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なにが正しいかを決めるのは、結局自分自身。

6月8日。

452年、フン族の王アッティラがイタリアに侵攻した日(アッティラさんは今でもヨーロッパ人にとって恐怖の象徴とまで認識されている豪傑だったらしいです)。

1794年、革命下のフランスで独裁政権を敷いていたロベスピエールが、キリスト教の神に代わる絶対存在を民衆に示すために「最高存在の祭典」を開催した日(民衆のために革命を起こした張本人が、民衆から搾取する側に回ってしまった悲劇は有名ですね)。

1929年、バチカンの国旗が制定された日。

2001年、付属池田小事件が起こった日。

誕生花はジャスミン。タイサンボク。

そんな6月8日。

付属池田小事件はいろんなニュースで取り上げられていた。

事件当時、自分はまだ小学校低学年だったのでリアルタイムで記憶しているわけではないが、その後テレビの追悼番組とかを見ていくなかで、事件の概要をちょっとずつ知っていった。

でも、自分がこの事件とそれにまつわる社会問題のことを痛烈に意識したのは、『ブラックジャックによろしく』という漫画を見たからだ。

『ブラックジャックによろしく』はいわゆる医療マンガで、自分的にはタイトルでも言及している『ブラックジャック』や医療系漫画の金字塔である『医龍』とも並ぶ名作だと思っている。

とくに、医療界に根付く構造的問題(上部組織との癒着や、未認可薬剤など)とそれにジレンマを抱きながらも「命を救う」という医師の使命のもとに立ち向かっていく主人公や周囲の人物を、情感たっぷりに描いていて、熱い気持ちにさせてくれる。

扱う医療テーマも、ガン治療や終末ケア、小児医療など多岐に及んでいる。しかもそのそれぞれが、多かれ少なかれ現実に存在する問題であり、当然のように享受していた医療の裏側で、どんな葛藤や人間ドラマがあるのか考えさせられる。

池田小事件のことを知ったのは、そんな『ブラックジャックによろしく』の精神科編の中でのこと。

漫画の中では、研修医である主人公が精神科に配属され、いろいろな問題に直面しながらも少しずつ周囲の人を変えていくさまを描いている。

その物語のターニングポイントとなる事件として、「ある小学校に男が侵入し、子供を何人も刺殺した。」という描写があるのだ。

この事件こそが、現実に起きた池田小事件をモチーフにしていたのであった。

ストーリーの中では、その男が精神科入院歴があったということが報道される。

その報道をきっかけに、世論は「精神障害=犯罪、危険」というレッテルを作り上げていく。

精神障害に限らないけれど、人はともするとある事象に対して「わかりやすいレッテル」を貼りたがる。

例えば国籍や人種。

「日本人は謙虚で空気が読める。」「アメリカ人は感情豊かで行動的。」

例えば職業。

「バンドマンは退廃的。」「大企業に勤めていればしっかりした人格。」

例えば趣味。

「ギャンブルやってる人は性格に難がある人。」「ゴルフやってる人は金持ち。」

学歴や親の仕事なんてのも「レッテル」を貼る際の判断材料として使われるかもしれない。

これらは、人の社会的価値をある種スコアリングするために積極的に使われるレッテルでわかりやすいが、もっと生活の細かいシーンでも「レッテルを貼る」という作業は常にしていると思う。

「やっぱりスマホはiphoneだよね。」

なんてのもある種のレッテルだ(もちろん、いろんな側面から考えた上で論理的に「iphoneがいい」と導いていることもあるとは思う)。

レッテルを貼る事自体は、悪いことではないとも思う。

対処しなければいけない問題を明確にし、コミュニケーションを円滑にする効果はたしかにある。

実際問題、対象のすべての側面を平等に、網羅的に考えて物事を判断することなど出来ない。

だけどやっぱり、無意識のうちにレッテルを貼ってしまっていることで、見落としている真実がたくさんあると思う。

池田小の事件のこともそうだけど、精神科への入院歴とか、出自とか、そういう情報だけで物事を判断することほど危険なことはない。

真実に到達できないどころか、他者に真実を隠蔽してしまうことにもつながる。

とくに誰もが情報発信できるようになった現代だからこそ、このリスクは自分たちに間近なものとして厳然する。

誰でも、被害者にも加害者にもなりうる世界だ。

世に凄惨な事件は多い。

でも、「ひどい事件だねー。」で終わらせてしまうと、見えてこないものがたくさんある。

それを改めて見つめてみようと思うかどうかは個人の自由だし、敢えて目をつむるという賢さもある。

いずれにせよ、自分にとって何が正しくて何が正しくないかは、常に判断していかなきゃな、と思う。

ちなみに精神疾患と世論との関係を精神科医という立場から丁寧に語っている記事があるので、興味がある人はこちらも見ていただければと思う。

現代に生きる我々にとって(いやいつの時代もかな)、心の病は必ずしも対岸の火事とは言い切れないだろう。

明日は我が身。そんな気持ちで情報を受け止めてみれば、また違った解釈が生まれるかもしれない。

そんなことを思った。




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