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読書日記:「氷点」三浦綾子


辻口病院長夫人・夏枝が青年医師と逢い引きしている間に、3歳の娘ルリ子は殺害された。「汝の敵を愛せよ」という聖書の教えと妻への復讐心から、辻口は極秘に犯人の娘・陽子を養子に迎える。何も知らない夏枝と長男・徹に愛され、すくすくと育つ陽子。やがて、辻口の行いに気づくことになった夏枝は、激しい憎しみと苦しさから陽子に気づかれないように冷たい仕打ちを続ける。徹は陽子に愛情をそそぐが、思いを自制するために友人・北原に陽子を紹介する。北原と陽子は心通わせるが、夏枝は複雑な嫉妬心から、2人に陽子の出生の秘密をぶちまけてしまう――。

あらすじだけは聞いていて、ずっと本棚にはあったものの長い間読まずにいたこの本をようやく手に取った。

不貞をはたらいた妻への復讐として、自分の娘を殺した殺人犯の子どもを養子にもらうことを企む啓造

お嬢様育ちで我儘、自分が美しいと思うものしか受け入れられない夏枝

各々正義とするところに違いはあれど、やはり義を通すようで自分の欲には忠実。性悪説である原罪をテーマに掲げてはいるが、やはり罪を背負って生きる人々の生々しさには堪える。

人間の浅はかさ、欲望の醜さ、歪んだ思考…
「自分は悪くない」と思いたいがために罪を他者になすりつける大人たちの物語。
特に夏枝に関しては不愉快を通り越して読むのが苦痛。

身勝手な大人たちとは対照的に、真っ直ぐに生きる陽子が唯一の余白に思え、超然的な態度は純真無垢な者として眩しさが際立つ。

そんな欠点だらけの人間たちから学ぶことは多く、幾つもハッと胸を衝かれるようなセリフもあった。

ただひたすら、石にかじりついてもひねくれまい、母のような女になるまいと思って、生きてきた。が、それは常に、自分を母より正しいととすることであった。相手より自分が正しいとする時、果して人間はあたたかな思いやりを持てるものだろうか。

三浦綾子「続 氷点」(下)より

どこかで雪解けの音が聞こえた気がした。


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