アウトプットの量と質

表参道にある国連大学のUNU Conversation Series: The UN - Past, Present, and Futureというセミナーを聞きに行った。おそらくRector(学長)をされているDr. David M. Maloneの最終講義みたいな位置づけだったのだろう。セミナー終了後に花束を持った人達が待機していて、写真撮影が行われていた。

私は国連大学のセミナーに出るのは、今回が初めてで、恥ずかしながらDavidさんの著作を読んだことはなかったが、著作リストを拝見するに研究者としても、実務家としても、一人の人間が20代から70歳までの間でこんなにもできるのかと思うほどの活躍をされている。おそらく学術的な専門は安全保障なのだと思うが、研究者として著作を出す一方、外交官として外交に関わり、学長として大学の運営をするなど、自分が学んできた専門以外での活躍も目覚ましい。学長としての在任中に、一般公開型のConversation Seriesを始めたり、UNUへの学生の受け入れをされたりと、大きな挑戦をされてきた。大学の内側にいる身からすると、学部学生の受け入れや公開授業の実施は、とても骨の折れることだと思う。それでもUNUの存在意義とは何か問い続け、実施されてきた行動力には頭が下がる。今回のセミナーは一般市民に開かれたものであったため、質疑応答の時間には政治的に答えにくい質問が出てきた(中国と日本の関係についてなど)が、どんな質問にも真摯に答えられている姿勢に心を打たれた。

私が専門としている開発経済学は、学際的な側面と経済学的な側面があると思う。途上国の開発に関して扱う以上、各地の文化や社会システムを尊重したうえで、有意義な学術的提言を行うことが求められる。しかし、経済学の論文誌に掲載されるためには、どの地域でも普遍的に当てはまるような理論の醸成に重きが置かれ、各地の文化や社会システムを数個の変数で表すなど単純化して話を進めがちである。また経済学部は社会科学系の学部の中でも、学生数が多く授業と研究(新しく生まれてくる計量分析のテクニックや理論のキャッチアップ)に一所懸命で、視野を広げる余裕がなくなる。

Davidさんのように、新しい分野に軽々と飛び込めるようになるには、何が必要なのだろうか。私は知的好奇心と困難に対する前向きな姿勢ではないかと思う。また知的好奇心を専門知識として自分の血肉とするための、日頃のアウトプットも大事だろう。

Davidさんはとても謙虚で、色んな質問に対しても答えられる視野の広さがある。そして、引退後はもう70歳を過ぎているので、完全にRetireしたいと言いつつも、趣味として書き物をしたいと言っていた(Writing is relaxingと言っていた。そんな境地に至りたい)。質の高いアウトプットをすることを楽しいと感じられるように、私も少なくとも量のアウトプットを増やしたいと思った。

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