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【朝の読み聞かせ】おじいさんと盲導犬

なぜかおかしい「おじいさんがいっぱい!」の昔話

1970年代生まれの私にとって「瀬田貞二」は「石井桃子」と並んで「この人の名前がのっているなら、おもしろい本に違いない!」という絶対的な信頼をおけるクレジットです。瀬田貞二さんの日本語は、いつもそこはかとなくあたたかなユーモアがにじみ出ていて、言葉のリズムが心地いい。そんな瀬田さんの素敵な日本語を今の子どもたちにもぜひ楽しんでほしいと思います。

『世界のむかしばなし』(瀬田貞二訳 太田大八絵 のら書店)は、帯の中川李枝子さんの推薦文にあるように、「昔話に精通した瀬田貞二さんが、腕によりをかけてそろえてくださった、とびきりおもしろいおはなしの詰まった」一冊。挿絵の太田大八さんも、赤羽末吉さんと同じく、やっぱり「この人の絵なら!」と思える画家で、その意味でも、子どもたちに自信を持って手渡せる本です。(子どもの本の挿絵は、子どもたちを物語の世界に誘う上で本当に大切なので。)

いつもの小学校4年生のクラスへの朝の読み聞かせに、この本の最初に載っている「七人さきのおやじさま」(ノルウェーの昔話)を選びました。久しぶりに、ストーリーテリング(おはなしを覚えて語る)に挑戦です。

昔、ある旅人が一軒の立派な百姓家にたどりつき、「この家のおやじさま」とおぼしき人に一夜の宿を頼みます。ところが、「わしはこの家のおやじでない。わしのおやじどのにはなしてごらん」と次々と「おやじさまのおやじさま」へと案内されて・・・という内容。はっきりした起承転結があるわけでもなし、あらすじだけ読むと「何がおもしろいの?」となりますが、これがなぜかウケるのです。

最初ざわざわしていた子どもたちも、ひとり、またひとりと、前よりも年をとったおじいさんが登場していくうちに、ぐぐぐーっとおはなしの中に引き込まれていくのを語りながら感じました。クライマックスは最後の七人目のおやじさまの登場シーン。このおやじさまはなんと「かべにかけた つののなか」にいるのですが、この場面のなんとも奇妙で怪しげで不思議な感じは、語っていて本当にわくわくします。

正直、身近に介護が必要な高齢者がいると、ちょっと身につまされるような「おやじさま」たちの姿でもあるのですが、そういう現実を超えておはなしの世界を楽しめるのは昔話ならではだなあ、と改めて思いました。ゆったりと、それこそ暖炉のそばにでもいるような気持ちで語りたいおはなしです。

ユニバーサルデザインの学習とからめて

「七にんさきのおやじさま」が私が語る速さだとだいたい7分ぐらいなので、15分の朝の読み聞かせの時間内であと1冊、用意しなければなりません。「七にんさきのおやじさま」はなかなか個性が強いおはなしなので組み合わせが難しく、さんざん悩んだ末に選んだのは『もうどうけんドリーナ』(土田ヒロミさく 日紫喜均三監修 福音館書店)

4年生はちょうどユニバーサルデザインについて学習したところなので、それと関連づけつつ、バリアフリーや障碍者について関心を深めてもらいたいということで選びました。本選びに悩むときは、こんなふうに学習内容とからめたりもしています。15分という短い時間ですが、「朝の読み聞かせ」の時間が、本というものが知識を広げたり深めたりする入り口になることを伝える機会に少しでもなればいいなと思っています。

盲導犬訓練所で生まれた子犬が、パピーウォーカー(盲導犬訓練所で生まれた子犬を人間との暮らしに慣れさせるために約10ヶ月預かるボランティア)の家族と過ごし、再び訓練所に戻って、厳しい試験や訓練を経て、目が見えない人と共に生きるようになるまでが、シンプルで無駄のない言葉と写真で伝えられます。最後のページの「ふたりは いつも いっしょです。」という一文には、盲導犬がどんなに目が見えない人の人生を支えているかということが伝わってきて、思わずじんと来てしまいます。

『もうどうけんドリーナ』は1983年初版の「かがくのとも」の古典ですが、福音館書店のHPには「品切れ中」という文字が……(今回、私は図書館で借りました)。盲導犬についての本はいろいろあるものの、読み聞かせとなると、情報量が多すぎたり、絵が見えにくかったり、なかなか適当な本がありません。その点、『もうどうけんドリーナ』は必要なことがぎゅっと凝縮されていて、ひらがなばかりでも中学年も十分対象にできる内容です。写真のファッションなどは確かに時代を感じさせますが、品切れなのはもったいないですね。

読んでいただいて、ありがとうございます!