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プランク定数を暗算で

「ボルツマン定数を暗算で」というノートを書いて、「もしプランク定数の数字を既知の知識から概算したい場合はどうすればいいんだろう?」と思った。エネルギーと温度を結びつけるボルツマン定数なら、まだ日常よく目にする現象と関係しているが、量子性を表すプランク定数は、そもそもめちゃくちゃ小さいこともあってなかなか「日常的」な数字と結びつけるのが難しい。とりあえず日常的かどうかはさておき、自分が知ってる知識からプランク定数を推定してみよう。

プランク定数が出てくる関係式で使えそうなものといえば、光のエネルギー

E = hν

であろう。Eがエネルギー、hがプランク定数、νは振動数だ。これをなにか既知のエネルギーと結びつけないといけない。光の振動数、つまり波長とエネルギーを関連付ける知識が必要だ。我々がよく使うレーザーポインタの波長は、半導体のバンドギャップと関係している。バンドギャップというのは、「電子が溜まっている場所」と、「電子が自由に動ける場所」のエネルギー差で、その差以上のエネルギーを持つ光が飛んでくると電子が打ち上げられ、バンドギャップを電子が落っこちるときにその差に対応する光を放出する。例えばGaAsは、バンドギャップが1.5eVくらいで、(たしか)赤い光が出る。また、GaNはバンドギャップが3.0eVで、青い光がでる。この知識を利用しよう。とりあえず赤い光を採用することにして、

hν = 1.5 eV

という関係式を使う。まずは振動数νを評価しよう。振動数とは、一秒間に何回波が震えるかを表す量であり、単位は[1/s]である。そして、一回波が震えるたびに波長の分だけ前に進むのだから、振動数と波長λの積は速度となる。今は光を考えているので、

c = λ ν

である。光速は「秒速30万キロ」つまり3.0 x 10^8 [m/s]であることは覚えている。問題は波長だが、可視光がおよそ数百ナノメートル程度なのは覚えている。うろ覚えだが、300〜700nmくらいだった気がする。ここでは赤色を「700nm」つまり7 x 10^-7 [m]としてみよう。振動数は

ν = c/λ = 3/7 x 10^15 [1/s]

つまり、サブペタヘルツ、数百テラヘルツくらい?あまり自信が無いが、だいたいこんなもんだったかな。さて、

hν = 1.5 eV

からhを求めるためには、νの他に素電荷eが必要だ。もし素電荷がe = 1.6 x 10^-19クーロンであることを知っているなら

h = 1.5 x 1.6 x 10^-19 x 7/ 3 x 10^-15 = 5.6 x 10^-34 [Js]

と求まる。なんか良さそうな値な気がする。しかし、これは偏見だが、素電荷を知ってるような人はプランク定数も覚えている気がする。そこで、「素電荷も思い出せない」としよう。そうすると、これをさらに別のエネルギーと関連付けないといけない。ここで「1eVがおよそ1万ケルビン」であることを思い出したとする。つまり、

hν = 1.5 eV = 1.5 x 10^4 kT

である。ここでボルツマン定数が思い出せなかったとしても、
・ 標準状態の理想気体が22.4リットルである
・ 標準状態とは1気圧で室温程度の温度である
・ 1気圧で水が10m持ち上げられる
・ 水の重さ(質量)は1ccで1gである
・ 重力加速度は 9.8 m/sである
という知識から、およそk = 1.2 x 10^-23 [J/K]と推定できる。この値を先の式に突っ込むと

h = 1.5 x 7 / 3 x 10^-15 x 10^4 x 1.2 x 10^-23 = 4.2 x 10^-34 [Js]

となり、まぁ先の計算とオーダーはあう。このあたりで答え合わせをしよう。

「OK Google!プランク定数を教えて」

6.62607004 × 10^-34 m^2 kg / s

だいたい6.6 x 10^-34 [Js]ですか。だいぶいい加減な推定をしたわりには、二倍ずれなかったですね。

またずれの原因を見てみよう。我々は700nmの光のエネルギーを1.5eVと推定したけれど、 波長[nm]とエネルギー[ev] には関係式

e = 1240/ λ [eV]

が成り立っている。そういえばこんな式を見た気がする。半導体に詳しい人は、光速とか計算せずに、いきなりこの式が出てきたかもしれませんね。で、ここに700nmを突っ込むと1.8eV。だいぶ低く見積もってしまった。また、「赤い光の波長が700nm」というのはわりと良い推定だったようだが、逆に1.5 eVのバンドギャップから出てくる光の波長はもっと長かったようだ。

あとは、先のノートでも出てきたように「1eV = 11605 kT」を「1eV = 10^4kT」と近似しているのも低めに見積もる原因になってますね。でもまぁはしごを何段もかけたわりには、二倍ずれなかったのでよしとしましょう。

というわけで、プランク定数を「日常の知識」から推定するには

・ hν が光のエネルギーを与える
・ GaAsのバンドギャップは1.5eVで、そこから赤い光が出てくる
・ 素電荷を知っている。もしくは、ボルツマン定数を知っていて、かつ1eVが1万ケルビンに対応することを覚えている。

というのが条件。結構たいへんですね。他にもっと簡単なパスはないのかな。

ちなみにボルツマン定数を「日常の知識」から推定するには、
・アボガドロ数を知っている
・ボルツマン定数とアボガドロ数の積が気体定数を与える
ことを知っている必要があって、気体定数を知っていればここで終わりなんだけれど、その値を覚えていなければ、
・理想気体の状態方程式を覚えている
・標準状態の定義と、標準状態の理想気体体積を覚えている
・一気圧をN/m^2の単位で表す
ということをしなければならなくて、なかなか大変。

あと、今はどうか知らないんだけど、僕が気体定数を習った時ってSI単位系ではなく、リットルとatmとかで表したやつだった気がして、気体定数のおよその値はぼんやり浮かんだんだけど、それがSI単位系だったかリットルとatmで表したやつだったかが曖昧で、結局他の知識から気体定数を導く必要があった。今はその辺どう教えてるんでしょうかね?

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