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【朝の読み聞かせ】これぞ理想のお姫さま

ストーリーテリング(おはなしを覚えて語る)を始めて7年ほどが経ちます。正直とても大変ですが、やればやるほど奥が深く、何より聴いている子どもたちの反応が直に伝わり、語り手と聞き手が一緒におはなしの世界に入っていける感覚は、絵本の読み聞かせではなかなか味わえないものです。語り手としてまだ未熟な私は、そこまで至ることも少ないのですが、一度でも体験すると、その深い充足感から離れられなくなってしまいます。

というわけで、小学校の朝の読み聞かせでも、できればストーリーテリングで昔話を子どもに届けたい、と思っています。ただ、小学校4年生以上に聴いてほしい聞き応えのあるおはなしとなると、朝の読み聞かせに与えられている15分をオーバーすることもしばしば。そこで今回は「クルミわりのケイト」『子どもに語るイギリスの昔話』こぐま社)を語ることにしました。私が語る速さで、だいたい12分強かかります。

実はこのおはなし、本当は昨年語るつもりで練習していたのですが、練習しているうち「3年生だとまだちょっと早いかな」と感じ、1年寝かせることにしました。そのときは、なんとなくの感覚でそう判断したのですが、改めて考えてみると、このおはなしは昔話の定番である3回の繰り返しがシチュエーションを変えてさらに3回あり、長さの割には密度が濃いのだということに気づきました。前半と後半で「主人公」も変わりますし、話の展開についていくだけの集中度と理解力が聞き手に求められるように思います。

実の娘と継娘が仲良しという珍しい昔話

昔話のよくあるパターンで「継娘が継母にうとまれ、継母の実の娘からもいじめられる(それでも最後には幸せをつかむ)」というものがあります。ところが、この「クルミわりのケイト」はちょっと違っていて、お妃が継娘のアンをひどい目に合わせるというところまではパターン通りでも、お妃の実の娘ケイトと継娘のアンが本当の姉妹のように仲良しで、最後はふたりで一緒に幸せになるのです。

小学校4年生ぐらいになると、特に女の子はいつも一緒にいる仲良しの友達との結びつきも強くなるので、ケイトとアンの関係に自分たちを重ね合わせてもらえるかなという想いもあって、このおはなしを語ることにしました。

女の子にとって最高のロールモデル

しかも、このケイトというお姫さまが本当に魅力的!

・アンは自分よりきれいでかわいいのに嫉妬しない

・アンが自分の母親(お妃)のたくらみで苦難に陥ったとき、母親(と安定した暮らし)を捨て、アンと一緒に新しい人生を探しに出かける

・誰もが尻込みするようなリスクを引き受ける勇気を持っている

・時と場所をわきまえて、賢く冷静に行動できる

・引き受けたリスクに釣り合う報酬を交渉するしたたかさがある

・幸せを自分の力でつかみ、さらに自分の周囲の人も幸せにする

少々器量が劣っていたって「それがなんだ!」と言いたくなるくらい、実に素敵なお姫さまです。本番に向けて何度も練習するうち、私自身、ケイトのことがすっかり好きになってしまいました。昔話には、勇気と思いやり、賢さにあふれた女の子たちがたくさん出てきますが、ケイトはその中でもピカイチのお姫さまでしょう。これから自分の人生を歩んでいく女の子たちにも、そんなケイトの姿を通して何かを感じてもらえたらいいなと思います。

情景の美しさにひたる

このおはなしは昔話ならではの道具立てもたっぷり。禍々しい力を持つ「鶏飼いのばあさん」、呪いを現実にする「鍋のふた」、真夜中になると病気の王子は寝床から起き上がって馬を走らせ、緑の丘の妖精の舞踏会で踊り明かします。そして、ラストの皆の幸福へとつながる、妖精の赤ん坊がおもちゃにしている杖や小鳥・・・・・・語っていると、美しく不思議な情景が自然と目に浮かび、聞き手を非現実的な空間へと連れ出してくれます。ストーリーテリングでなく、本を読んであげても、このおはなしの美しさは十分伝わると思います。

今回語ったクラスでは女の子たちはもちろん、男の子たちも息を詰めるようにしておはなしに聞き入ってくれました。1年寝かせた甲斐があって良かったです!




読んでいただいて、ありがとうございます!