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リスペクトと勲章〈うみいろノートNo.39〉

最近、お笑い芸人へのリスペクトが止まらない。

ほんの数年前まではお笑いに大して興味もなかった。
年に一度開かれるM-1グランプリや、何となくつけたテレビのバラエティー番組に登場する芸人を見かける程度だった。だから、好きな芸人を聞かれても、鼻をかきながらやり過ごしていた。

しかし、2015年に芥川賞を受賞したピースの又吉直樹や、それぞれの感性を引っ提げて書かれたエッセイがヒットを飛ばしているオードリーの若林正恭、南海キャンディーズの山里亮太、ハライチの岩井勇気らの出現で、芸人に対する見方は変わっていった。

その最大の理由は、芸人は作家などの芸術家と同じく、自らが作り上げた世界観を観客に伝える力が並外れていることに気づいたからだ。

それは単純に面白い言葉だったり、鋭いツッコミだったり、変なキャラクターだったりする。
しかし、そこには綿密に練られた計算があり、数多くの経験があり、揺るがない自信がある。だからこそ、人気に火がついた頃には一気にスターダムにのし上がれる力を秘めている。

人を笑わすことは難しい。
限られた人の輪で形成されている僕でさえそう思うのだから、見たことも会ったこともない不特定多数の人たちを相手にしている芸人の苦労は計り知れない。

ここまで熱弁してしまったけど、僕も一度だけ漫才のネタを考えたことがある。
設定は旅行帰りの友人が買ってきた独特なお土産にツッコミを入れていくシンプルな内容だ。
僕はそのネタをあろうことか、お笑い好きで関西出身の友人を相方にして何人かの前で実演した。

つまり、自分なりに自信があったのだろう。しかし、結果は大敗。その場は愛想笑いに包まれ、人生でベスト3に入る赤っ恥をかいた。

それでも、最初で最後の相方になってくれた友人は「恥こそ芸人の勲章だ」と励ましの言葉をくれた。
振り返れば、彼には芸人の道でやっていける素質があったのかもしれない。普通、あんなに恥ずかしい思いをしたら夢破れてお笑いが嫌いになるはずだ。

なのに、顔を見てみれば「これからどんどんやったるで」と言わんばかりの勇ましさを放っている。
きっと、当時の彼は気づいていたのだと思う。まずは人を笑わすのではなくて、指をさされながら笑われてみようと。

彼の言う"勲章"は、恐らく少しずつ輝きを増していくのだろう。そんな風に一途に挑戦を続ける人がもし目の前に現れたら、「もう何もボケてないで」と困り顔をされるまで負けじと笑い続けたい。
たとえ「分かりにくいんや!」と言われても、それが僕なりの"リスペクト"の表明なのだ。

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進藤海/六月雨音/ようじろう/小宮千明/モグ。4人のライターがそれぞれの担当曜日に、ジャンル問わずそれぞれの“書きたいこと”を発信。

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