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AIに関係する著作権の条項について

訂正:出力の利用について:第47条の7、第49条第1項第2号、第49条第2項第3号の節についてですが、これら三条項における30条の4の適用についての記述は、てっきり学習後得られる出力のことだと思い込んでいたのですが、学習のために収集された複製の目的外利用についての記述だったようです。以下で訂正線を引いて内容を修正しています。

先日作成したnoteで軽く触れたのですが、具体的な著作権法の条文についてまとめることも有益であろうと思ったので整理します。

AI(機械学習)のための著作権の制限条項

著作権の制限とは、一定の条件下では著作権の保護が制限され、第三者が自由に著作物を使えるようにしますよ、というものです。私的利用や引用がその代表例です。

学習のための利用について:第30条の4

この著作権の制限において機械学習の研究促進のために19年改正から施行された条項が著作権法第30条の4です。

(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)
第三十条の四 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
一 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合
三 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合

著作権法第30条の4

ボールドでハイライトしましたが見にくいですね。機械学習にかかわる部分を取り出し、表現を簡単にしましょう

以下の場合には著作物を権利者の許諾なく利用してよい
・情報解析(ここでは大量の情報を比較分類するようなもの)のために使う
・著作物を著作物としては扱わない場合(例えばイラストを画像データとして機械学習の学習に使う、など)
・社会通念上必要限度であると認められる範囲の利用であること
・利用された著作物の権利者の利益を不当に損なっていないこと

出力の利用について:第47条の7、第49条第1項第2号、第49条第2項第3号

さて、第30条の4はかなり条件の緩いものでしたが、機械学習についてみるとあくまで学習(解析)の部分のみにしか言及されていません

では出力については規定がないのか、という疑問が生まれますが、これについて規定しているのが第47条の7、第49条第1項第2号、第49条第2項第3号です。それぞれ下のような内容になっています。

これらの条項は情報解析のために情報を複製したとき、その複製の取り扱いについての条項になります。

  • 第47条の7:公衆への提供

  • 第49条第1項第2号:複製について

  • 第49条第2項第3号:翻案および二次的著作物の複製

第47条の7:公衆への提供

当該条文の第30条の4にかかわる部分を抜粋引用します。

(複製権の制限により作成された複製物の譲渡)
第四十七条の七 ……第三十条の四……の規定により複製することができる著作物は、これらの規定の適用を受けて作成された複製物……の譲渡により公衆に提供することができる。ただし、……第三十条の四の規定の適用を受けて作成された著作物の複製物を当該著作物に表現された思想若しくは感情を自ら享受し若しくは他人に享受させる目的のために公衆に譲渡する場合は、この限りでない。

著作権法第47条の7抜粋

これは要するに、学習利用の際の条件にもあった、「利用する著作物を著作物として利用するのはダメ」という条件が出力にも適用される、ということです。

学習利用の目的に「著作物としての利用を禁止する」ものがありましたが、収集した著作物を学習に使ったものをデータとして譲渡するのは可能だが、「今回使った作品集」のように著作物を著作物として利用できる形態では譲渡などはできないとするものでしょう。

第49条:複製と翻案について

第49条はまとめて扱いましょう。まず第1項第2号および第2項第3号を引用します。

(複製物の目的外使用等)
第四十九条 次に掲げる者は、第二十一条の複製を行つたものとみなす。
二 第三十条の四の規定の適用を受けて作成された著作物の複製物(次項第三号の複製物に該当するものを除く。)を用いて、当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させる目的のために、いずれの方法によるかを問わず、当該著作物を利用した者

2 次に掲げる者は、当該二次的著作物の原著作物につき第二十七条の翻訳、編曲、変形又は翻案を、当該二次的著作物につき第二十一条の複製を、それぞれ行つたものとみなす。
三 第三十条の四の規定の適用を受けて作成された二次的著作物の複製物を用いて、当該二次的著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させる目的のために、いずれの方法によるかを問わず、当該二次的著作物を利用した者

著作権法第49条抜粋

さて、わかりにくいので整理して表現を簡易にしましょう。

・学習データの表現としての特徴が残った出力を利用した場合は元の著作物を複製したとみなす
・学習データとして利用した二次的著作物(例:小説ハリーポッターに対する映画ハリーポッター)をその表現としての特徴が残った出力を利用した場合は二次的著作物のもととなった著作物(例でいう小説ハリーポッター)を翻案(大雑把に言うと加工という意味です)し、かつ、元の二次的著作物(例でいう映画ハリーポッター)を複製したとみなす

つまり、出力に学習データの表現としての重要な特徴が残っている場合には、その出力の利用は元の著作物の複製とみなされるということです。とくに、学習データに使った著作物が「二次的著作物」であった場合には学習データに使った著作物だけでなく、それのもととなった著作物についても権利侵害が成立しうる、ということになります。

・学習データとして集めた著作物を、著作物として利用する(イラストを集めて「使用作品集」として編纂するなど)ことは、そのまま著作権の利用になる、という内容です。

・2項3号では二次的著作物(例:小説ハリーポッターに対する映画ハリーポッター)についても同様についても同様にデータでなく著作物として利用するなら著作権の行使とみなす旨が書かれています。

つまり、データとして集めたから、集めた後は好き放題できる、ということにはならないということです。

その他の条項

以上の内容は出版物や実演(演奏や演技など)にも同様の内容が規定されています。

つまり、音楽データを使うときや書籍を学習に使うときには「楽曲の著作者だけでなく演奏者も」ステークホルダーになりえますし、「著者だけでなく出版社」もステークホルダになりえます。

まとめ

学習利用について
・学習データとして利用する分にはかなり緩い条件で他人の著作物を無許諾で利用できる
・著作権利者の利益を不当に侵害したり、学習データの表現の具体的特徴を強く残すような出力を得るための学習利用は禁止されている

出力の利用
学習データの表現としての具体的特徴が残っている出力については
・自由にWebにアップロードしたりできない場合がある
・学習データの複製とされる場合があり、権利侵害が成立しうる

学習データとして収集したデータの目的外利用
データでなく著作物として利用したならば、収集の目的とは関係なく、無許諾の複製や利用として判断されます。

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