つけ加えられた。「侵略戦争に参加するのは義務だとまでは言えない。参加しない権利もあることは認めてやってもよい」というわけである。かつて「非暴力・非戦」を主張し、NATO解体を要求していた緑の党は、いまやここまで来てしまったのである。

 ユーゴスラビアに対するNATO軍の無差別爆撃は合計三万四千回以上に達した。軍とその施設だけでなく、二百ヵ所以上の民間工場や発電所、三百ヵ所以上の学校、数千戸の住宅が破壊された。旧ユーゴ内戦でクロアチア・ツジマン政権の「民族浄化」戦争で故郷をおわれたセルビア人難民の施設や、ギリシャ行きの国際列車、路線バス、教会や老人ホームまで爆撃された。NATO軍は空爆によるユーゴ軍の死者約五千人、負傷者約五千人と発表したが、子どもたちや高齢者を含む民衆も、緑の党フィッシャー外相が「人道的介入」というこの残虐な無差別爆撃で大量に虐殺されたのである。

 国連バルカン環境問題特別調査団は昨年三月二十一日、NATO軍がユーゴ空爆の際、コソボ自治州だけで三万一千発の劣化ウラン弾を発射したことを発表した。同調査団は、人口集中地域でも発射されているため、市民や国際援助団体、コソボ駐留のNATO軍部隊も危険にさらされていると警告した。

 国連コソボ調査団長でフィンランドの前環境大臣ペッカ・ハービストは「こどもたちが遊んでいる村の真ん中で放射能を検出した。住民は砲弾の破片を記念に集め、乳牛が汚染地域で草を食み、放射能がミルクに入りつつある」と語った。バルカン半島に派遣されたヨーロッパの兵士十二人以上がすでに白血病で死亡し、多数の兵士に慢性疲労、脱毛、各種のがんなど、劣化ウラン弾による被曝が原因と思われる「湾岸戦争症候群」と同様の症状が出始めている。湾岸戦争後のイラクの子どもたちを襲っている悲劇と同様の事態が、コソボやユーゴスラビアで繰り返されることになる。

 劣化ウラン(ウラン238)の半減期は四十五億年である。コソボ自治州は事実上、地球の寿命がつきるまで永久に汚染されたままにならざるをえないのである。緑の党は原子力開発に反対し、放射能汚染を告発してきたはずである。この問題に知らん振りをしたまま、平然と環境問題を語ることが許されるのだろうか。

 緑の党フィッシャー外相らが全力で擁護するNATOの「新戦略概念」と、日米安保新ガイドラインは一体のものである。

 周知のように、資本のグローバル化とそのもとでの新自由主義政策は全世界的に貧富の差の劇的拡大をもたらしている。ますます深刻化する貧富の差の拡大、貧困の深まりが、世界各地で民族対立や宗教対立を激化させている。社会主義的変革の展望が容易に実感できない状況のなかで、人々は自らを苦しめる苦難の原因を他の民族や他の宗教という極めてわかりやすい対象に求めるのであり、反動的指導者たちは、そのような対立をあおることによって自らの権力への求心力を強めようとするのである。

 それは、多国籍資本の世界展開と搾取・収奪システムの安定的維持を脅かす、重大な不安定要因である。しかしこのような民族紛争などの場合、NATOや日米安保のような軍事同盟加盟国がなんらかの主権国家から直接の攻撃を受けるわけではないから、攻撃を受けた場合に反撃するという発動条件のままでは、軍事介入することができない。また、周辺諸国の利害が対立していることが多く、国連決議を軍事介入の口実に使えないこともある。だからこそ帝国主義にとってNATOの「新戦略概念」が必要になったのであり、安保「再定義」と新ガイドライン、周辺事態法、そして「戦争ができる国家体制」の形成が必要になったのである。

 すなわち、小泉政権がめざす「戦争のできる国家体制」とは、ドイツ緑の党フィッシャー外相らがユーゴ空爆を強行することによって作り出し、いまも擁護し続けているNATO「新戦略概念」体制と同様のものなのである。

 ドイツ緑の党やフランス緑の党の戦争政策は、彼らが多国籍資本の支配のもとでの統一ヨーロッパの安定と拡大発展に直接の責任を負うことを、自らの任務として設定していることを表現するものに他ならない。「帝国主義グリーン」の完成である。

 昨年十二月に閣議決定された二〇〇一~〇五年度中期防衛計画で、基準排水量一万三千五百トン、満載排水量では二万トン近い本格的ヘリ空母二隻が導入されることになった。これが、すでに二番艦と三番艦が建造中のヘリ空母タイプの強襲揚陸艦おおすみ型と一体となって、遠く海外で上空から対地攻撃を行いつつ多数の部隊を上陸させる能力を持つ強力な機動部隊が形成されることになる。このヘリ空母導入問題は、全国で反戦・反安保闘争を闘い「戦争のできる国家体制」の形成に反対して闘ってきた多くのグループに深い危機感と関心を呼んでいる。

 緑の党も参加するフランス・ジョスパン政権のもとで二〇〇〇年十一月、原子力空母シャルル・ドゴールが就役した。そして早くもその二番艦の建造が決定された。さらにジョスパン政権は二万一千トンの強襲ヘリ空母二隻の建造に二〇〇二年から着手する。さらにフランスは、原子力潜水艦を持ち、独自の核武装を保持し続けている。そして緑の党は、これらすべてを容認している。日本帝国主義が二〇〇五年に今期中期防で達成しようとする軍事力よりも、はるかに強力な軍事力である。そして言うまでもなく、フランス緑の党が参加するジョスパン政権もまたユーゴ空爆に参加した。

 繰り返す。小泉政権がめざす「戦争のできる国家体制」は、すでに緑の党が参加するドイツやフランスの連立政権のもとで実現しており、実際にユーゴへの侵略戦争が行われてしまった。ドイツやフランスの緑の党の裏切りと犯罪は、それまでの基本政策をすべて投げ捨てて安保も自衛隊も原発も容認した村山社会党(社民党)の裏切りをはるかに超えている。すでにユーゴ空爆によって、大量の流血と死と生活基盤の破壊ともはや絶対に取り返しのつかない環境汚染を現実のものとしてしまったからである。

 社民党はこの間、「護憲」を強調し、かつての村山社会党時代の犯罪的裏切り路線を徐々に修正し始めている。今回の参院選に向けた政策のなかでも、日米安保条約については「軍事同盟の側面を弱めながら、平和友好条約への転換をめざす」とし、自衛隊については「必要最小限の水準にまで縮小し」「将来的にはあくまでも武力のない日本をめざす」としている。もちろんドイツやフランスの緑の党は、この程度の修正すらすることなく、帝国主義的戦争政策を擁護し続けている。

 言うまでもなく「グリーン」に期待を寄せる人々は、ともに闘いのスクラムを組む対象である。しかし闘いを真に前進させるためには、フィッシャーら体制内化した指導部への批判が不可欠である。「戦争のできる国家体制」形成と闘いぬくためには、「グローバル・グリーン」の幻想を断ち切らなければならない。

(7月30日 松本龍雄)

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