見出し画像

HIASOBI

まさか本当にやるとは思わなかったが、
本当にやってしまった。
やってしまったという言い方には後悔の念を感じるが、
後悔はしていない。

そもそもバレなかったからよかったものの、
バレたら後悔では済まない。


今思えばなんて馬鹿げているんだ
と思うが、
あの頃はそんな馬鹿げたことを平気で考えて
本当にやってしまう、やってしまえるのだ。
若さゆえの冒険。


当時17歳、
秋も終わりを告げる初冬の頃、         放課後の理科講義室で線香花火をした。


ありふれた日常の中で
何か刺激的なことをしてみたかったのか

冬の花火はきれいだよね
などと語り合っていたのか

もはや真相は定かではないが、
教室の中で花火をしたことは事実である。

理科講義室は授業以外では使用することはなく
放課後は立ち入る者もいない。
だから大体そこで待ち合わせをして、教科書とノートを広げ、いかにも勉強している風を装い、(本当に勉強していた時もあったが)
その日の出来事や進路の事、人間関係のあれこれを語り合っていた。

花火したいね、
やっぱり線香花火っていいよね、などと冗談で話していて
冗談が冗談ではなく
本気になって火がついてしまった。

線香花火とライターを前に、
やるだのやらないだの話し合った末、
こうなったらやるしかないでしょう、となった。

一線を越えるとはこういうことか。

一本ずつ線香花火を持ち、火をつけた。

キレイだった
というより
儚いひと時を楽しむ
というより
見つからないかハラハラドキドキしながら
心の隅では見つかりませんように…
終わってほしくないけど
早く見つからないうちに
終わって下さい
などと願っていた。

ほんの一瞬のそのきらめきの中
線香花火は最後を迎える。

小さくなった赤い火の玉

教室の中は無風だ。

風に吹かれてぽちんと落ちる心配は少ない。


が、小さくなった火の玉は
ぽちんと床に落ちた。

赤い小さな火の玉は
黒い小さなほくろとなった。

床には小さな黒いほくろがふたつ

静寂の中、しばし無言で眺める。

煙と火薬の香りが漂う空間

窓、開けた方がいいねと窓を開け
証拠隠滅を図るが
黒いほくろは消せない。

今この瞬間に誰か入ってきたらまずいね
非常にまずいね
退学になったらまずいね
などと今さらいっても手遅れの言葉を発していた。

結果、
何事もなく、退学にもならずに卒業し、それぞれの道へ進んだ。


画像1



あれから20年、
もう時効、でいいだろうか…

あの時のほくろ
まだ残っているのだろうか…

あれから夏が来るたびに
わたしはいつもあの線香花火を思い出すのだけれど
あなたはどうでしょう?


もしあなたに会うことがあったら聞いてみたい。


火遊びの不始末、
まだ残っているのでしょうか…




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?