物乞いを罰するのは間違いなのか?

今年初めての投稿が重いテーマになってしまった感があるが、自分にとって興味深いニュースだったので、ここに記録しておこうと思う。

街で道ゆく人々に物乞いする行為はデンマークでは違法。2017年に罰則が強化され、今では最大6ヶ月の執行猶予なしの懲役。一回目は注意のみ、ではなく、見つかれば一発逮捕。この間、新聞で目にしたのは、最高裁までいき先日2月2日に判決がでたケース。

この話、実際は2年も前に起きた事件。2020年1月14日コペンハーゲン中央駅の入り口で、リトアニア人男性が紙コップを置いて物乞いを始めて5分ほどで逮捕された。裁判の結果、60日の懲役と国外追放判決が出た。この男性が控訴したのは実刑に不服だったわけではなく、この有罪判決によって自身の生きる価値を否定されたから、らしい。職、恋人そして娘を失い(どうやって失ったかは詳しくは記事にはされてないので不明)、失意の中で物乞いをするしか生き延びる道はなかった、というのが男性の言い分らしい。

最高裁までいった背景には、スイスでのケースがあると思われる。非識字者及び無職で貧しいロマ人の女性が逮捕され罰金が課されたのが、それがprivacyの侵害に当たるとEuropean Court of Human Rightsで2021年1月に判決が出た。それでもスイス側は女性の背景も考慮に入れず判決を曲げなかったらしい。(実際は、この女性は罰金が払えなかったので、5日の懲役になったらしい。)この判決も背景に踏まえて、リトアニア男性の弁護士が主点に置いたのは、この法律は表向きは国籍に関係なく適用されるが、結局は物乞いをしている大多数は外国国籍の人たちなので(実際、判決受けた人達の中でデンマーク人は1人だそう)、外国人に対する差別であり、またprivacyや表現の自由の侵害にあたる、というもの。

ただ、スイスの件とは異なる点がいくつか。ロマ人女性は初めて物乞いの罪で捕まった一方、このリトアニア人、以前に既に同じ罪で逮捕されていて(なので今回の懲役日数が長くなっている)、国外退去命令も既に出ている(なのにまだデンマークに留まっている、これ自体違法)。そして今回の逮捕時には600ユーロポケットに入っていたらしい。

そして最高裁での争点は、物乞いを禁止する法律が欧州人権条約に反しているか、という点。結果、最高裁の判決は、この法律は条約に違反していない、というもの。デンマークでは、支援が必要な人は公的扶助を受けれるようになっているので、物乞いをしないと生き延びれないというのは本当に稀だ、というのが最高裁の言い分。(ただ、このリトアニア人男性に限っては、既に以前国外退去命令も出されてるので、公的支援どころではないだろうけど)

そんな大きなケースになったけれど、肝心なこの男性の行方が今は分からないのだそう。え?最高裁まで争った意味は?懲役は?また逃げたの、この人。

そんな中、こんな意見を書いている人が。

なぜ生き延びるのに人に助けを求めることが罪なのか?また物乞いを禁止することによって、人が困っている人に施しをするのも禁止していることになる。童話の中では、困っている貧しい人が助けを求め、その人に自分の分け前をあげる、という話はよくあるが、子ども達にはそういう話を良い話として聞かせるのに、現実にはそれは禁止している社会、それはどうなのか。

言い分としては分からなくもない、というかもっともだ、と思う。だけど、その人が困っているからこそ、物乞いという形ではなく、将来につながる公的支援をすることの方が、現実的にその人のためになるんじゃないのだろうか、というのが私の思うところ。私が、チャリティーなど募金に参加するのは、次につながるからだ。子どもの為の支援活動だったり、災害活動だったり、それを支援することによって、活動対象になっている人たちの今と未来につながると信じているからだ。一方、物乞いで次の道があるのだろうか?国の状況にもよると思うし、そこに住む国民の考え方もあると思う。国によっては、物乞いは社会で受け入れられている国もあるのかもしれない。

ふと気になって、日本のことをグーグルしたら、日本も物乞いすると罪になるのだそう。初めて知った。道に座って、目の前に皿か何かを置いてただじっと下を向いて正座してる人を、日本で今までで一度だけ見たことがある。もしかしてあの人は捕まったのだろうか?日本の場合、罪でも罪にならなくても、社会的に受け入れられてない気がすると感じるのは私だけだろうか?

必要な時に助けを求めるのは間違いじゃないし、そう出来る社会であるべき。ただ、その声は道に座って道行く人ではなく、短期的・長期的視点から社会の一員として共存できるような制度に向かうべきでは、と少なくとも日本やデンマークはそれが可能な土台がある社会ではないかと思う。とは言え、これもまたキレイ事なのかもしれないけど。そして、すでにそういう仕組みが公的なりボランティア団体だったりあるのかもしれないし。色々考えされされたケースでした。

ニュースの出典:
Politikenという新聞の電子版(https://politiken.dk)なのですが、有料記事なので、リンクは貼りませんでした。
Forfatter: At forbyde tiggeri er at forbyde en basal eksistentiel gestus, Maja Lucas, 2022-01-05
Professor kalder det vanskeligt at påstå at en fængselsstraf til tigger fra Litauen er ude af proportioner, Frank Hvilsom, 2022-02-02
Advokat leder efter tiggeren, der tabte papkrus-sag, for at gøre et sidste forsøg på at sejre, Frank Hvilsom, 2022-02-02


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