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【朝の読み聞かせ】身近な食べ物が気づかせてくれること

 高学年ともなると、朝の読み聞かせの時間になっても遅れてくる子が数人いるので、スタートがどうしても遅くなります。高学年ならではの読み応えのある本を読みたい気持ちもあるのですが、実質10分、しかもバタバタ&ザワザワした空気の中では、それもなかなか難しい……でも、短くても、高学年だからこそ深く読める本をできるだけ選びたいと思っています。

食べ物の本は朝にぴったり

 朝だけではなく、どんな時間でも食べ物の本は興味を持ってもらいやすいと思いますが、この『しょうたとなっとう』(星川ひろ子・星川治雄 写真・文 小泉武夫 監修・ポプラ社)は、クラス担任の先生の名前も「しょうた」なので、よけい子どもたちの反応が良かったです。中には「これ知ってる!」「おもしろいよね!」という子もいました。

 5歳のしょうたは、ネバネバして手にくっつく納豆が嫌い。あるとき、おじいちゃんが畑に連れて行ってくれ、「いいものをつくるからな」と大豆をまきます。やがて大豆はしょうたが大好きな枝豆に。秋になり、採れた大豆は来年撒く分を残しておきます。そして、おじいちゃんは茹でた大豆をわらづとに包んで、納豆をつくり、しょうたに食べさせ、しょうたは「おいしい!」と納豆が大好きになる……というお話です。

 私の読むスピードで、だいたい10分の長さですが、素晴らしい写真をじっくり子どもたちが味わえるよう、ゆっくりめにページをめくるのがいいと思います。

 この絵本が発売されたのは2003年。たぶん北国の農家なのだと思うのですが、縁側もある昔ながらの民家に暮らし、とっておきの自家製の納豆を孫のためにつくってやるなんて、とても贅沢なことですよね。対象年齢は年長から小学校低学年となっていますが、大豆から納豆がつくられるまでの過程を描くこの絵本は、理科の授業で植物を育てる経験を何度もしてきた高学年も、十分楽しめると思います。

種はどこから来ているのか

 この絵本の中には、おじいちゃんが収穫した大豆を種として取っておく場面があります。自家採種というのですが、実際に市場に出回っている野菜や豆、穀物は企業などによって生産・販売される種からつくられたものがほとんどです。この種類の種からつくられた作物から自家採種しても、同じようには収穫できないと言われています。

 自家採種の種は、その地域の気候や風土が育んできたもので、多種多様な個性にあふれています。農家が自家採種することは「農民の権利」としてFAO(国連食糧農業機関)でも認められていますが、グローバル化の進展により、その権利が危うくなりつつあります。詳しくは、『種子が消えればあなたも消える 共有か独占か』(西川芳昭 コモンズ)などを読んでみてください。

 ブックトーク的に種や作物、農業についての本を並べて、子どもたちに考えてもらうということもできそうですが、朝読の限られた時間ではとても無理。「このおじいちゃんのように、自分で採った種で作物をつくるのは、今とても珍しいそうです」と一言添えるので精一杯でした。

 子どもたちのために選んで読んでいる本でも、実は読む側の大人の方に発見や学びがあるものですね。


 


読んでいただいて、ありがとうございます!